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ノンフロンな世界-欧米各国の動向とフロン対策

オゾン層の保護や地球温暖化防止に向けたノンフロン化への動きを、国内について見てきましたが、今回は、海外の動向や欧米各国の取組をご紹介します。

 

1974年にオゾン層へのフロンの影響を指摘

海外でオゾン層保護の重要性が指摘されたのは、1974年、米国カリフォルニア大学のローランド教授が、オゾン層に対するフロンの影響を指摘したことが契機となっています。地球上の生物を保護するオゾン層が、フロンなどの化学物質の影響で破壊され、オゾンホールとなって有害な紫外線を地球上にもたらします。そのため、フロン類の規制の必要性が世界的に高まり、1987年にモントリオール議定書が採択され、オゾン層を破壊する物質の生産・消費の全廃やそのスケジュールなどが決められました。モントリオール議定書はその後2007年まで6度にわたって規制が強化されています。

モントリオール議定書による、各国のオゾン層破壊物質の削減義務により、破壊物質の生産量は、1989年の180万トン(オゾン破壊係数による換算)以降、95年の50万トンにまで急速に減少しました。その後、減少幅はゆるやかになり、2008年には5万トン(環境省データ)にまで減少しました。一方、オゾン層破壊物質の先進国における消費量の推移をみると、特定フロンの中で最も温室効果の高いCFCは、2009年末でほぼゼロとなっています。特定フロンのHCFCに関しては、先進国は2020年までに生産・消費をゼロにすることが義務づけられています。

 

米国で代替フロン排出量が25%増加

特定フロンの削減の一方で、各国では代替フロン(HFC)への転換が進んだため、現在、代替フロン等の排出量が増えています。特に米国は、2001年の排出量約1億2000万トン(CO2換算)から2007年には約1億5000万トンに、25%も伸びています。EU(15ヵ国ベース)は2001年の約6000万トンから、2007年に約7000万トンに、約16%の伸びとなっています。それに対して日本は、同じ期間に約3000万トンから約2400万トンに20%削減されました。

 

中国、ロシアの排出量が目立つ

以上のデータは、国連気候変動枠組条約ホームページの報告書をもとに、環境省が作成した数値ですが、それとは別に、IEA(国際エネルギー機関)が、2005年の各国の代替フロン等の排出量の推計値をまとめています。この推計値は、国連気候変動枠組条約ホームページの報告書とはベースが異なるうえ、不確定要素も多いとされています。IEAの推計値で注目されるのは、中国やロシアの排出量が目立っていることです。米国やEUの排出量が多いことは、二つのデータでほぼ共通していますが、中国の排出量が、EU(27ヵ国ベース)を抜いて、米国に次ぐ排出量となっています。また、ロシアも、日本を大きく上回る排出量となっています。代替フロン等の排出は、オゾン層の破壊にはつながりませんが、温室効果の大きさの点で、CO2をしのぐものであり、近年の中国、ロシア、米国の温室効果ガス増大の要因とみることができます。

 

米国は大気浄化法で排出防止に力入れる

代替フロン等の排出増大に伴い、各国では様々な規制や対策に取り組んでいます。米国では、大気浄化法に基づいて、代替フロン等の使用時における排出防止に力を入れています。この法律は、フロン類などのオゾン層破壊物質を冷媒として使用する機器(空調機器や冷凍・冷蔵機器)を対象とし、定期点検による漏えい検査や、漏えい記録を義務づけています。定期点検によって、漏えい率が空調機器の場合15%、産業用機器の場合35%を超えるケースでは、点検後30日以内に修理しなければなりません。その際の冷媒の充てん量は50ポンド(約23kg)以上とされています。点検や修理、廃棄を行う技術者は、EPA(環境保護局)の認証を受ける必要があります。

米国の場合、州によっても規制や取組が異なります。カリフォルニア州では、高GWP冷媒管理規則によって、漏えい検査がなされています。高GWPは地球温暖化係数(温暖化効果)の高い冷媒であり、対象としては、特定フロンのCFCやHCFCあるいは代替フロンのHFCを50ポンド以上含む冷凍・冷蔵機器です。これらの冷凍・冷蔵機器については、カリフォルニア州は、冷媒充てん量の大きさによって、年1回~4回の定期点検を義務づけています。
冷媒充てん量が2000ポンド以上の機器については、自動漏えい検知システムによる検査を義務づけています。

高GWP冷媒管理規則では、漏えい発見から14日以内、漏えい検査不合格から14日以内に機器の修理をしなければなりません。漏えい検査で3回連続して不合格の場合、当該機器を回収、または廃棄しなければなりません。検査における記録や修理記録の保管は、大気浄化法の規定と同じです。

 

EUはFガス規則で漏えい防止

EUでは、Fガス規則によって、代替フロンガス等の冷媒の漏えいを防止しています。Fガスは、具体的には、代替フロンのHFC(ハイドロフルオロカーボン)、PFC(パーフルオロカーボン)、SF6(6フッ化硫黄)の3種をさします。日本では、「代替フロンガス等3ガス」と呼んでいます。Fガス規則は、2006年7月から施行され、冷媒使用機器に対して定期的な漏えい検査や冷媒の回収などを義務づけています。

オランダは、STEKシステムという形で、フロンガス等の排出抑制の管理を行っています。STEKは空調・冷凍機器の冷媒の取り扱いを認可する財団で、1991年に設立されました。EUにおけるFガス削減に向け、STEKが取り組んでいるさまざま活動をSTEKシステムと呼んでいます。その取組によって、1990 年から 2010 年の 間にFガス全体の排出量は36%減少し、2000年から2010 年では19%減少すると予想されています。

英国では、「Real ZERO project」という冷媒漏えいの削減プロジェクトが実施されています。英国冷凍協会が中心になって取り組んでいる活動で、機器設置者やメンテナンス業者向けにガイドブックや漏えい検査方法の紹介などを行っています。

 

経済的インセンティブで削減効果高めるドイツ、デンマーク

ドイツやデンマーク、ノルウエーは、補助金や課税など、経済的なインセンティブによって、Fガス削減の効果を高めています。ドイツの場合、高効率かつノンフロン冷媒の使用設備に対して35%の補助を行っています。デンマークは、3種類の代替フロンガスをGWPの係数度合で課税しています。また、ノルウエーは、代替フロン冷媒の販売時に温室効果ガス税を課税し、回収の際に還付する仕組みを設けています。

現在、世界的に多く使用されている代替フロンの冷媒は、こうした各国の取組によって、排出抑制が進む一方、フロンに代わるCO2やアンモニアなどの自然冷媒への転換すなわちノンフロン化が今後進むとみられます。