負債総額43億3400万円 「ほくおうサービス」倒産が招いた混乱

今年7月14日に札幌地裁に破産を申請した、介護施設運営のほくおうサービス(札幌)などグループ5社の道内23施設を継承する予定だった福岡市の福祉施設運営会社「創生事業団」が、施設所有者との間で今後の家賃交渉がまとまらなかったと言う理由から、札幌など4市の8施設に関しては事業を継承しない方針を固めました。これにより、急きょ約340人もの入居者が転居先を探さなくてはならないことになりました。

介護施設はなぜ倒産するのか。その時、入居者や職員はどうなってしまうのか。ほくおうサービスの末路を辿ってみました。

 

ほくおうサービスの光と影

平成14(2002)年3月に、鈴木裕一氏により「ほくおうサービス」を設立、福祉用具貸与・販売事業を開始します。年に2~3施設のペースで新規施設をオープン、平成25(2013)年には、年間4施設もオープンしほか、同年5月には事業の更なる発展のために、ファンド会社「株式会社AP36」との資本業務提携を行っています。

「道内最大級の介護施設・老人ホーム」をうたい文句に、札幌市8施設、函館市6施設、江別市・旭川市・帯広市各2施設、幕別町・深川市・室蘭市各1施設を展開。その名のとおり、道内一円をエリアとして介護事業を展開、総居室数1,000床を構え、従業員数も約800名にまで増加していました。

平成28(2016)年3月期は年収入高27億6800万円と伸展したものの、平成29(2017)年においては、経常損失約4億100万円、当期純損失約4億8300万円と大幅な赤字に陥ります。それ以上持ちこたえることはできず、同年7月14日に札幌地裁に倒産を申請します。負債総額は43億3400万円にも上りました。

≪ここがポイント≫

平成28(2016)年には、札幌や旭川に大型施設を3つもオープンしています。新規オープンの場合、入居者募集、職員採用、職員教育など、かなりの手間と時間を要します。また高齢化が進む地域では、介護職不足が顕著であり、16年11月にハローワーク旭川が公表したデータでは、管内の介護福祉の月間有効求人倍率は2・95%にもなり、完全な売り手市場であることが伺えます。ほくおうグループでは資格手当や夜勤手当を多くするなど、人材確保のためにかかる経費が経営を圧迫していたと考えられます。

 

倒産はどこにでも起こりうる

ほくおうサービス倒産の原因を整理してみました。

1. 新規事業による職員の増員に伴い、人件費を中心とする固定費負担が収益を圧迫した。
2. その後も事業拡大が続いたことで、人件費負担の抑制を図れず資金繰りが限界となった。
3. 他業種の参入による競争激化により入居者が十分に集まらず、収支計画にずれが生じた。
4. 2015年度に介護報酬が2.27%引き下げらたため、経営を圧迫した。

≪ここがポイント≫

どれをとっても特別な倒産理由は見当たりません。帝国データバンクによると、全国の老人福祉事業者の倒産は毎年最多を更新、道内でも年間10~20件の倒産や休廃業があると言います。つまり規模の差はあれ、介護施設の倒産は、どこにでも起こりえるのです。

 

突然の廃止

7月14日に破産申立代理人らが札幌市内で記者会見を開き、ほくおうサービス(札幌)などグループ5社について、「全国で老人ホームなど26施設を運営する創生事業団(福岡市)が引き継ぐため、入居者の生活は現状のまま維持される。雇用も維持される」と発表、9月末までに運営する全23施設を譲渡することが伝えられましたが、土壇場に急展開を迎えます。

「施設所有者との間で今後の家賃交渉がまとまらなかった」と言う理由から創生事業団は、札幌など4市・8施設に関しては事業を継承しない方針を発表、世間を震撼させます。
9月中旬、当該施設が廃止される事実が入居者に通知されました。月末までに約340人が転居を余儀なくされると言う非常事態に、自治体も巻き込んで転居探しが進められます。

≪ここがポイント≫

今回廃止される予定の施設を訪ねてみると、10月を過ぎても入居者や職員の姿が見られました。大方の転居先の目星がついたものの、混乱が続いているようです。一番の被害者は入居者ですが、現場で働く職員もまた会社に翻弄された被害者なのです。

 

介護事業所の功罪

「多様化するニーズに柔軟に対応できる介護福祉サービスを」これは、ほくおうグループの社長が、会社設立当初に語っていた言葉です。しかしながら会社は倒産、入居者に支障が生じるのは明らかでありながら、譲渡も一部破棄されました。

筆者が駆け出しのころに勤めていた介護施設の幹部は「年寄りが札束に見える」と言っていました。高齢者介護をビジネスとして行うことも、それで利益を出すことも悪くはありません。しかしそこに入居者や職員の生活が懸かっていることを、経営者は忘れないようにしたいものです。

 

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