去る1月18日、東京都八丈島町が、関東地方初の地熱発電所である八丈島地熱発電所の運営を、従来の東京電力に代わって、金融サービス会社のオリックスに変更すると発表しました。これにより、東京電力は同発電所の運営から事実上撤退し、オリックスが新たな事業者として運営に携わることになります。それをめぐって、「オリックスがなぜ地熱発電事業に進出するのか」といった疑問の声も聞かれます。そこで、オリックスの経営戦略からみた地熱発電事業への取組のねらいを見ていきます。
八丈島地熱発電所は98年に東電が建設
東京の南約290kmの洋上に浮かぶ八丈島。東京都の離島であり、総面積は70平方km、人口は約8000人の島です。八丈島地熱発電所は、八丈島町の方針に沿い、1998年に東京電力が建設、99年から運転を始めた出力3300kWの発電所です。地元住民への電力供給が主な目的です。東京電力としては初めての地熱発電所ですが、近年、運転に伴う維持費がかさむことから、今後の運転に難色を示していました。その背景には、原子力発電所事故による被害補償や廃炉に伴う負担費用の増大などで、東電自体の経営が極めて厳しい状況に置かれていることが挙げられます。
八丈島町では、そうした東電の状況を踏まえる一方、同発電所が設備更新時期を迎えていることから、2013年1月に、新たに地熱発電所の建設・運営を行う事業者の公募を行うことにしました。その際、八丈島町は、東京都と共同で「八丈島再生可能エネルギー利用拡大検討委員会」を立ち上げ、技術的な検討や地域貢献策についても検討を重ねてきました。公募はそれらの検討結果を踏まえて実施されたもので、とりわけ、再生可能エネルギーの利用拡大を図りながら、地熱エネルギーと自然環境・生活環境との両立を図る点に、公募の重点が置かれました。
公募に応じたオリックスの事業提案はそうした都や町の方針に合致したことから、新たな事業者として採択されました。
ところで、今回の公募に際して、なぜオリックスが地熱発電事業に進出するのか、といった疑問の声が聞かれます。実は、同社はかなり以前から、リースやファイナンスなどのノウハウを生かしてエネルギー事業を手掛けているのです。
リースを軸に、隣接分野に事業拡大
オリックスはもともとリース会社として出発し、その後、隣接分野に順次事業を拡大してきました。1964年の創業時は、リース事業が専業でしたが、75年には企業向け融資のほか、住宅ローンやカードローンなどの金融分野にも進出、84年には自動車関連の事業を手掛けました。具体的にはレンタカーやメンテナンスサービス、カーシェアリングなどです。そして、86年には不動産事業、91年には、生命保険業と相次いで、新分野に乗り出しました。そうした事業分野拡大戦略の中で、98年には、再生可能エネルギーや電力事業など、エネルギー分野への進出を決めたのです。
再生可能エネルギーについては、その頃、太陽光発電や風力発電などを手掛ける企業が相次いで登場、また、電力自由化をめぐる議論も活発になっていました。そうした状況から、オリックスとしては、将来的にエネルギー事業が経営の大きな柱になると判断し、この分野での事業強化に力を注いだのです。
再エネ事業を経営の柱に
エネルギー事業の中では、再生可能エネルギーを経営戦略の柱の一つとして位置づけています。2011年の東日本大震災とそれに伴う原子力発電所事故を契機として、国内の電力需給が大幅にひっ迫し、それに対応するための太陽光発電などの再生可能エネルギー電力の調達が急がれたことが背景になっています。
太陽光発電に関し、同社はこれまで、自治体や企業の保有する遊休地を賃借し、出力1000kW(1MW)以上の大規模太陽光発電所(メガソーラー)を各地で建設、運営しています。建物の屋根や屋上に設置する屋根設置型太陽光発電については、設備の設置だけでなく、機器・システムの提案から導入、メンテナンス、ファイナンスまでのトータルのシステム販売を行っており、これらは同社の従来のノウハウが活かされているといえます。
