介護人材確保支援事業は過疎と人手不足を解消できるか?

人材難が叫ばれる介護業界。国は団塊の世代が75歳以上になる2025年までに約253万人の介護職員が必要と試算していますが、希望者だけでなく定着する者も少ないなど、人材の確保は難航しています。

これに対し国は、外国人の在留資格に「介護」を新設する出入国管理及び難民認定法を改正し、外国人介護士の受け入れ基準を緩和したり、ニッポン1億総活躍プランにおいて、2017年度より介護職員の給料を1万円上乗せするなど対策をとっています。

 

介護人材確保支援事業への取り組み

2015年5月には島根県浜田市が全国に先駆けて、ひとり親世帯を対象にした「介護人材支援制度」を導入しました。中古車の提供や家賃補助などの手厚い支援で迎える一方で、市内の介護事業所で1年間検証することを条件とするなど、「過疎」と「介護不足」の二つを解消するのが狙いです。

同様の取り組みは他の自治体にも広がり、北海道では幌加内町がいち早く定住支援策を実施しました。町内には3つの介護事業所があり高齢者比率は36.89%と高く、高校を卒業後に町外に出て行く人が多く、外部からの働き手が求められています。その解消策として2015年秋から介護人材確保支援事業が開始されました。

≪支援の対象≫

・幌加内町外在住で中学生以下の子供と同居している「ひとり親家庭」
・町内の介護サービス事業所に就職される方(介護資格の有無は問いません。)
・幌加内町に定住し続ける意思がある方
・年齢が60歳未満の方
以上、全ての要件を満たす必要があります。

 

≪支援メニュー≫

項目 支援内容 備考
給料保証 給料月額17万円の水準を確保します。 介護サービス事業所に補助し、給与水準を確保します。
養育支援補助 1世帯につき月額3万円の助成支援。 養育する最後の子供が満18歳に達する日以後の最初の3月31日まで継続します。
家賃補助 1世帯につき月額家賃3万円以上の賃貸住宅に入居する方に対し、1/2(上限3万円)の助成支援。 事業所から住居手当がある場合は、手当額を差し引いた額に対し、助成します。
支度金補助 1世帯につき一律20万円の助成支援。 幌加内町へ定住に伴う引越し等の移転費用として支度金を助成します。
奨励金補助 1世帯につき介護事業所に就労、定住して5年経過後に50万円、10年経過後に100万円の助成支援。 介護事業所に就労、定住を約束し、継続期間を経過した方へ奨励金を支給します。

※幌加内町介護人材確保支援事業PRパンフレットより

 

北海道幌加内町の現状

タイミングや支援内容が合えば好条件と思われますが、幌加内町役場保健福祉課に確認したところ応募状況は厳しいようです。2015年度からの問い合わせ件数は10数件あったそうですが、見学にこぎつけたのが3、4名。ほとんどが「また連絡します」といったきり音信不通だとか。問い合わせてきたほとんどの人は、介護未経験者だったといいます。

敬遠される理由を尋ねると「介護という仕事以外に、環境の問題があります。問い合わせは札幌や旭川、道外の人なので、まず幌加内の環境に驚かれます」幌加内町は道北に位置し、林業や農業を基幹産業としています。昭和53年に母子里地区で日本最低気温-41.2℃を記録した極寒の地なうえに、過去最深積雪は269cm、日降雪量は120cmを記録する超豪雪地帯です。

人口1,572人(H28.8月末現在)と少ないうえに、町が南北に長く集落が分散しているため、人口密度は2.05人/㎡と日本で3番目の希薄さ。1995年(平成7年)9月4日に沿線を走る鉄道が廃止され、交通機関は本数がわずかなバスのみ。保健福祉課の方がため息交じりに「コンビニもありませんし」というように、道内179市町村中、たった4町村しかない「コンビニが一件もない町」でもあります。

 

納得のもと1名が定住

厳しい状況が続く中、ようやく昨年6月に制度の内容を気に入った1名の方が制度を利用して永住しました。現在は町営住宅に住み、町内の特別養護老人ホームで介護職員として働いています。収入は以前と変わらないそうですが、様々な補助があるため、これまでよりも貯金ができると喜ばれているそうです。

住み慣れない僻地で働くうえに慣れない介護を行うのは相当な苦労です。「本家」である浜田市も辞退者が相次ぐなど苦戦しているようです。過疎と高齢化。この二つの問題にどのように対応していくか。手探りは今後も続きます。

 

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