「環境整備に残業代を払う時代」の労務管理

環境整備(規律・清潔・整頓・安全・衛生)、掃除を熱心に企業経営に取り入れている会社が多い。環境整備・掃除を通じて会社をよくする専門コンサルタントもいるくらいだ。

その一つである、A社で事件が起こった。

A社は製造卸売業。従業員数は非正規社員もあわせて100名だ。A社のX社長は今年70歳を迎えるベテラン経営者。A社では経営の根幹に「環境整備」をかかげている。伝説の経営コンサルタント 一倉定先生の教えに従い、継続されてこられた。

そんな、A社に労働組合が出来た。中途で入った30代前半の社員2名が組合員となって、団体交渉を申し入れてきた。

その要求事項の一つが、早朝の掃除、少ない人で30分、長い人で60分超の時間を要している。その分の残業代を払え、というものであった。

X社長は、環境整備は道徳教育でもあり、A社の活動の原点としてとても重要視していた。

しかし、結局、会社として落ち着いた結論は、環境整備は毎日やらず、毎週1日60分間、所定内時間に集中して実施するということになった。残業代を出して、環境整備をやるということは最後までX社長は抵抗した。

トヨタのQC活動や朝礼など、従来なら議論にならなかった、社員の自主的活動・準備行為という半ば強制の活動に対して、裁判上・外で訴えが頻発している。

当たり前であるが、社員を指揮命令下において活動させるには賃金という対価が発生する。

その活動が、労働生産性が低く、無駄が多く、そのまま時間外手当を払うことができないなら、その活動は即刻廃止。

 

つまり、A社の事例は道徳的な意味もあるにせよ、環境整備の労働生産性が、残業代を賄えないから中止。

今後、この「生産性」という切り口をもって、すべての事業活動があぶりだされるだろう。その事業活動に人を張り付けることができない業務・時間帯が明白になる。

特に採用・定着で困っている飲食業・運送業などは、この労働生産性の低さという現実がすべての要因である。これらの事業はなくなることはないが、その考え方・やり方は音を立てて変わっていくはずだ。

 

また、今後、同一労働同一賃金の推進など、日本は急速に欧米化する。ただ、欧米とは異なり、日本には移民・単純作業をさせることができる外国人がおらず、開国する予定もないので、人手がいない。よって、労働生産性の高低によって、人の動かし方が限定される「高・労働生産性社会」に突入する。

良いか悪いか別にして、10年後は、環境整備による道徳教育という考え方はなくなるだろう。優秀な会社は賃金を払ってでも環境整備をやる。しかし、普通は社員にさせている掃除はAIを搭載した「高性能ルンバ」などのロボットに置き換わっているはずだ。


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