臨時国会最大の焦点となっていた改正入管難民法などが、2018年12月8日に国会で正立しました。
在留資格を新設して外国人労働者受け入れを拡大することを目的として政府は、人手不足が問題視されている介護分野に、5年間で最大6万人の受け入れを見込んでいます。一方で17年に始まった介護分野の技能実習で予定通りに人材確保が進んでいないことや、外国人実習生がパワハラやセクハラを受けていること、最低賃金以下で長時間労働を強いられるなど、国際問題に発展しかねる事実も発覚しています。
在留資格「介護」成立までの経緯
日本は2006年にフィリピン、2007年にインドネシア及びベトナムと合意に達し、経済連携協定(EPA)による外国人介護士の受け入れがスタートしました。
東南アジアの3カ国と介護人材の受け入れに合意した背景は、EPAの交渉を優位に進めるためであり、必ずしも介護業界のニーズに応えることを目的ではありませんでした。EPAは介護福祉士の取得を必須とするなどハードルが高いため、ほとんどが定着せずに帰国してしまうなど失敗を認めざるを得ず、新たな外国人介護人材の受け入れの方法の検討が必要になりました。
これまでの反省を踏まえて、17年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行され、介護分野の技能実習生の受け入れを開始しました。これまでのEPAより規制が緩和され、介護の担い手として多くの外国人が集まることが期待されました。今回の法改正ではさらなる外国人労働者受け入れの拡大を目的に在留資格が新設されています。
外国人介護職受け入れ方法別比較
思うように進まない外国人労働者の受け入れ
介護分野の技能実習生の受け入れを開始して1年が経過しましたが、先ごろの調査報告で一年間に来日した外国人は247人、在留資格「介護」は177人にとどまることがわかりました。また既存の在留資格で受け入れた外国人介護職は10年で5000人にも満たないことが分かりました。
18年10月末までに監督機関である「外国人技能実習機構」には986人の申請があり、実習生として認定された472人のうち247人が来日しました。認定された人の出身国はインドネシア(144人)、中国(142人)、ベトナム(60人)。残りも手続きが済み次第来日する見通なものの、日本政府関係者は「期待より少ない」と認めています。
外国人技能実習の受け入れ対象は「人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」とされており、農業関係、漁業関係、建設関係、食品製造関係、繊維・被服関係、機械・金属関係などに認められています。
介護関係が他の業種よりも外国人の受け入れが進まない理由をピックアップしました。
コミュニケーション能力が求められる
介護職種は日本語能力試験で、入国時に基本的な日本語を理解することができるレベルのN4合格や、来日2年目で一つ上のN3合格など、他の職種にはない要件があります。
N3で不合格になった場合は帰国しなければならないため、ベトナムやフィリピンの政府は帰国のリスクに懸念を示し、円滑な送り出しが進んでいないことが受け入れの進まない理由に挙げられています。
N3に合格できなくても在留が可能となるよう要件緩和も検討されているものの、介護には「利用者の状況を見て声をかけながら行動を促す」「会話が困難な認知症の場合、表情や動作から何を求めているか理解する」など、コミュニケーション能力が重視されます。マニュアルに沿って行うことで成立する業務ではないだけに、安易に間口を広げることが解決策にならないことは想像に難くありません。
外国との競争に負けている
21世紀は「モノ」「カネ」に次ぐ第3の波として「ヒト」の移動が課題と言われています。
少子高齢化は日本だけでなく先進国すべてが抱えている問題であり、国際的な人材獲得競争の時代に突入しています。産業基盤を強固にするために、必要な人材を外国から獲得する取り組みが世界的に行われています。
定着のためには外国から人を呼び込むだけではなく「引き止める」取り組みも必要です。イギリスでは看護学校などに学ぶ留学生に就労機会を広げています。イギリスにおいてフィリピン生まれの専門的職業に従事する者の約 95% は福祉介護分野に従事していると言います。
フィリピン人はホスピタリティの精神が強く日本の介護現場でも人気ですが、諸外国の取り組みに比べて積極的に人材確保競争に加わっているとはいえません。言葉が通じて(フィリピンで英語は公用語の一つとしてフィリピノ語と共に学校で教えられている)待遇が良い外国に流れて行くのは当然のことでしょう。
これまでの劣悪な待遇が審議されていない
自民・公明党の数の原理で成立した「改正入管難民法」ですが、詳細については今後詰めていくなど問題が山積しています。
特に実習生に対する対応がずさんで、2015年~17年の3年間に外国人技能実習生が事故や凍死のほか、溺死や自殺者などで69人死亡していたことが参院法務委員会で明らかになりました。
実習生を奴隷のように扱っていた実態も判明し、低賃金や劣悪な境遇から逃れて5年間でのべ2万6千人、17年度だけでも約7千人が失踪しています。
岐阜の縫製会社に勤務していたカンボジア人技能実習生は、毎日午前8時から午後11時頃まで作業を強いられ、土日を含めて連続勤務、休日は月1回程度、賃金は月額1万5千円から2万7千円と安く抑えられ、賃金から天引きされていた健康保険料は納付されておらず無保険だったといいます。
厚生労働省の発表によると、外国人技能実習生で労災による死亡と認定された人は14年度から17年度までの4年間で計30人にのぼり、労災死する比率は日本の雇用者全体の比率を大きく上回っており、安全教育が行われないまま働かせていることが浮き彫りになりました。
いずれ外国人にも見向きされなくなる
在留資格「介護」には「人手不足の救世主」と期待される一方で「焼け石に水」という厳しい意見も寄せられています。
政府は介護や建設など14業種を対象に外国人労働者が5年間で最大約34万人になると推計し、そのうち約45%が技能実習生から移行すると見込んでいます。受け入れ分野や人数、生活支援策など多くの課題が積み残されたうえに、現行の外国人技能実習制度の過酷な労働実態も放置されたままで、大きな数字を掲げられてもリアリティがありません。
日本は所得が低く物価が高いため、多額の借金を背負ってまで外国人が日本で働くメリットがあるのか疑問も残ります。人は「モノ」や「カネ」と違い権利が発生します。
いつまでも介護業界の安い報酬で満足できるものではありません。「介護の仕事は日本人にも外国人にもそっぽを向かれ、高齢者だけが増え続ける」という時代がすぐそこに迫っています。
待遇面で労働者に選んでもらえない事業所は人手不足がますます深刻になり、介護サービスの廃統合が加速していくことでしょう。
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