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介護業界をデータで振り返る~2018年に経営者が取るべき対応は?

【事業所数】前年対比97% 止まらない小規模デイサービスの減少

過去5年間の介護サービス事業所数の推移を見ると、小規模デイサービスと訪問介護の減少が顕著です。特に小規模デイサービスは前年対比で約97%5年前の事業所数を下回るのは時間の問題です。

介護サービス事業所数の推移

国がデイサービスに求めているのは、要介護者に対する「心身機能の維持向上」「生活機能の維持向上」「社会参加の促進」が期待できる機能訓練やリハビリ機能です。
極論すれば、機能訓練やリハビリをやらないデイサービスは、介護保険を使わない方向で進めて下さいというのが国のスタンスです。

この大きな流れの中で、小規模デイサービスは減少を続けています。
平成30年も、この流れが変わることはないでしょう。

 

【倒産件数】62件(1~8月) 経営の対応の遅れが致命傷になっている

小規模デイサービスの事業所数減と共に、介護事業の倒産が増え続けています。 東京商工リサーチによると、平成29年1~8月までの倒産件数は62件、過去最多となった前年と同ペースで推移しています。

背景にあるのは介護報酬の改定。
平成27年の2.27%報酬引き下げが原因と考えられています。

次に人手不足の問題。
「仕事はあるがスタッフがいないからサービス提供できない」「不足を派遣でカバーするため赤字になってしまう」「今いるスタッフへの皺寄せが離職につながる悪循環」という声は、私達の周囲からも聞こえてきます。
さらには競争による自然淘汰。過去5年間、成長マーケットを見込んで、異業種からの参入や、脱サラによる新規開設が増え続けました。在宅サービスの事業所数だけでも、コンビニの店舗数を超える現状、事業者間で激しい競争が行われています。
ノウハウを持たずに参入した新規事業者が、早々に撤退している様子がうかがえます。

現在、経営会議ドットコムにも多くの事業売却、譲渡の相談が寄せられています。
中堅規模以上の企業が小規模企業を吸収する、小規模同志が合併するなど、経営効率化のための再編が今後は加速しそうです。

 

【平均給与額】289,780円 【求人倍率】3.74倍 4社に3社は人が採れない

介護従事者処遇状況等調査結果(厚生労働省)によると、平成27年から28年の間に、介護職員の平均給与額は 9,530円、103.4%上昇しました。処遇改善が進んだとも言えますが、何より「超売り手市場」である事が、その要因です。

 

有効求人倍率(平成29年9月)3.74倍

1名の求職者に対して、約4社が採用決定を出す異常事態、つまり4社に3社は人が採れない。これはバブル時代の新卒採用に匹敵します。当時の記憶を辿れば、内定者全員に新車をプレゼントした話や、内定者1名に対して500万円の経費がかかった話、耳を疑うニュースが連日のように私達に届いていました。求人倍率は、その時と同じレベルです。

今年、東北福祉大学 1258 人の卒業生のうち介護福祉施設に就職したのはわずか 13.7%です。(東北福祉大学 HP より)介護事業者が応募者を奪い合うと同時に、他業界との採用競争にも負けている現状です。

全国で21の有料老人ホームを展開する介護事業者は、新卒採用コンサルティングを行う株式会社サカネットと提携、大学ゼミに所属する3回生向けにセミナーを開催しました。セミナーを通じて関心を持った学生は同社のインターンシッププログラムにエントリー、本格的な企業選びに入るより前に、自社に取り込もうとしています。

全国70余の介護施設の会議室で資格学校の分校を展開する日本総合福祉アカデミーは、提携施設向けの採用コンサルティングサービスを始めました。同アカデミーの持つブランドイメージや採用、集客ノウハウを使って、自社では厳しい採用を協同で行う事で突破しようとしています。

この11月、外国人技能実習生の対象が介護職へ広がりました。
厚生労働省の試算では2025年には約37万人の介護人材が不足すると言われており、これは20人のスタッフが必要な介護施設に常時3名の不足が出ることを意味します。
3名の不足を埋めるには、外国人はもちろん、仕事を持たない子育て世代やシニア世代、学生アルバイト、地域ボラティア、クラウドワーカー等、これまで介護業界と関わりが薄かった人達を、いかに取り込むかです。
とは言っても採用が難しい事に変わりはなく、離職をいかに食い止めるかの方にまず目を向けるべきでしょう。

コミュニケーションを取り職場の人間関係を改善すること、出産・育児休暇で職場復帰できる制度を整備してあげること等、働きやすい職場作りが第一です。
株式会社シンクスマイルは、社内 SNS「ホメログ」の中で「、ありがとう」や「良かったよ」のバッジを贈り合う事でスタッフのコミュニケーションを数値化、日常の小さな出来事を拾い上げ、積み上げる仕組みで「働くことが楽しくなる」にトライしています。

