経営会議ドットコムでは、2018年に迫る介護報酬・診療報酬の制度改定に向け、その対策セミナーを、東京と大阪でそれぞれ開催しました。
セミナーでは、株式会社船井総合研究所のコンサルタント、沓澤翔太氏より「ダブル改定に負けない経営戦略」として、国が考える介護事業の在り方、介護事業所で考えなければならないこと、介護業界の人材戦略として正しい選択について講義がありました。
政府の指針から見る介護業界の今後
今年の4月に診療報酬の改定があり、その影響で全体の単価が下がり厳しい状況が広がっていますが、次回の2018年の診療報酬の改定では、更なる単価の見直しが考えられます。
それは、国としては今後の少子高齢化社会を見据えると、社会保障費を削減することが必須だからです。
そして、社会保障費の削減の方針については、介護、医療を管轄する厚生労働省と国の財政を管理する財務省とで考え方が異なりますが、こらからは財務省の方針の重要度が増します。 それは、国の財政が逼迫してきたからです。今後は国全体の財政の健全化、持続性が重視されます。その観点からすると、財務の視点から方針を打ち出す財務省の力が自然と増しますので、これからは厚生労働省と合わせ、財務省の情報もチェックしていった方が良いでしょう。
そして国は、既に2025年までに実現させたい介護医療分野の指針を掲げています。
今後はこの指針に向かって、診療報酬の改定やルールの改正が行われていくと考えられます。
主な指針としては
①経済財政運営の指針→特養の増設、一般企業の介護離職0
②2025年度までに5000億円の削減、介護報酬2%削減相当→医療介護の一体改革
③軽度者に対する生活援助サービス→介護1、2を見直して介護報酬の適用外へ、軽度者の地域事業への移行
また、国は介護と合わせて医療の一体改革を打ち出しています。そして、介護業界は医療業界の変化に大きな影響を受けます。
例えば、今後医療業界での介護療養が廃止されることが検討されています。介護療養が廃止されれば、その受け皿となる介護施設が必要になり、介護業界としてビジネスチャンスではありますが、それも事前に受け入れる準備をしていなければ、チャンスを掴むことはできません。 是非、医療業界の変化や動向にも目を光らせて下さい。
今後介護業界は大きく変わっていくと考えられます。その変化に対応するために、日頃から財務省、厚生労働省、医療業界の情報を集め、なるべく早く準備を始めることが大切です。
2025年を見据えた事業展開
国の指針を考慮して2025年を見据えると、過去の方針を転換し、今後は特養を増やして介護を理由とした退職を抑制する、社会保障費5000億の削減の為に、次回改定では医療・介護の診療報酬を引き下げる、そして、介護1、2の見直しによりデイサービスや訪問介護は大きな変革が求められます。
昨年の改定でもデイサービスの介護報酬は削られました。これは、介護全体で見てもデイサービスの介護報酬の割合が高いからです。
そして、今後予定通り介護報酬が改定され、介護1、2が見直されて、要支援のように総合事業にして下さ、地域に移行させますという形になると、地域に特化した施設作りと対応が求められ、また、地域に移行することで、その地方の自治体によって給付金などに差が出て、地域毎の差異も生まれます。
今まで全国一律でやってきた同じ事業モデルのままでは、利益を上げていくことが難しくなるということです。
それでは、どうしたら良いのか?というと、①介護報酬を諦めて新規の総合事業としてデイサービスや訪問介護事業をやっていく、もしくは、②介護保険事業を使った介護事業を残すのなら、中重度の方を受け入れるしかないということになります。
①介護報酬を諦めて、新規の総合事業としてデイサービスや訪問介護事業をやっていくとすると、広告費や新規事業の立ち上げに伴う大きな費用と人員が必要になり、余力のある企業でなければ参入が難しいのが現実です。
そのため、②介護保険を使った介護事業を残すのなら、中重度の方を受け入れるようにしていくのが現実です。
