社会福祉士はソーシャルワークの専門職になれているか?

3月7日、大学や専門学校などで組織する日本社会福祉士養成校協会は、社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会に、「ソーシャルワークを業とする専門職である旨を明確にしたい」と、社会福祉士の定義の見直しを提案しました。

社会福祉士は、社会福祉士及び介護福祉士法に基づき、1987年より実施された国家資格です。資格を取得していなければ業務を行うことができない「業務独占資格」ではなく、その名称を名乗ることができる「名称独占資格」ですが、相談援助業務(ソーシャルワーク)を行う者の多くが取得しています。

それにも関わらず、「ソーシャルワークを業とする専門職である旨を明確にしたい」と定義の見直しが提案されたのは何故なのか。ある施設を例に、社会福祉士の立場から現状を報告します。

 

生活相談員の業務

特別養護老人ホームRは、政令指定都市にある施設です。2015年7月にオープン。長期入所80名、短期入所20名、デイサービスセンターと居宅介護支援事業所を有しています。この施設の課題は、短期入所とデイサービスセンターの稼働率の低さでした。新設施設のため知名度が低いことや、すでに地域に同様の施設が多数あり、オープニングから半年を経過しても、予測していた稼働率に達していなかったのです。

この施設での生活相談員のおもな役割は、①利用相談 ②利用前の実況調査・契約 ③入所調整 ④利用者の送迎 ⑤買い物の代行 ⑥預り金・買い物の清算 ⑦介護報酬の請求業務 ⑧短期入所利用者増加のための営業活動です。これを2人の生活相談員が行っていました。

利用相談、利用前の実況調査、利用調整についてはソーシャルワークと呼べますが、それ以外は、「生活相談員の業務なのか?」と疑問に思うところです。しかし、これらを生活相談員に行わせている事業所は多いことでしょう。

 

入所相談から利用までの流れ

電話または来訪により利用相談があると、その内容を記録に残します。利用の意思がある場合は家庭などに出向き、利用前の実況調査を行います。利用が決定したら契約を締結。施設に戻ると実況調査の内容をまとめ、介護職員などに報告して調整を図ります。

長期入所だけでなく、短期入所においても一連の手続きを行うため、新規の利用が増えるたびに、利用前の実況調査や契約などに出かける回数が多くなります。人員が少ないという理由から、送迎をも生活相談員が行っていました。

デスクに山のように置かれた不在中の利用相談のメモに電話連絡し、それらをこなしながら、買い物の代行や預り金・買い物の清算、毎月の介護報酬の請求業務を行います。利用者を増やすことは、自分の仕事を増加させることとわかっていながらも、他の居宅支援事業所への営業活動も行わなくてはなません。

このような状況が続き、開設から半年後にはオープニングメンバーだった生活相談員は全員退職。新しく採用された相談員も次々と辞めてしまいました。

 

使命と現実に苦しめられる社会福祉士

「ソーシャルワークを業とする専門職である旨を明確する」というテーマで話し合われることからもわかるとおり、資格創設から30年も経過しているにも関わらず、社会福祉士(生活相談員)は「何でも屋」として見られ、キャパシティ以上の仕事を担わされているのが現状です。

本来ソーシャルワークは、利用者や家族が抱える問題を共に考え、改善を図るものであり、営業や買い物の代行、事務や運転など、バラエティに富んだ業務を担当するものではありません。それを理解されないことから、社会福祉士は自らの使命と現実のギャップに大いに苦しめられているのです。

 

まとめ

地域包括支援センター、社会福祉協議会、医療機関、教育機関などで、少しずつ社会福祉士の必要性が高まる一方で、高齢者施設などの管理者がそれを求めないため、ソーシャルワークができない社会福祉士もいます。このままでは社会福祉士の資格を取得したのに、その仕事ができないという状況になり魅力を感じてもらえません。

施設管理者においては、「雑用などという業務はない。すべて等しく大切だ」という理論で誤魔化すことなく、社会福祉士の専門性を理解し適切な業務を担当させることで、資格の必要性を十分に浸透させてほしいものです。

 

関連記事一覧