助成金を上手に活用し、企業が資格取得やスキルアップを計画的に支援する事も重要です。
資格取得とあわせて給与アップすれば、社員のつなぎとめになる上に、加算獲得による収支改善も期待でき、WIN-WINの関係です。
介護業界に特化した助成金申請代行を行う社会保険労務士法人はた楽は、顧問社労士との「すみ分け」を主張します。顧問社労士の場合、業務が就業規則や社会保険関係に集中するため、「助成金申請の経験が乏しいこともある」。今の顧問の契約はそのまま、助成金申請のみスポットで依頼する発想転換が必要と言います。

これまでの採用手法をゼロから見直す、これまでと違う人材に目を向ける、社員が働き続けたいと思える組織を作る事より、苦戦を強いられてきた介護業界が逆襲に転じることを期待したいものです。

 

【収支比率】平均3.3% 2018年に向けて経営者が取るべき対応は?

平成29年度の介護事業経営実態調査が報告されました。
全サービスの平均収支比率は3.3%。全産業の平均経常利益率も3%台で、これだけ見れば、「介護=不況業種」とは言えません。それよりは3年前の調査と比べ、大きく悪化している点が問題でしょう。
前回調査と比較して収支比率の悪化が特に顕著なものは、特別養護老人ホーム、デイサービス、小規模デイサービスです。
特別養護老人ホームと小規模デイサービスの場合、収入が微減にとどまっているにもかかわらず、人件費の上昇が収支悪化の要因です。
一方デイサービスは、収入減と共に人件費も上昇しており、かろうじて経費削減で収支バランスを取っています。

人件費の上昇は平成30年も続くことでしょう。
追い打ちで4月に迫る介護報酬の引き下げ、まさにダブルパンチです。

 

今後の対応① 国のビジョンに沿った変化

報酬改定に備えて収支を維持するには、国のビジョンにそった変化が求められます。
中重度介護者に対応できるPTや看護師、介護福祉士からなる専門家集団を形成、デイサービスなら機能訓練・リハビリ提供の質を徹底的に高めること、特養なら認知症高齢者や重度者への対応強化です。

個別機能訓練加算Ⅰ・Ⅱ、サービス提供強化加算、認知症加算、中重度者ケア体制加算の要件を満たせば、仮に専門職の雇用で人件費が上昇しても、充分に利益が確保できる事でしょう。

社会福祉法人が運営するデイサービス130施設を対象に行った大阪府社会福祉協議会の調査(平成27年)では、個別機能訓練加算を算定している施設が全体の44%、認知症加算が16%、これによる収支比率が9.4%と、デイサービス全体の収支平均4.9%の倍近くです。
加算を計画的に獲得できれば、収支比率 20%も不可能な目標ではありません。

今後の対応②ドミナント化による経営の効率化

ドミナントは、地域を絞って集中的に施設を展開する経営戦略です。知名度を活かして売上を拡大することや、コストを下げて経営を効率化することが目的です。

しかし介護事業のドミナントには業界特有の狙いがあり、1つはサービスの相乗効果です。サービス付き高齢者住宅の入居者に訪問介護を行う、デイサービスの利用者に生活支援サービスを提供するなど、利用者を共有しワンストップでサービスを提供することで、利用者から得る収益を最大化します。

もう1つは、人材の相乗効果です。スタッフを融通し合うことも狭いエリア内なら可能ですし、求人広告をまとめて出すこともできます。

 

今後の対応③ 保険外収益(生活支援)の獲得

都市部では核家族化が進み、独り暮らしの高齢者が増えています。
単身で日常生活を送ることに支援が必要な高齢者を対象に、保険外サービスとしての生活支援の取り組みが求められます。

便利屋業を行うベンリーは、各地の医療法人や社会福祉法人と提携し、施設の近くにベンリーの店舗を展開、病院や介護施設を利用する高齢者に生活支援サービスを提供しています。
外出支援、旅行支援の旅のトータルサポーター協会は、高齢者のちょっとした外出や、泊まり旅行のお手伝いを、提携する訪問介護事業者からアウトソーシングを受けています。

国が作る2025年までのロードマップは明確です。
その手前に来年の介護報酬改定があります。改定率がどうなるのか不確定部分はありますが、社会保障費を削減しなければならない国の事情があるため、長い目で見れば、どこへ着地するかは明確です。

介護事業者は、引き続き介護保険制度を活用するのであれば、中重度向けの事業に切り替えると共に、高度な専門家集団を採用、評価、育成、動機付けることができる組織運営力が求められます。


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