正社員化に伴う人件費コントロール15の方法

平成26年9月、スーパー大手、イトーヨーカ堂はパート従業員を正社員として登用することを発表しました。約3万6000人のパート従業員は、これまで勤務地域を限定した契約社員に登用する制度はありましたが、今回は契約社員から正社員に引き上げる制度を導入することとなったのです。正社員になれば、60歳の定年まで契約更新なしに働けることが可能です。

 平成24年9月、ヨーカ堂は正社員を半分に減らし、従業員のパート比率を77%から90%まで高める方針を打ち出し、小売業界に衝撃を与えました。正社員を半減させると共に、パート社員の雇用増で人件費を7%、100億円削減するというものでした。
しかし、これまでの方針を180度転換するヨーカ堂の動きは、景気回復による人手不足がそれほどまでに深刻化していることの証しでもあり、深刻な人手不足に悩むスーパーマーケットでは、多様な働き方を人事制度として取り入れ、有能な人材を正社員として囲い込む流れを止めることが出来ないことでしょう。それに伴い、高騰が予測される人件費コストを、社員のモチベーションを下げずにいかにしてコントロールするかは、売上高対営業利益率の平均値が2%台のスーパーマーケットにとっては、見過ごすことの出来ない課題となっています。

そのような中でも、正社員増に伴う人件費及び人事管理コストの削減・コントロール方法について挙げていきたいと思います。

 

1. 基本給の見直し

大卒男子の新卒初任給の平均が20万円を超え、上場企業各社がベースアップ(基本給テーブルの書き換え)を発表する中、基本給のベースを一律に下げる判断は得策ではありません。ここは等級の再格付けによる給与水準の見直しを行いたいものです。
従来の職能資格制度をベースとした等級基準は有名無実化しています。役割等級基準や職務基準に作り直すこととなります。
ただし再格付けに伴う急激な給与ダウンは、社員のモチベーションダウンや優秀な人材の流出などのリスクも伴いますので、慎重な対応が必要です。

 

2.基本給改定システムの見直し

人事評価結果による昇給は、年度業績による変動はあるものの、一部の例外を除いて全員昇給を基本としてきました。しかし正社員比率を高める上で、この全社員昇給の仕組みでは、人件費の上昇分を業績で吸収しきれない事も予測されます。業績と人事評価結果次第では、昇給ストップ、降給もあり得るシステムが必要でしょう。

 

3.複線型人事制度の導入

正社員比率が高くなれば、「パートが作業、正社員は管理」という従来の構造が成り立たなくなります。同じ正社員でも職種により賃金制度や、あるいは雇用形態が変わる、複線型人事制度の運用が必須になります。

 

4.役職手当の成果給化

役職手当とは、役職者に対する職務給の意味合いが濃い手当です。(他方で時間外手当の肩代わり的な意味合いもありますが)
部門の業績責任を背負う立場にあり、その働き如何で部門の業績を大きく左右します。そのような意味では、役職手当とは本来、ハイリスク・ハイリターンであるべき種類の手当です。

 

5.生活給(家族手当・住宅手当・通勤手当)の廃止や一時金化

仕事への貢献に関係なく支給される生活給については、見直す企業が増えています。
いきなり全廃は現実的ではありませんし、社員の同意を取り付けるのが困難でしょう。このような場合、手当を毎月固定で支給するのでなく、一時金として支給する方法に変更します。例えば子供が誕生した時、新卒入社で独り暮らしを始めた時など、これより大幅な人件費削減が可能となるはずです。

 

6.生活給(家族手当・住宅手当・通勤手当)の管理強化

中小企業で見かけるのが、管理が煩雑で本来支給しなくてもよい手当を支給していたり、支給金額が間違っていたりするケースです。
少なければ社員は言ってきますから、これは大抵が払い過ぎのケースです。
定期的に通勤手当の申請書を書かせたり、住宅ローンの残高証明を提出させたりします。
案外、バカにならない金額が削減できます。

 

7.残業単価の見直し

残業単価の計算に含まれる給与の見直しです。一部の手当(家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超えるごとに支払われる賃金)は残業単価の計算から除外することが、労働基準法でも認められています。

 

8.残業時間管理の徹底

法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えない範囲の残業には、割増賃金を支払う必要はありません。ところが管理が煩雑となるためか、案外この法定労働時間内の残業にも割増賃金を支払われているケースを見受けます。
残業申請に関して、必要性の有無を検討することもなく上司が承認していたりします。残業申請をやみくもに承認するのではなく、必要性を吟味することや、事前承認を徹底し、適正な残業時間についてのみ承認することが必要です。

 

9.裁量労働時間制の導入

一部業務(販促企画やシステム管理者など)には専門業務型裁量労働制が適応できます。労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなして、時間管理を社員個人に委ねる手法です。通常、残業代も加味した給与を設定するので、残業代は支給されません。

 

10.業績賞与制度導入

賞与とは生活給としての意味合いと、成果分配としての意味合い両面を含むものですが、支給基準が曖昧であるためか、固定的に支給され続けている運用実態からか、社員の意識は生活給としてのそれに重きが置かれています。(その結果、ボーナス払いという暴挙?に出ます)
業績賞与制度の導入は、そのウェイトをより成果分配に重きをおくことになりますが、具体的には賞与金額算出の計算式を明確にすることです。支給3ヶ月前には「今年の夏のボーナスは●●円くらい」と、およその金額計算が社員個々で出来るレベルが理想的です。

 

11.社会保険料の削減

賞与制度に少し変更を加えるだけで導入できる社会保険削減のスキームは、社員の反発なくスムーズに導入可能な現実的な方法です。厚生労働省は将来の年金給付額の切り下げや受給可能年齢の引き上げを目立たない形で、進めています。少子化が激しく進み、制度を支える世代と、需給を受ける世代の割合を考えても、公的年金制度の将来リスクは高まる一方かと思います。

 

12.再雇用制度

就業規則で60歳定年制を定めている企業も、60歳以降の継続雇用・再雇用を希望する社員全員を、老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げに合わせて雇用することが義務付けられています。再雇用時の給与は任意ですので、経験豊富なベテラン社員を安価な給与で雇用できれば、逆に人件費を安くすることとなり得ます。再雇用者が高いパフォーマンスを維持できる動機付けシステムが必須です。

 

13.継続雇用給付金制度の活用

老齢年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられることによる公的年金の空白期間に対応するため、再雇用時に低下した賃金の一部を補う「高年齢雇用継続給付制度」があります。賃金、給付金、老齢年金のベストな組み合わせが実現すれば、社員にとってもメリットのある人件費削減が可能となります。

 

14.人事管理業務のアウトソーシング

人事アウトソーシング企業の専門性が高まり,委託可能な業務範囲が広がっています。
これまでの給与計算業務に加え、採用業務や研修業務、人事評価業務まで、人事管理を丸ごと外注するケースも出てきています。ルーティーン業務はアウトソーシングし、人事部は意思決定に専念することで、人事管理に要する人件費を削減することが可能になります。

 

15.中長期の組織図作成

サービス業で人件費が高騰する要因のひとつとして、予定外の採用や社員の引き留め、教育にかかる計画外の出費による所が大きいです。自社の出店計画にあわせて、階層別、職種別の必要人員を前もって明らかにし、時間をかけて手当していければ、トータルコストがコントロールできます。

 

関連記事一覧