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外国人介護士導入のためのメリットと障壁

2016年11月18日に、在留資格に「介護」を追加することを柱とした改正入管難民法が参院本会議で成立しました。この法律は、介護福祉士の資格を持った外国人が日本で働けるよう、在留資格に「介護」を追加することが柱となっています。また、これまでパスポートを取り上げ、劣悪な環境で働かせていたことの反省から、来日した外国人の受け入れ先に対する監督を強化する技能実習適正化法も成立しています。

この法律は、今後大幅に不足する介護分野において外国人介護士を導入し、人材を確保しようという狙いがあります。果たして狙い通りに行くのか。また、外国人介護士を採用する際のメリットやデメリットはあるのか。現状を調査してみました。

 

これまでの外国人の受け入れ

外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れは、2008(平成20)年にインドネシア、2009(平成21)年にフィリピン、2014(平成26)年にはベトナムなど、これまでも行われてきました。当初は2年間で2000人の介護士・看護師を受け入れる予定でしたが、介護福祉士や看護師の団体が反発。介護福祉士は来日から4年以内、看護師は3年以内に日本の国家試験に合格しない場合はビザを更新しないという高いハードルが設定されました。

今回の法改正は、巨額の税金が投じられながらも、予定していた成果が得られなかった前回の反省を踏まえて、「不足する介護士を外国人で補完する」ことを大筋にして制定されました。日本介護福祉士養成施設協会によると、これを受けて例年20人程度だった留学生の入学者数は、昨年度は94人、2016年度は2.7倍の257人に増加。入学者全体の3%を占めています。2017年度から留学生は、卒業後に在留資格を「留学」から「介護」に切り替えることにより日本で仕事に就くことができるため、留学生が増加することが期待されています。

 

外国人介護士候補者の動向

これまでの法案では、介護福祉士の試験に合格しなければ原則として帰国しなくてはならず、施設・候補者共にリスクが大きいものでした。厚生労働省の資料によると、2016年度のEPA候補者の介護福祉士の合格率が受験者全体の合格率に並び、候補者の懸命な努力が伺えます。

≪介護福祉士の合格率≫

第24回
(2013)
第25回
(2014)
第26回
(2015)
第27回
(2015)
第28回
(2016)
全受験者 63.9% 64.4% 64.6% 61.0% 57.9%
EPA候補者 全体 37.9% 39.8% 36.3% 44.8% 50.9%
初受験 37.9% 38.8% 54.1% 53.8% 57.9%
再受験 52.2% 12.9% 30.9% 30.0%

出典:厚生労働省第28回介護福祉士国家試験におけるEPA介護福祉士候補者の試験結果

◇看護師の合格率は10%

介護福祉士ばかりがクローズアップされていますが、看護師もEPAの対象となっています。ただし国家試験の合格率は日本人の合格率が90%に対し、候補者は専門用語などの理解に阻まれて10%と低迷。また日本語ができる看護師は、母国でもいい仕事にありつけるため、合格しても帰国してしまう人も多いようです。もともと母国では看護師として働いている人たちなので、試験を簡略化すれば合格率が上がりそうですが、難易度を下げるわけにもいかず、抜本的な問題解決はなされていません。

 

外国人雇用のメリット

ある調査によると、「慢性的な人手不足のため、それなりの意欲のある方なら賛成」という消極的な賛成が見られるものの、「様々な価値観を身近に感じることで自分の視野が広がる気がする」「どんな職種にも外国人はいるので、介護職も国際化されても不思議ではない」など好意的な意見や、「以前の職場に外国人が働いていたが、ケアの細やかさは日本人よりも上と感じた」など、実力を認めて賛成している人もいました。

インドネシア人・フィリピン人・ベトナム人などの東洋人は、日本人と似ているので外見的な違和感はありません。もともと看護師として働いていた人が多く、日本語の介護福祉士にも合格しているだけあり優秀です。遠い異国から来ているのでモチベーションも高くまじめ。最初は入居者の抵抗があったようですが、人当たりのよさや優しさが理解され、入居者から信頼を得られているようです。

外国人介護士候補者ではありませんが、筆者は農村地区の介護施設に勤務していた時に、中国人女性の採用に関わったことがあります。ご主人を介護するために、介護職員初任者研修を終了したというだけあり技術は確か。日本語はあまり得意ではありませんでしたが、細かなことによく気づき、仕事も丁寧。入居者からも信頼が寄せられていました。

 

外国人雇用の課題

介護士を充足する上で、外国人の採用は有効に見えますが、それには様々な障壁があります。安易な採用は、双方に大きなダメージを与えてしまいますので、下記について十分に検討してください。

◇育成と費用対効果の問題

外国人介護福祉士候補者学習支援事業実施団体には、国からの委託費が支給されるものの、育成の難しさや帰国による費用対効果が得られにくいことなどから、積極的な採用にはつながっていないのが現状です。

◇雇用者と外国人の目的の乖離

日本人は外国人を「介護の担い手」と考えていますが、外国人の方は永住して働くことを想定して日本に来ているのでしょうか。そもそもこの法律は、日本で技術を学び、母国の発展のために活かすという趣旨があったはず。「せっかく育成したのに帰国してしまった」と嘆くのは筋違いなのです。前もって労使の目的を一致しておかなくてはなりません。

◇日本人職員との軋轢

言葉や習慣の違いがある外国人介護士を教育しながら業務を行うことは、日本人職員に相当なストレスを与えます。しかし外国人教育専属の職員を配置できるほど余裕のある施設は少ないでしょう。双方のストレスを軽減するためには、既存の職員に外国人介護士を雇用する目的や、それに伴う協力などの理解を十分に得る必要があります。

 

外国人介護士の成功例

今回記事を作成するにあたり、外国人介護士の成功例を調査しましたが、残念ながら見つかりませんでした。孤独感、環境や言葉の違い、それを補うための日々の勉強。外国人にとって日本で働くことは、相当なストレスです。それらを理解しながら、どのようにWIN WINな関係を作っていくか。今後の各施設での取り組みが、成功事例となることでしょう。