2021年度介護報酬改定で評価方針 介護の軽減はできるのか?

2017年6月9日に政府が発表した「未来投資戦略2017」に、効果が裏付けられた介護サービスを、2021年度以降の介護報酬改定で評価する方針が明記されています。2018年度介護保険制度改正では、自治体の自立支援・重度化防止への取り組みに対する財政的インセンティブが導入されることも予定しています。今後は在宅復帰施設である「介護老人保健施設」はもちろんのこと、「終の棲家」と呼ばれていた「特別養護老人ホーム」にも、介護の軽減や自立支援がより強く求められるでしょう。果たして国の思惑通り、介護の軽減はできるのか。また在宅復帰は可能なのか。現状を検証しました。

 

介護老人保健施設の在宅復帰率

介護施設で、一番リハビリテーションに力を入れているのは、作業療法士や理学療法士などのセラピストの配置が義務付けられた介護老人保健施設です。入居者のほとんどの方は身体機能が向上して在宅復帰していると思われがちですが、現実は「在宅復帰できるのは、ほんのわずか」というデータが出ています。

厚生労働省の介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会が平成26年に発表した資料によると、在宅復帰できたのは、在宅強化型施設で59.2%だったものの、加算型施設で45.3%、通常型施設で18.1%、合計で26.4%しか在宅復帰していないという結果が出ています。

介護老人保健施設では、入所前に本人及び家族と、在宅までのスケジュールや、リハビリメニューが話し合われ、大まかな退所時期が設定されますが、この調査によると、「在宅復帰の見込みがある」と回答したのは、在宅強化型施設・加算型施設・通常型施設の3施設を合わせて18.3%、「見込みがない」は59.6%、「どちらともいえない」は、18.8%という低い結果となり、その傾向は通常型施設に多く見られます。

 

在宅復帰を阻害する要因

筆者は、老人保健施設の支援相談員から介護・福祉業界をスタートしました。異業種からの転職だったため何もわからず、老人保健施設のシステムと入居者や家族のニーズを把握することから始めました。老人保健施設は在宅復帰支援施設であり、セラピストによるリハビリテーションが日々行われているものの、在宅復帰を遂げたのは1年間で2名程度。そのほかは入院するか、特別養護老人ホームに移るか、死亡するかでなくては、退所することはありませんでした。

もちろん、リハビリテーションの効果がなかったわけではありません。入所前よりも機能が回復しているものの、「いままでのように一人で留守番できるようにしてほしい」など、家族が求める回復と本人の機能回復状況の乖離が大きく、なかなか在宅復帰に至りません。
それを裏付けるように、調査対象となったすべての施設が、在宅復帰が困難な理由を「自宅で介護できる親族がいない」と回答、「入所者の介護ニーズが高い」がそれに続きます。
「どの程度の回復を望むか」「回復が見込めない場合、どうするべきか」が、家族との話し合いのポイントとなるでしょう。

 

家族は在宅復帰を求めていない

すべての家族が、在宅復帰を歓迎しているわけではありません。在宅介護で苦労した方などは「施設に入ってもらってよかった」と胸をなでおろしているのがホンネです。多少機能が回復したとはいえ、どこかに介護が必要な場合は、「また大変な思いをするのか」と、在宅復帰を拒みます。調査によると、本人の入所理由が「リハビリテーション」で58.3%であるのに対し、家族の理由は「自宅介護の困難」で85.2%にも達しています。これでは本人がいくらリハビリを行ったところで、帰れる家などあるはずがありません。

 

介護施設にメリットはあるのか

自立支援がどのような報酬になるか不明ですが、現行のように介護度が下がれば報酬も下がっては、どの事業所も熱心になるわけがありません。下がった介護度の差額以上の報酬が求められます。特養においては、手厚いリハビリスタッフの配置は義務付けられていませんので、人件費をかけても実施するだけの費用対効果が求められます。

 

在宅復帰のカギを握るのはリハビリではない

在宅支援を行う上でリハビリ以上に大切なのが、家族とのやり取りです。いくら機能が回復しても、家族が受け入れなくては在宅復帰など望めません。逆に介護度が高くても一緒に暮らしたいという人もいます。在宅復帰のカギを握るのはリハビリと思われていますが、それと同様に社会福祉士などの相談支援員・生活相談員といった相談援助職の活躍が不可欠です。あまり話題に上がりませんが、「機能回復すれば在宅復帰は可能」と考えず、それに家族との調整が加わらなければ、在宅復帰に至らないことをご理解ください。

 

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