なぜ、半沢直樹は不本意な出向命令を受け入れるのか?

労務管理の世界にはアンタッチャブルの世界というのがあって、裁判にかけたら誠に怪しい事象がたくさんあります。

その一つに銀行の出向があるのではないかと思います。実はこの出向、日本独特の制度です。英語訳に出向はなく、loan(貸出し)と訳されます。

「人」を簡単に合意なく、「貸出し」してもいいものか、と疑問がわきます。当然、民法に定めがあって「使用者は労働者の承諾がなければその権利を第三者に譲渡しえない」とあります。

「包括的な規程ないし同意によって出向を命じるには、密接な関連会社間の日常的な出向であって、出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが出向規程等によって労働者の利益に配慮して、整備され、当該職場で労働者が通常の人事異動の手段として受容している(できる)ものであることを要する」(「労働法」 菅野和夫著)とあります。

銀行において、出向については労働者の合意があるというのが建前になっています。銀行の仕組みは、残りたければ、銀行に残ってもいいけど、賃金やプライドは維持できない可能性がある、それなら、取引先の町工場で「総務部長」として心機一転頑張ろう、ということを決心させるものです。元銀行員の方は優秀なので、中小企業で活躍されている諸先輩が多くいるのは事実でもあります。

銀行には労働組合もあるので、労働組合も銀行に残った場合の賃金カットを労働協約(労働組合と会社の契約)で合意しているのです。

「私は町工場に入社したのではなく、●●銀行に入社したのだ。定年まで●●銀行に勤めあげたい。年齢や勤続で一律賃金をカットされるのは嫌だ。この規定はおかしい。銀行の労働組合は労働者を守る存在ではなく、御用組合(会社の言いなりになる組合)に成り下がっている。賃金は維持せよ、この出向命令は不当だ!」と「真の半沢直樹」なら声を上げるかもしれません。

 

しかし、そんな変態銀行員は出てきません。

 

これは法律論ではなく、多くの銀行員にとって、当然「予見されたこと」であるからです。ある一定の年齢になったら、給与が下がるか、取引先等に出向となるかのどちらかである、ということは入社当時からわかっていたことです。

中小企業もこの銀行の労務管理から学ぶことがあります。

それは、「いかに事前に重要事項を従業員に予見させておくか」ということです。「わが社はそういうルールだから仕方がない」という明示的・黙示的ルールをつくっておくということです。

経営者の皆さんは銀行に学び、社員に長期スパンで予見させておきたいルールはあるでしょうか?


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