「責任逃れをしていませんか?」 トップの自責のなさが介護人材不足を招く

 

2019年の老人福祉事業者の倒産件数が96件となり過去最多を更新しました。介護業界は慢性的な人手不足であり、介護サービスが提供できず倒産に陥った事業所が多いと言われています。介護業界が人材難である理由として、個人の問題だけでなく、事業所の方針や無理解も挙げられています。事例やSNSに寄せられた声をもとに、人が定着しない介護事業所の実態を報告します。

 

人手不足で倒産する件数が過去最大に!

帝国データバンクは従業員不足による収益悪化などが要因と考えられる倒産を「人手不足倒産」と定義し、2019年1~12月に発生した倒産について集計・分析。人手不足倒産は185件(前年比 20.9%増)発生し、「4年連続で過去最多を更新した」と発表しました。

介護業態別では「訪問介護」(51件、構成比53.1%)の倒産が最も多く、以下「通所介護」(24件、同25.0%)、「老人ホーム」(10件、同10.4%)、「高齢者向け住宅」(6件、同6.3%)と続いています。倒産に至る前に廃業したり売却したりする事業所も少なくないため、実数はもっと多いと思われます。

 

働きたくなる組織と嫌煙される組織

ひとくくりに「介護業界に人が集まらない」と言われていますが、これまで取材した事業所の中には、「職員募集に問題がない」という事業所がいくつかありました。共通点は「トップの考えや行動が理念に沿っている」、「自律した仕事ができる」、「スキルアップできる」、「適正に仕事が評価されている」、「労働環境がよい」の5つです。人が集まらなかったり、定着しなかったりする事業所には相応の理由があります。実話に近いフィクションで問題がある組織の例を紹介します。

 

株式会社Kの倒産理由

県内で介護施設を広く展開する「株式会社K」は、早くて数日、長くても1年未満で介護士が退職してしまうため、常に補充が必要な状況が続いていました。本部は離職者が多い理由を「介護現場に問題がある」と考えており、各施設長に採用及び退職防止の強化を強く求めていました。

グループ内の有料老人ホームJの施設長(男性)は他業種からの転職組です。この会社の裁量権は事業本部長(女性)が握っており、施設長は中間管理職的な立場でしかありませんでした。この組織では何をするにも事業部長に伺いを立てなければ行動できず、職員たちからは「ママに相談しなければ何もできない男」と陰口をたたかれる始末。Jを信頼する職員はほとんどいませんでした。

自分の遠心力がないことに憤りを感じていたJは、職員を威圧することでプライドを保っていました。「部下と共に働く」という考えではなく、「部下に働かせて成果を上げる」という摂取的なスタイルを好み、施設内で起きたトラブルなどは、「人手不足を言い訳にするな」「現場で対応しろ」と、業界経験のある事務長や介護主任などに丸投げ。本来は上申しなければならない案件も報告を怠るなど保身が目立ちました。

どうしても本部の対応が必要な案件が発生すると、「お前たちがヘマをしたせいで俺の評価が下がる」「部長になんて報告すればいいんだ」と職員を怒鳴り散らす始末。自己中心的で思いやりもなく、責任を部下に負わせるが自律性は持たせないため、職員のストレスが限界になり退職する人が続出しました。

他で雇ってもらえないなど一癖も二癖もある人ばかりが残り、新しく入った介護士もすぐに逃げ出していきます。常に求人掲載を行う必要がありましたが、それが仇となり、地元の介護士たちに「ブラック企業」のレッテルを張られ、さらに採用が困難になりました。

法人では「自分たちが受けたい医療と介護の創造」という理念をかかげていましたが、地域から「高い理念、低いサービス」と揶揄される始末。職員人手不足とサービスの低下というWパンチを食らい、株式会社Kは倒産しました。

 

 

SNSに寄せられた現場の声

人が辞める理由、人が集まらない理由は個人的な問題と考えられがちですが、私は職員が定着しない組織は、社員よりも経営者などトップに大きな問題があると考えています。本当の退職理由は語られることはありませんし、リサーチされることもありません。SNSに寄せられている介護職員の声をピックアップしました。

※コメントは編集を加えています。

  • 認知症の方に殴られても我慢しなくてはならないなど、働く側の人権が守られていない。
  • 達成困難な理念を押し付けられたうえに、事故などがあるとスタッフの責任にされる。
  • 人手が足りない状況で事故が起きたのに「人手不足を理由にせず皆で何とか頑張りましょう」で片付けられ、職員の具体的な要望や提言を聞いて貰えない。
  • 人手不足で発生した事故であるのに「工夫が足りない」で片づけられ、事故対策のために無給残業や無給出勤が強いられる。
  • 現場の状況を知らない上司が体制を整えずに次々と新しい人を入居させる。まずは上司がフロアの職員や一日の流れ等を知り、実情を理解しないと職員の不満が爆発する。
  • 考えの古い管理者、お局、古参が自分の価値観を押しつけすぎる。それが原因による退職で人不足に陥っていることに経営者が気付いていない。
  • 介護を金儲けとしか思っていない経営者の下で働かざるを得ない現状に嫌気がさしている。
  • 経営者が現場を理解したうえで改善する意識を持っていないと、働く側は常に矛盾を抱えて仕事をしなくてはいけない。

 

トップの自責のなさが介護人材不足を招いている

日本郵政グループの不祥事における記者会見でも見られたように、企業のトップは自ら責任を認めることを嫌う傾向があります。しかし問題を現場に押し付け、開き直るようなトップの下で誰が誇りを持って働けるでしょうか。トップの自責のなさが介護人材不足を招いていることは重々にあります。「原因は自分にあるかも知れない」という謙虚な気持ちを忘れないでください。

 

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吉田匡和

介護ライター 福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。 https://buleorca.webnode.jp/

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