2016年秋の臨時国会で外国人技能実習制度へ介護職を追加することに備えた関連法案が可決・成立しました。
2017年の夏から秋にかけて、いよいよ実施される介護士の技能実習制度、介護施設が監理団体(協同組合)を選ぶポイントや、受け入れた際のメリット・デメリットについて、協同組合関西技術協力センター様にお話しを伺いました。
*介護施設が外国人介護士を受け入れ可能となる技能実習制度とは?
協同組合が果たすべき役割
Q:
関西技術協力センターでは1年以上前から介護業界向けに技能実習生制度の正しい認識を持っていただくための広報活動をされているようです。介護施設の経営者と話をされてみて、印象はいかがですか?
A:
社会福祉法人や医療法人に伺っています。やはり関心が高く、お話しをすると、「それ聞いたことがある。」といった反応が返ってきます。ところが、よくよく話しをすれば、実際の制度とは違うように理解されていたりします。
例えば、技能実習制度は3年、プラス延長2年で合計5年の実習が可能になりますが、すべてが5年ということではなく、優良な組合や優良な企業に限るという高いハードルがあります。しかも介護福祉士の国家資格を取れば、ずっと日本にいられるというように勘違いされているケースもありました。新規の組合も含め、実績の乏しい組合が技能実習制度の本来の主旨や実態を充分に理解することなく、誤った情報発信をしてしまっている事も要因ではないでしょうか。
技能実習制度の主旨は、日本で技術を学んで母国で活かすという事ですから、日本で資格を取得しても、そのまま滞在はできないし、就労ビザも交付されません。交付されると制度の主旨から外れてしまいます。あとは、EPA(経済連携協定)や外国人留学生のアルバイト雇用と単純にごっちゃになっている方もいます。
Q:
技能実習生を受入れる監理団体(協同組合)が果たすべき役割は何でしょうか?
A:
まず一番大切なことは、入国管理局に在留資格を申請して、それがきちんと交付される事です。
Q:
といいますと、申請が通らないケースがあるという事でしょうか?
A:
申請の実績がない初回の申請の場合、非常に厳しいです。そんな事は、依頼する法人側は全く考えていないのではないでしょうか。
組合を作ることは簡単ですが、作ったからといって、受け入れることはできません。まず協同組合として活動した実績がないとだめなのです。最低1年必要です。
介護事業所が集まって協同組合を作ったりしていますが、形だけで組合活動の実績がなかったり、体制が整っていなかったりするケースもあり、注意が必要です。
Q:
不交付(申請が通らない)になると、どうなるのですか?
A:
再申請までに最短で3ヶ月、あるいは半年、それでも出ない場合もあります。
実習生は、すでに仕事を辞めて入国を待っています。不交付になって再申請の3ヶ月間、生活はどうする?という事になります。日本語も勉強しないとだんだん忘れていくでしょう。
Q:
お話しを聞いていると、受け入れを検討されている介護事業所も、相当に情報を把握しておかないといけないわけですね。
A:
そうです。しかし組合の良し悪しはよく分からないですね。何か言われても、専門外の事ですから、それが本当か嘘か介護事業所には分からない。
例えば、実習生は日本語のレベルを1年間でN4(日本語能力検定)からN3に上げなければいけないのですが、働きながら1年でN4からN3って非常にハードルが高いのです。普通にすれば1割ぐらいしか合格しないはずです。ところが、現状の製造業等で日本に入国する実習生の日本語の平均レベルはN5、つまりN4以下です。こんな事はもちろん介護事業所では分からないですよね。
先の質問に戻りますが、組合の大切な役割の2つめは日本語教育、送り出し国での日本語教育に、組合が丸投げでなく主体的に関われるかということです。
いま私達(関西技術協力センター)では、製造業中心ですが、入国時7割がN4以上のレベルに達しています。
さらに入国後1ヶ月間の日本語教育。私達の場合、専門の講師13名が、それぞれの習熟レベルにあわせて日本語教育しています。
これも体制が取れないため、委託先に丸投げをして、習熟度外視で体裁だけの教育をしている組合も残念ながら多いです。
日本語教育を本気でしないと、極論ですが受け入れた1年後には9割帰ってしまうなんてことにもなりかねません。もし、そうなれば様々な社会問題を引き起こしそうです。
Q:
他にはどうですか?
