糖尿病と認知症の意外な関係~施設が取り組むべき糖尿病対策~

高齢者の4人に1人は認知症であると言われています。実際に施設入所者の大半は、程度の差こそあれ認知機能に何らかの問題を抱えているのではないでしょうか。

認知症の原因には様々なものがあり、ただ単に高齢による生理現象と一括りにすることはできません。その中でも、最近注目されているのは糖尿病です。
糖尿病は血液中に糖分が多くなる病気で、90%以上は暴飲暴食などの生活習慣が原因で引き起こされます。初期には自覚症状がないものの、未治療のままでは失明や腎不全、足の壊疽などの合併症が生じる恐ろしい病気です。日本では1000万人が糖尿病であり、罹患者は10代の若者から高齢者まで幅広く分布しています。

ここでは、この糖尿病と認知症の意外な関係を詳しく解説し、施設でも行える糖尿病対策をご紹介します。

 

1. 糖尿病の実態

対策を行うには、まずは糖尿病の正しい知識を習得しましょう。

1.1 糖尿病の原因

私たちは物を食べたり飲んだりすると、糖分を体に取り入れます。糖分は体のエネルギー源になる重要な物質ですが、体の中に入ると吸収されて血液中に流れます。血液中の糖分をエネルギーに変えるのは、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンです。インスリンは、脳が血液中の糖分の増加を敏感に察知して、分泌が促されます。

しかし、インスリンの分泌や働きが低下してしまうと、糖分の分解が進まずに血液の糖分は残ったままになります。このような状態が続くと、血液の中には糖分がどんどん溜まってしまい、様々な健康被害が生じるのです。このような病気を糖尿病と言います。
インスリンの分泌低下の原因には加齢やストレスが挙げられ、遺伝性があることもわかっています。また、脂肪細胞はインスリンの働きを妨げる物資と放出することが分かっており、肥満の人はインスリンの働きが弱くなると言われています。

1.2 糖尿病の症状

血液中に糖分が過剰に存在すると、血管内で活性酸素という有害物質が生成されます。活性酸素は血管内膜を傷つけ、そこにコレステロールが溜まることで動脈硬化を引き起こします。動脈硬化を引き起こした血管は詰まりやすく、弾力性を失って、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。また、血行が悪くなり、神経の傷害も生じます。

初期にはのどの渇きや倦怠感、足のしびれなどを感じることもありますが無症状のことが多いです。進行した状態では、全身の動脈硬化が進んで失明や腎不全などの様々な合併症が現れます。

 

2. 糖尿病と認知症の意外な関係

認知症の中でもアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は糖尿病によって悪化することが分かっています。

2.1 アルツハイマー型認知症

アルツハイマー病は、脳内に老人斑というβアミロイドが蓄積することで発症します。老人斑は脳の神経細胞を傷害して死滅させる働きを持ち、これが蓄積してしまうことで脳内の神経細胞が減少し最終的に認知機能に障害を来たすのです。

βアミロイドはインスリン分解酵素によって代謝されますが、糖尿病の人はインスリンの分泌が低下しているため、このインスリン分解酵素が相対的に不足しています。その結果、十分に代謝されずに残ったβアミロイドが脳内に蓄積して老人斑点を形成してしまうのです。

2.2 脳血管性認知症

脳血管性認知症の原因は脳梗塞です。糖尿病は脳の血管にも動脈硬化を引き起こしますから、当然脳梗塞のリスクが高くなるのです。特に糖尿病が背景にある脳梗塞は、小さな梗塞を多数繰り返し、進行性があるのが特徴です。

 

3. 施設が行うべき糖尿病対策

このように、糖尿病と認知症には密接な関係があるのです。糖尿病の前段階である高血糖状態でも、認知機能に害を与えることが分かっています。また、糖尿病は進行性の病気であり、糖尿病の悪化は認知症の悪化にもつながります。
では、糖尿病の発症と悪化予防のために施設が行うべきおススメ対策を紹介します。

3.1 食事、間食

施設での給食は栄養士に厳密に管理されていることが多いです。しかし、意外なところで面会者からの差し入れなどがあると、必要以上の糖分を摂ってしまうことがあります。

過剰な糖分の摂取は高血糖状態となり、特に高齢者ではインスリンの分泌や働きが低下している人が多いですから、糖尿病になりやすくなってしまいます。 もちろん、施設入所者には差し入れのお菓子を食べるのは大きな楽しみでしょう。禁止することは酷ですから、面会者には糖分の少ない差し入れを薦めるようにしましょう。

3.2 食べ方の順を工夫する

施設給食の栄養管理は専門の栄養士さんや業者が行っているので、ここでは糖尿病にいい食事についての説明は割愛します。
しかし、同じ食事でも食べる順番を工夫することで、糖分の吸収を抑えることができます。野菜や海藻類に含まれる食物繊維は、糖分の吸収を抑えることがわかっています。ですから、食事の時には食物繊維の多いものから進んで食べるように指導しましょう。

3.3 運動を取り入れる

運動は肥満予防になるだけでなく、体を積極的に動かすことで認知症の予防にもつながります。また、施設での生活は様々なストレスが溜まりがちですので、ストレス発散のいい機会になります。

しかし高齢者は運動時に転倒や思わぬ怪我をすることがあります。特別なトレーニングを行えなくても、職員が見守りを行いながら、施設内をゆっくり歩くなどの適度な動作を生活に取り入れるとよいでしょう。

3.4 歯周病に気を付ける

歯周病は糖尿病発症のリスクを高める病気として認知されつつあります。実際、糖尿病の人は歯周病である確率が非常に高く、糖尿病がまた歯周病を悪化させるという負のスパイラルに陥ります。

歯周病は、日ごろの丁寧な歯磨きで予防することができます。硬く溜まってしまった歯石はブラッシングでは取り除くことができませんので、入所者の口の状態を診ながら、半年に一度は歯科医院受診を勧めましょう。

 

4. 糖尿病は認知症のリスクである!

糖尿病はありふれた病気であり、認知症とは全く異なる病気と思われがちです。しかし、糖尿病が認知症のリスクを高めることは事実なのです。

認知症の発症や進行の防止は現代の医学をもってしても非常に難しいと考えられていますが、それを大きく予防することはできます。糖尿病予防もその一つでしょう。
入所者の生活の中で糖尿病予防を行えるのは、施設の職員です。特に難しいことはなく、ごく簡単な対策を毎日丁寧に行うことが大切なのです。

 

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