高齢者介護施設は、感染症に対する抵抗力が弱い高齢者が集団で生活しています。特に冬はインフルエンザの流行により、重篤な症状を引き起こしたり死に至ったりするケースも見られ、感染の被害を最小限にすることが求められます。今年度のインフルエンザの傾向と対策を紹介します。
インフルエンザとは
インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であり、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき重篤になりやすい疾患です。毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1~3月頃に患者数が増加し、4~5月にかけて減少します。流行の程度とピークの時期はその年によって異なり、まれに夏季に発生することもあります。
インフルエンザウイルスの特性
核蛋白複合体の抗原性の違いから、インフルエンザウイルスはA型、B型、C型に分類されています。ウイルスの膜の表面にヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)の2種類の突起を有しており、インフルエンザの予防は、この突起(特にH)に対する防御のための抗体を持っているかが分かれ目になります。現在、ヒトの世界で流行しているのは、A/H1N1型ウイルス、A/H3N2型ウイルス、B型ウイルスの3種類であり、これらのウイルスの違いで症状等に大きな違いはないと言われています。
インフルエンザの症状
典型的なものでは、発病は急激で高度の発熱、頭痛、腰痛、筋肉痛、全身倦怠感などの全身症状が現れ、これらの症状と同時またはやや遅れて、鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状が現れます。熱は急激に上昇して40度前後に達した後、諸症状とともに次第に回復し、一週間程度で快方に向かいます。なお、体力のある人は高熱や節々の痛みなどの激しい症状が現れやすいものの、高齢者や体力のない人では強い症状があまり出てこないため、発見が遅れることがあります。
今年の傾向
12月に入り、多くの都道府県がインフルエンザの流行期に入ったと発表しています。長野県や福井県では集団感染により、すでに学級閉鎖となった小学校も出始めています。国立感染症研究所の週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数(12月5日時点)を見ると、流行ウイルスはA型のH1pdm09が72.6%で主流となり、2011年以降の8年間で4番目の多さとなっています。
インフルエンザの予防方法
感染症は、感染経路と原因微生物によって引き起こす症状が異なります。インフルエンザやノロウイルス感染症など流行を起こしやすい感染症は、職員、面会者、委託業者、ボランティア、実習生、新規の入所者などが外部から施設内にウイルスを持ち込むことが理由と考えられます。
1. 手洗いとマスクの着用を徹底する
感染対策では感染症の病原体を施設の外部から持ち込まないようにすることが重要です。予防方法として最もシンプルな方法は、「手洗い」と「マスクの着用」です。職員は、入所者と日常的に長時間接するため、特に注意が必要です。日常から健康管理を心がけるとともに、感染症に罹患した際には、休むことができる職場環境づくりも必要です。また、定期的に活動するボランティアや、面会に来られる家族にも同様の注意が必要です。
2.ワクチンを接種する
ワクチンの接種も効果的です。厚生労働省の研究班の分析では、65歳以上の高齢者はインフルエンザワクチンの接種によって発症リスクを34~54%、死亡リスクを82%減らせると報告しています。介護施設において予防注射は任意で行われますが、公的調査の結果などを説明し、できるだけ摂取してもらうことが望ましいと言えるでしょう。ただしインフルエンザウイルスは変化しますし、異なるタイプのウイルスには効力を発揮しません。予防注射が完ぺきではないことも忘れずにお伝えください。
平成30年度インフルエンザQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
主な感染経路と原因微生物
感染経路 | 特徴 | 主な原因微生物 |
接触感染 (口腔感染含む) | 手指・食品・器具を介して伝播する頻度の高い伝播経路である。 | ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、緑膿菌など |
飛沫感染 | 咳、くしゃみ、会話などで、飛 沫粒子(5μm 以上)により伝播する。 l 1m 以内に床に落下し、空中を 浮遊し続けることはない。 | インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、風しんウイルス、 レジオネラ属菌 など |
空気感染 | 咳、くしゃみなどで、飛沫核 (5μm 以下)として伝播する。 l 空中に浮遊し、空気の流れにより飛散する。 | 結核菌 麻しんウイルス、水痘ウイルスなど |
血液媒介 感染 | 病原体に汚染された血液や体 液、分泌物が、針刺し事故等により体内に入ることにより感染する。 | B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) など |
新薬が開発されました
インフルエンザの薬として「タミフル」が広く処方されていますが、2018年3月に新たな治療薬として「ゾフルーザ」が発売され保険適用となりました。
インフルエンザウイルスは、鼻や喉の粘膜の細胞に入り込んで増殖します。増殖したウイルスは次々と別の細胞に入り込んで増え続け、24時間で100万倍も増えるといわれています。これまで使われてきた治療薬は、細胞内で増えたウイルスが細胞から外に出るプロセスをはばむことで、周りの細胞に感染が広がっていくのを防いでいましたが、ゾフルーザは、細胞内でのウイルスそのものが増えないようにする働きがあります。ウイルスの排出を止める効果はタミフルよりも高いといわれていますが、使用され始めたばかりで臨床データが少ないため、実際の効果が注目されています。
集団感染の危険に注意
インフルエンザは高熱を発症するだけでなく、インフルエンザ脳症やウイルス細菌混合性肺炎など合併症状を引き起こす原因になります。死亡のリスクは高齢になるに従い高くなっています。ウイルスが施設内に持ち込まれると、集団感染のリスクが高くなります。しっかりと対策を取り十分に注意してください。