厚生労働省は2月に「2014年度の高齢者虐待件数」を発表しました。特別養護老人ホームなど、介護施設の職員による虐待は過去最多の300件(前年度比79件増)で、12年度からの2年間で倍増。今回は実際の事件をもとに、施設虐待の実態について考えてみました。
近年の虐待事件
高齢者虐待防止の基本では、身体的虐待、介護・世話の放棄放任、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5つを「虐待」と定義しています。最近起こった虐待による事件と犯行動機をピックアップし、その理由を考察してみました。
・身体的虐待
川崎市の有料老人ホームで、3人の入居者が相次いで転落死した事故について、介護職員が故意に行っていたことが発覚。加えて他の介護職員による窃盗や虐待、入浴中の死亡事故も明らかになった。死亡させた理由について、「介護の仕事にストレスがたまっていた」という趣旨の供述をしている。
<考察>
認知症の高齢者に罵倒され、暴力を振るわれ、それでも笑顔で接することが求められる介護現場は、想像を絶する世界です。ストレスがたまったからと言って殺人を犯す理由にはなりませんが、極限状態で働かせていれば、同じような事件が他の施設でも起こりうることです。
・介護・世話の放棄放任
大阪府茨木市の有料老人ホームで、80代の女性入居者の部屋の扉をひもで固定し、閉じ込めていたことが発覚。理由について「女性が徘徊し、他の入居者のサポートができなくなるから」と話している。
<考察>
記事には何人で介護をしていたのかまで書かれていませんでしたが、少人数であったことは推測できます。飲食店チェーンのワンオペが問題になったのに、命を預かる介護施設のワンオペ状態が、あまり問題視されないのは何故?
・心理的虐待
宇都宮市の介護老人保健施設で、20代の複数の介護職員が、認知症の入所者が上半身裸で四つんばいになっている姿を携帯電話で撮影したり、入所者の顔に落書きするなど、虐待の可能性がある行為を行っていたことが発覚。同法人が理由を聞くと、「親しみを込めてやった。かわいかったから」と話したという。
<考察>
この法人は、この行為に対して、「悪気はなかった」と会見しています。悪気のない行為が日常的すぎて、何が虐待か気づかなくなっている職員も多いことでしょう。それは一般職員だけでなく、管理者にも当てはまることが、法人のコメントから読み取れます。
・性的虐待
東京都内の介護施設で働いていた介護職員(25)は、4人部屋に入る70代の女性が一人になるのを見計らってベッドに潜り込み、シャツの中に手を入れて胸や腹部を触ったことが、被害者女性が家族に相談したことで発覚。逮捕された。「いけないこととは思いながら、やってしまった」と容疑を認めている。
<考察>
特殊な性癖ではなく、「人材不足によるストレスが性的虐待に走らせた」とコメントした人もいますが、真相は定かでありません。
・経済的虐待
京都府警宇治署は、訪問先の宇治市の男性(86)宅からキャッシュカード1枚を盗み、コンビニの現金自動預払機(ATM)から現金20万円を引き出したとして、窃盗罪で起訴していた介護ヘルパーの女(28)を再逮捕した。「飲み代などの遊興費がほしくてお金を盗んだ」などと容疑を認めている。
<考察>
ヘルパーの年収は250万円?300万円と言われているので、なかなか遊興費を捻出するのは難しそうです。しかも高齢者の経済的事情を熟知していたり、人によっては金銭管理まで任されることもあるようなので、倫理観がしっかりしていなければ、犯罪の温床になりやすいと言えます。
虐待は介護施設が作り出している
暴言や暴力などを振るわれるといった「入居者からの虐待」による職員のイライラに対し、施設長・管理者は改善を怠り、「プロ意識が足りない」「介護の方法が悪い」と責任転嫁。それが虐待を生む要因になるにも関わらず、人手不足から虐待に対して強い指導ができないと言う悪循環に陥っている施設もあるようです。
以上の事件は氷山の一角です。施設での虐待は、他人事ではありません。日頃より職員に目配せをし、話に耳を傾けていなければ、ある日突然、自分の施設がマスコミに取り上げられるかも知れませんよ。
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