近年「介護離職」という言葉をよく耳にします。家族に介護が必要となり、やむを得ず早期に退職して、在宅介護を行うことです。総務省「就業構造基本調査」平成24年によると、日本では年間約10万人が、介護離職をしているといわれています。この状態が続くと、労働力が減少し、日本経済に大きな影響を与えるともいわれています。現状はどうなっているのか。また今後はどのように展開していくのか。「労働と介護」について考えてみました。
高齢者の数
・日本の27%を占める高齢者人口
まず、現在、高齢者がどれほど増加しているのかを調査しました。総務省は昨年「敬老の日」にちなみ、「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」を発表しました。それによると、高齢者口は3,461万人(平成28年9月15日現在推計)で、総人口に占める割合は27.3%となっています。
数字にするとピンと来ないと思いますが、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の総人口に匹敵する数といえば、その多さが分かると思います。高齢者人口は前年(3388万人、26.7%)と比較すると、73万人、0.6ポイント増加しており、人口、割合共に過去最高となりました。もちろん今後も下回ることなく増加の一途を辿ります。
・介護保険法の改正が追い打ちをかける
続いて介護が必要な「要介護者」の数を調べてみました。厚生労働省が発表した、2014年度の「介護保険事業状況報告」によると、要介護認定者数は初めて600万人越え、65歳以上が占める要介護認定者の割合は、全国平均で17.9%、そのうち、要支援1から要介護2までが65%を占めていることが分かりました。
2015年4月の介護保険法の改正により、要介護3以下は原則、介護保険施設の入所対象から外されました。たとえ介護度が低くても、目を離すことができない高齢者はいます。また在宅サービスの利用も回数や時間に限りがあるため、仕事をしながら家族の介護を行うことは、相当に困難なことといえます。
国の対策
こうした実態を踏まえ、厚生労働省は、企業に対して介護休業制度等の周知を行う等の対策を総合的に推進しています。その一つが「育児・介護休業法(介護関係制度)」です。厚生労働省「育児・介護休業法ガイドブック」によると、介護関係では、下記のような項目が制定されています。
・介護休業
・介護休暇
・育児・介護のための所定外労働の制限(残業の免除)
・育児・介護のための時間外労働の制限
・育児・介護のための深夜業の制限
・介護のための所定労働時間短縮等の措置
・労働者の配置に関する配慮、不利益取扱いの禁止
・紛争解決援助制度
・常時介護を必要とする状態に関する判断基準
介護は365日、24時間必要なもの。一過性の休業や休暇で行えるものではありません。それを裏付けるように、介護休業者の有無別事業所割合を見ると、平成26年3月から翌年4月までの間に介護休業を取得した者がいた事業所の割合は1.3%(平成25 年度1.4%)と低調です。
介護休業者がいた事業所のうち、男女ともに介護休業者がいた事業所の割合は1.1%(同1.6%)、女性のみいた事業所の割合は74.4%(同82.3%)、男性のみいた事業所の割合は24.5%(同16.2%)した。また、介護休業取得後、現場復帰した期間は一週間以下が31.8%を占めていることから、仕事と介護の両立が難しいことが浮き彫りとなっています。
企業の対策
労働人口の減少に伴い、企業においても介護離職は大きな問題であり、人材確保のためには、何らかの対策が必要となります。2017年5月26日付の「日本経済新聞」に、すし店チェーン「うまい鮨(すし)勘」の運営会社を傘下に持つウエノホールディングス(仙台市)の介護離職による人材流出対策が紹介されていました。
介護が必要な家族を抱えた従業員が離職するのを防ぐことを目的として、宮城県を中心に約30店あるすし店の近くにリハビリ施設を展開する方針だといいます。同社には2年ほど前から「介護があるのでシフトを減らしてほしい」「会社を辞めなければならない」といった従業員からの相談が目立ち、会社がそれに応えた形になっています。鮨勘の客の9割以上が地元の固定客なため、介護サービスに参入することで、他のすし店とは差別化を図った地域密着の経営姿勢を打ち出す考えだといいます。
まとめ
介護保険制度の改正などにより、国が介護離職の原因を作っていながら、そのツケを企業に回している感は否めません。介護施設としてのノウハウを生かして企業の介護離職をサポートする。そうした方向性のビジネスも、今後必要なのではないでしょうか。