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通信・ネットサービス会社の電力ビジネス戦略とは

今年4月からの小売電力の全面自由化を控え、さまざまな業種の企業が、新電力として電力ビジネスに参入しています。新電力は50kW以上の高圧電力需要家向けにすでに電力供給を行っていますが、4月以降の低圧電力需要家向けには、新たに小売電気事業者として経産省に登録の上、電力ビジネスに参入することになります。このように新電力は、高圧、低圧電力のすべての需要家向けに電気の販売に乗り出すことになります。そうした新電力の中で、とりわけ電力ビジネスに強い意欲を持っているのが通信・ネットサービス会社といわれます。電力とはおよそ無縁と思われるこれら通信・ネットサービス会社の電力ビジネス参入の戦略を探ってみました。

 

部分自由化の過程で新電力が参入

新電力は、2000年から始まった電力の部分自由化の過程で、電力ビジネスに参入してきた企業で、当初は契約電力が2000kW以上の特別高圧、次いで500kW以上の高圧電力、さらに50kW以上の高圧電力という形で、部分自由化の範囲が広がるにつれて、供給対象を広げてきました。新電力が法律用語で、「特定規模電気事業者:PPS」と呼ばれるのも、そうした特定規模の電力需要家を対象としてきたことに基づく名称です。

小売電力の全面自由化では、一般家庭などの低圧需要家も自由化対象となりますが、低圧需要家に電気を販売する場合には、経産省に登録する必要があります。小売電気事業者として登録された企業の中には、特定電気事業者もいれば、新たに登録した電気事業者もいます。通常は、こうした特定規模電気事業者や登録小売電気事業者を、既存の電力大手と区別するため、新電力という通称で呼ばれます。

新電力としては、1月現在、特定規模電気事業者が約800社、登録小売電気事業者が約120社(一部特定規模電気事業者と重複)と、多くの新電力が、電力販売にしのぎを削ることになります。新電力は、電気、ガス、石油などのエネルギー関連企業はもとより、石油化学、製紙業などの製造業、住宅メーカー、鉄道会社など、それこそ千差万別の業種の企業が参入しています。そうした中で、注目されているのが、通信・インターネットサービス会社です。

 

ソフトバンク、楽天、KDDIなどが電力ビジネスに

通信・ネットサービス会社では、一般に良く知られているソフトバンクグループ、楽天グループ、KDDIなどがあります。これらの会社は2014年から15年にかけて、電力ビジネスに本格的に参入しました。ただ、ソフトバンクグループは、それ以前に、いち早くエネルギー事業に進出しています。グループ会社のSBパワーは各地で再エネの発電事業を展開し、2014年12月には、同社は一般家庭などの低圧需要家向けに太陽光発電買取サービスを開始しました。

楽天は、グループ会社の楽天エナジーを通じ、2013年12月から、「電力マネジメントサービス」を始めています。直接電気の販売ではありませんが、企業などの電力需要家に代わって電力会社と契約を結び、需要家の求める最適な電力を、従来より安く提供するビジネスです。顧客が自然エネルギー100%の電力を求めた場合、その電力を、電力事業者から調達して供給しようというわけです。自然エネルギーを含めて、どのような電力事業者が、どんな種類の電気を販売しているのかは、分かりづらいのが実情ですが、楽天は、需要者の求めに応じて電力事業者を選択したり、面倒な電力購入手続き代行してくれます。

KDDIも2015年10月に、一般家庭向けの電力小売りをめざして、経済産業省に小売電気事業者としての登録を申請しました。固定電話やインターネット回線とのセットで契約で、電気料金を割安にできる料金プランを考えています。KDDIは、子会社のジュピターテレコム(J:COM)を通じて、すでに自由化されている50kW以上の高圧電力需要部門で、マンション向けなどに電力を販売しています。

 

エネルギー分野で主導的地位確立へ

通信・ネットサービス会社の電力ビジネスへの参入は、電力売買や情報サービスの提供、さらには、顧客の固定化を図るなどが目的とされています。しかし、それ以上に見逃せないのは、通信・ネットサービス会社の情報・インターネット技術を武器に、エネルギー分野で主導的地位を確立することに狙いがあるようです。

電力事業はこれまでは、規模の大きい地域電力会社が、発電から送配電、小売り販売までを一貫して運営する、いわば地域独占経営体制がとられてきました。全面自由化後は、新電力が数多く電力ビジネスに参入し、大手電力会社と競争を展開することになります。

 

重要な需給バランスの維持

電力ビジネスで最も重要なことは、電気を安く売るということもさることながら、より見逃せないのは、電気という商品特性上、需要と供給を常に一致させなければならないと言う点です。電力業界ではそれを「同時同量ルール」と呼んでいますが、30分単位で需給のバランスをとらなければならないというわけです。

従来の地域独占による一貫体制のもとでは、時間帯、季節によって変わる需要変動には、地域電力会社が発電設備の供給量を調節することで対応することができました。しかし、新電力の場合は、大手電力会社のように、多種多様な供給設備を持たないところが多く、需給の調整は困難です。

 

高額なインバランスペナルティ

新電力が需給の調整をするには、需要と供給の双方の電力状況をウオッチし、バランスを維持することが求められます。バランス維持ができなかった場合、新電力は、地域電力会社の送配電部門に対して、高額なインバランスペナルティ(供給不足による罰則金)を支払う必要があります。新電力が電力ビジネスで最も大きな課題となるのは、インバランスペナルティをいかに抑制するかという点です。そのため、新電力にとっては、電力需給のバランス維持が極めて重要となります。電力需給のバランス維持には、需給の予測や監視技術が不可欠となります。通信・ネットサービス会社のインターネット、通信技術は、そうした需給バランスの維持に強い味方となるのです。

 

バランシングループで勢力を築く

需給バランスの維持には、新電力1社ではなく、複数社か集まってグループでの需給調整のほうが効果的と言えます。電力融通の幅が広がるからです。そうしたいくつかの新電力によるグループは「バランシングループ」と呼ばれます。新電力が、発電設備を多数抱えた大手の地域電力会社に対抗するには、バランシングループでより大きな勢力を築くことが重要になります。バランシンググループのリーダーとなり得るのは、需給調節に不可欠の通信・ネット技術を持つ、通信・インターネットサービス会社と言えるでしょう。

 

まとめ

電力は貯めておくことのできない特殊な商品であり、常に需給のバランスを維持する必要があります。そうした商品特性をうまくコントロールする技術を、通信・ネットサービス会社が持ち合わせており、それをフルに活用することによって、いくつかの新電力をまとめあげることができるのです。通信・ネットサービス会社にとっては、バランシングループのリーダーとして、大手電力会社に対抗して電力業界における主導的地位を確立することに、大きな戦略的目的があるといえます。