そして、中重度の方を受け入れるのなら、今後病院では在院日数の減少が進められていく予定ですので、病院への営業活動が大切になってことでしょう。
事業規模などを考慮してどちらに舵を切るのか考えて、早めに準備をしていくことが大切です。
具体的な中重度の方に提供するサービス
介護の中で中重度の方に提供するサービスとしては、リハビリ、機能改善の介護をしていくことが大切です。
完全に100%に戻すことはできなくても、60%、70%まで機能を改善できれば、その人の尊厳を守ることはできます。
そういった地域包括医療としての介護を国は介護業界に求めています。
地域包括医療として介護施設が機能改善を図るにはどのようなことができるのか?というと3つの介助ができると思います。
1つ目は身体機能の回復
歩ける方を歩けるようにする、車椅子の方を歩行器にするといったリハビリ
2つ目は食事介助、徘せつ介助、入浴介助の3代介助に焦点を当てる
特にこの中で、徘せつ介助がやりやすく人間としての尊厳を守ることにもなるので、進めやすい介助です。
3つ目は認知症の予防
専門性も高く非常に難しい部分ではありますが、認知症を予防すると、昼夜逆転生活が元に戻ったり、徘徊がなくなるので効果が分かりやすいです。
現状の制度や、次回以降の改正を考慮すると、ここで紹介したような機能改善の成果を図っていく、サービスとして磨いていくことが必要です。
介護業界に限らず、今後はどこの業界も人材不足
現在日本の労働人口は7682万人いますが、このままいくと2060年には4418万人に減少すると言われています。
介護業界としては、2010年では2.77人で1人を介護してたのが、2060年では1.28人で1人の介護をしていくことになります。
この問題を解決する為に、ロボットや外国人を入れてと言われてはいますが、どちらにしても介護職員の手が必要になります。
今後介護業界は、いかに人を定着させ、人を辞めさせないようにするか、という所を上手く進めていかないと事業を継続していくことが厳しくなっていくでしょう。
新しく採用していくにしても、労働人口が減少する中で、他の好調な自動車産業や衣服業と競争して人材不足を補うのは、正直難しいと言えます。
そのため、人が辞めない仕組みを作っていくことが大切です。
ただ、そのためには、まずは人を採用しなければなりません。
人を採用するためには集客の最大化、とにかく面接に来てくれたり、会社説明会に来てくれたりする、初めに会える人の数をできるだけ多くすることが大切です。
新聞広告に1枚大きなチラシを入れたり、会社説明会を開催し呼び込みをするといった、集客の最大化を目的とした活動が重要です。
正直ハローワークに求人を出して待っているだけでは、予定の人数を採用していくことは難しいでしょう。
人を辞めさせない、定着させるには、働きがいを追求し、魅力ある事業所にしていくことが不可欠です。
この業界で長く働いていくうえで、ここじゃなきゃいけないんだ、と思えるような何かを作っていくことが大切です。
まとめ
今後の国の方針を考慮すると、介護保険制度を利用して介護事業を継続するのなら、中重度の方を受け入れていくしかありません。
公表されている2025年までの国の指針を念頭に、自分の事業所はどうやったら存続できるのか?周りと戦っていけるのか?を考えて行ってください。
残念ながら、次回の改定でも介護報酬は減額される可能性が高いです。収入が減る以上コストを削減する、そして、少しでも収入を増やす努力をして下さい。
今の収入を増やす為にも、今後の中重度の方を受け入れるにしても、地域の病院との連携が大切です。
そして、サービスの面では機能改善と専門職でなくても介護職でもできるサービスを突き詰めて行ってください。
また、今後の労働人口減少を踏まえて、人が辞めない仕組み作りにも力を入れて下さい。
そして、ここまで紹介してきたようにやらなければならいことはいくつもありますが、自分の事業所や立場で優先順位をつけて実施していくことが大切です。