A:
組合の監理能力です。
受入法人に適切な労働環境を守っていただくこと、健康面や安全面など実習生のケアをすること、これらの事を月に1回訪問させていただいて監理をさせていただいています。
協同組合を選ぶ際のポイント
Q:
介護事業者が組合を選ぶ際のポイントとしては、いまお話しされたような事でしょうか?
A:
そうですね。実際、組合のホームページを見ても、どこも同じようなことが書かれていて、なかなか違いが分かりません。
選ぶときのポイントとしては、大前提として組合の理念、日本語教育、それから入国後のフォロー、それから絶対ではないですが業歴や規模です。受入人数が1,000人を超えているのは、当組合も含めて全国で10や20団体ではないでしょうか。
Q:
費用はどうですか?
A:
監理費を実習生1人に対して幾らというのを協同組合毎に個別に決めていて、それを毎月頂戴するのですが、35,000円から50,000円というのが相場ではないでしょうか。
監理費というのは本来、我々が監理活動を行うために頂戴している費用ですので、活動の経費はそこから充当します。
したがって安すぎる場合は、充分にフォローがなされるのかチェックが必要でしょう。
あとは初年度に申込金や渡航費用などがかかります。
Q:
現地の送り出し機関との関係はどのようなものですか?
A:
組合が企業から受入れの要望を受け、実習生の募集や日本語教育を行う送出し機関とマッチングを行うのです。両者がきちんとした提携を組めているかもポイントになります。
組合が発注側、送り出し機関が受注側になる訳ですが、そこは利害関係が働きます。
先程、組合を選ぶポイントとして業歴や規模の大小の話をしましたが、やはり受注側としては、発注量の多い(規模の大きい)組合の方を優先するのは当然の事だと思います。
我々ですと、毎年提携する機関に講師を派遣して、現地の送出し機関の講師を教育したり、介護の実習生はこのように送り出しましょうとか、打ち合わせをして連携を深めています。組合と送出し機関が同じ方向を向いて仕事をすることが大切です。
実習生受入れのメリット
Q:
介護施設にとって実習生を受け入れるメリットは何ですか?
A:
本来の制度の趣旨は国際貢献ですが、実際は雇用の安定になろうかと思います。
技能実習生は、短期的なコストメリットはほとんどありません。
しかし3年、さらに5年となれば、非常にあると思います。と言うのも、当組合の実績ですが、3年間の定着率が98%くらいになるからです。
普通、日本人を雇用して、3年間の定着率が98%は有り得ないでしょう。
Q:
3年もいればベテランというか、下を教えるということもできるでしょうね?
A:
1年経ったら結構みんなやりますよ。
技能実習生は非常にモチベーションも生産性も高い。そして休まない、学ぶ意識も高いので残業も嫌がりません。
職場を大いに活性化させる役割も果たしてくれるでしょう。
Q:
企業側のメリットは、結果的に人件費を含めて雇用が安定するということが一番というところですね。
A:
本来は国際貢献が主旨ですが、中小企業で「国際貢献したいから実習生入れたいです」とは、なかなか思わないでしょう。
ただ受入れた後で、そう思う人は結構います。
社長さんがベトナムの実習生を子供のように好きになって、もうかわいくて仕方がない。社長が第二のお父さんみたいな感じで、それぐらい信頼関係ができたりもします。
そういう国際貢献もいいなと思います。
最後に多くの組合や現地の送り出し機関が作られ、場合によっては悪質な例も見受けられ、その弊害の多くは実習生本人に及んでいる現状、規模や業歴でも先行している同センターには、健全な組合活動を通じて、業界の基準を作ることが期待されます。
何より介護施設が正しい情報をもって、本制度について検討を加えることが重要とのこと、まずは気軽に相談してみて下さい。
有難うございました。