国は2019年4月に新たな在留資格「特定技能」の導入を予定しており、今後多くの外国人が日本で就労することが見込まれています。外国人介護士の活躍の場を広めることを目的として、一般社団法人外国人介護職員支援センター(千葉県市川市)は、外国人介護福祉士支援教室をフランチャイズ展開する準備を進めています。代表理事の井上文二氏に話を伺いました。
法人の成り立ち
「一般社団法人外国人介護職員支援センター」は、井上氏が2004年に設立した会社を前身とし、在日外国人の介護資格取得支援を行っていました。都合により2016年に会社を閉鎖するものの、「外国人が日本の介護現場でさらに活躍できるよう支援活動を展開したい」と情熱のもと、ボランティア団体を組織。同年7月より無料の外国人向け介護の日本語教室を開始しました。翌年2月から毎週土曜日の夕方に、実務経験のある外国人介護職向けに介護福祉士国家試験対策講座を開講。参加者に負担をかけないよう、実費程度(1000円)を徴収するなど、外国人介護職を支援する準備を進めてきました。
2018年1月に一般社団法人外国人介護職員支援センターを設立。技能実習生用の「新介護の日本語」のカリキュラムに沿った日本語教室を千葉県市川市内の教室にて開講する予定のほか、オンライン学習や外国人介護職導入に関連する経営・人材コンサルティング等の企業向けサービスを展開します。また、外国人向け介護福祉士受験対策講座や外国人向け介護日本語教室の指導方法を市川市以外でも開催できるよう、フランチャイズ教室の展開を企画しており、2019年2月12日に神奈川県相模原市在住のボランティアが相模原市内で第一号となる教室の開講を予定しています。
教室を訪問しました
市川市の集会所で開催されている教室を訪れました。毎週木曜日と土曜日の2回開催され、15時50分から18時までが補講、18時30分から20時30分まで通常授業が行われます。一回の参加料は1000円。いつもはテキストに沿った授業が行われているそうですが、この日は国家試験まで約2か月と迫っていることから、パワーポイントを使った直前対策授業が行われていました。
受講生は18名ほどで全員フィリピン人です。EPAや技能実習生ではなく、日本で家庭を持ち、すでに正職員として介護施設に勤務している方々だと言います。試験問題には「明順応・暗順応」や、「弁別能力」など、日本語が堪能な受講者でも日常的に使わない言葉が並びます。普段の授業では合格ラインと言われる6割の正答を目指してカリキュラムが組まれ、知らなくては意味が通じない言葉については、漢字の成り立ちから教えています。
楽しむことが学びの基本
授業は試験に向けてストイックになるのではなく、みんなで学ぶ楽しさに溢れています。テーブルにはお菓子や飲み物が広げられ、時には笑いが起こります。「すでに勤務しているのなら、無理に国家資格を取得する必要がないのでは?」との問いに、井上氏は「外国人であることや、資格がないことで彼女たちは随分と悔しい思いをしてきている。すでに離婚し、子供を抱えながら頑張っている人も多い。昇格や転職など、日本人と同等に扱われることを希望して国家資格を目指している」と教えてくれました。
今回のフランチャイズ展開は、「公文式のような方式です」と説明されました。原則、講師は介護職経験者で、後輩指導に関心をもっている人が前提となります。イメージとしては、同法人のフランチャイズシステムを利用して現役または退職した介護福祉士が教室を開講したり、事業所が外国人介護士の研修の一環として導入することを想定しています。本部授業のビデオを視聴しながら解説を加える方式のため、講師は事前に本部授業ビデオと使用テキストで準備するだけで授業の質は十分担保される仕組みであり、「教えたい」という意思があればフランチャイズ授業の進行は容易だと強調します。
共生できる社会に寄与
井上氏は、「介護の担い手が不足し、外国人の協力を得なくては介護業界が成立しなくなるのは事実。まじめで高齢者を思いやる国民性のフィリピン人の気質は介護に向いている。新たな在留資格「特定技能」によって、さまざまな国から外国人がやってくると思うが、まずはフィリピン人が国家資格を取得して、彼らのよき先輩、リーダーとして活躍してもらうことが必要だ」と言います。
受講者の最初のチャレンジとなった2018年度の国家試験では、合格は1名のみだったが、合格点にわずか1点から数点足りなかった受講者が4名おり、次回の再チャレンジに向けて勉強中です。また1点足りなかった受講生は、その実力を買われて現場のリーダーに抜擢されました。フランチャイズについて井上氏は、「この展開を通して、日本人と外国人が日本の社会で共生しながら介護現場を明るくし、高齢者が安心して介護を受けられることに寄与したい」と結びました。