電力供給事業にも進出
電力供給事業では、2000年から実施された電力自由化の過程で、主に民間の高圧業務用の施設・事業所を対象に割安な電力の供給を行っています。2016年4月からは、一般家庭や商店、小規模工場などの低圧需要家向けの電力が自由化され、同社はそうした低圧需要家にも電力供給を行っています。電力供給には、省エネサービスやエネルギーコスト削減のための機器の設置、メンテナンスなどトータルとしての運用サービスが不可欠となります。
地熱発電事業は、再生可能エネルギーの中でも、太陽光発電や風力発電と異なり、資源調査から、掘削、発電までのリードタイムの長い事業です。オリックスがそうした地熱発電事業を手掛けるのは、実は、八丈島地熱発電所が初めてではありません。オリックスグループが2008年から運営する「別府 杉乃井ホテル」(大分県別府市)は、自家用としては国内最大規模となる「杉乃井地熱発電所」を保有しています。この発電所は、最大出力1900kWで、発電した電力はホテル全般の電気設備で使用し、需要ピーク時には、50%を賄っています。
オリックスが、八丈島地熱発電所の運営を手掛けることになったのも、杉乃井地熱発電所の運営実績やそのノウハウが蓄積されていたためといえます。
4月からFIT制度が改正
オリックスは、八丈島地熱発電所の運営を手始めとして、今後、各地で地熱発電所の建設を進めていく意向です。というのも、再生可能エネルギー拡大の原動力となっているFIT制度(再エネ電力固定価格買取制度)が、2017年4月から改正され、太陽光発電に偏重した制度が見直されることになっているためです。FIT制度は、太陽光、風力、地熱、小水力、バイオマスの5種類の再生可能エネルギー発電電力について、電力会社が一定の価格で長期にわたって買い取ることを義務付ける内容です。電力会社が買い取る費用は、再エネ賦課金の形で電気料金に上乗せされるため、再エネ電力の導入が進むにつれ、国民の電気料金負担が増大することになります。
FIT制度の改正は、国民負担の抑制と、再エネ導入拡大の両立を目指すのがねらいですが、事実上、太陽光発電への優遇の抑制と、他の再エネ電力、とりわけ地熱の導入促進を図るものとなっています。再エネ電力の中でも、太陽光発電や風力発電は、日照や気象条件に左右される、お天気まかせの電力であり、出力が極めて不安定です。出力の不安定さは、送電系統に接続すると、周波数の乱れなど電力全体の品質低下につながり、地域的な停電の事態を引き起こしかねません。また、再エネ電力を受け入れる電力会社は、不安定な出力を是正するため、調整電源を用意しなければなりません。
それに対して、地熱発電は、国内の地熱資源が豊富であることに加え、出力が一定であり、送電系統への接続で、問題が生ずることはありません。ただ、リードタイムが長く、開発にあたっては、地元温泉業者との調整が必要になるなどの課題があります。
経産省が開発リスク低減や事業環境を整備
経済産業省は、地熱発電を促進するため、4月からのFIT制度の改正では、事業の予見可能性を高める観点から、単年度でなく、数年先の設備認定案件の買取価格を予め決定する措置を盛り込んでいます。また、開発リスクの低減や円滑な事業環境の整備などにも取り組む方針です。
再エネ電力の買取価格については、太陽光発電や風力発電の場合、今後、段階的に引き下げられるのに対し、地熱の場合は、設備ごとに一定価格が維持されます。また、支援策としては、掘削に対する支援の拡充のほか、リスク低減に向けた技術開発を推進していくことにしています。事業環境の整備では、地熱資源開発アドバイザリー委員会を設け、地元住民や自治体との連携を図りながら、技術アドバイス、情報提供などにより地元の理解促進を図る考えです。
まとめ
オリックスの八丈島地熱発電所の事業は、同社のこれまでのエネルギー事業、経営ノウハウを活かせるとの判断に加え、今後の再エネ事業の中でも、地熱の将来性が極めて有望であるとの見通しに立っての戦略であるといえます。