認知症の方はしばしば、普段最も近距離で接している家族に見せる顔と、普段なかなか接触することのない他の人に見せる顔が異なるという事例が見られます。
そもそも認知症には様々な種類があり、その種類によって症状なども異なるわけですが、この特徴は、比較的多くの方に共通して出るものです。
各種老人介護施設や、認知症の患者様を受け入れる施設のスタッフについては、経営者を含めてこの辺りの事情を知っているのと知らないのでは、大きくその後のご本人様のケアに違いが出てきます。
今回は認知症患者が施設での顔と自宅での顔が違うということが、一体どういうことなのか解説していきます。
施設ではできて、自宅ではできない?の謎
先ほど冒頭でも解説した通り、認知症の方はしばしば、家族に見せる顔と他の人に見せる顔が異なります。
この「顔が異なる」というのは、文字通り顔つきが違うということもあるのですが、どちらかと言うと施設ではこの行動ができるのにも関わらず、自宅ではその行動をとることができずに家族の介添を必要とする、というようなことを指します。
また、普段自宅では耳が遠くてなかなか話しかけても思うようにコミュニケーションが取れない、というような状況でも、施設や様々なデイケアセンターなど、外部の人と接触する時にはしっかりと耳が聞こえてハキハキと応対もできている、というようなケースも存在します。
(これをお読みの、ご家族の介護の経験のある方は頷きながらこの文章をお読みのことでしょう)
この様に、認知症の方やご高齢の方は、しばしばこのような形で自宅での様子と施設やデイケアセンターなど外部に出て行った時の様子が異なるということがあります。
ここが、ケアをする側にとって一番難しいところでもあります。
つまるところ、ご本人様の様子だけではなく、ご家族様からのヒアリングも同じくらいの比率で勘定に入れなければならないということです。
同居の場合、ご家族様が親戚などから責められるケースも
ちなみにこの現象は、普段接触しない「家の外の人」によく見られます。
それは決して、嫁いで行った娘さんなども例外ではありません。
これはよく見られるケースですが、高齢の方が親戚や嫁いで行った娘さんなどと外で会ったり、たまに自宅まで訪ねてきた際にはハキハキと対応ができているのにもかかわらず、自宅の中では認知機能などを含めて様々な介護が必要である、しかし家の外のこういった親戚の方にはとてもそういった状況には見えない、介護事業所のスタッフからも、そのようには見えない、とてもしっかりしていらっしゃる様にしか見えない、というケースがあります。
こういったケースの場合、介護保険のサービスや介護度の指標でもある介護認定についても、介護認定調査員との接触の際にはご本人様が普段は絶対にできないようなお茶出しや、様々な対応などができてしまうことから、要介護の区分が実情よりも低めに設定されてしまっているケースが考えられます。
こうなってしまうともう実情は同居の家族のみぞ知る、といった事になり、正確に状況を把握し判断することができる外部の人間というのはいなくなってしまいます。
このような場合、ご家族様が施設への入居や、施設の一時的な利用についても親戚などから「まだまだしっかりしているのに家から追い出すつもりか!」と責められる事があります。
この状況下で、さらに経験の浅い施設側の介護スタッフや関係者がヒアリングを行った場合に、介護保険の区分を含めてADL(日常生活動作)の評価を誤ってしまい、本来は入所や入浴介助目的の通所などで、介護介入が必要と思われる状態にあるにもかかわらず、まだ施設への入居および利用は見送るべきである、と判断を下してしまう危険性も決して0ではないわけです。
ここまで来ると、まず何より介護をされているキーパーソンとなる同居のご家族様が先に体力を使いはたしてしまいます。
そうなってしまうと、結果として介護介入が「間に合わなくなってしまう」危険性すらありますので、受け入れ施設の担当者はこのような状況をきちんと把握できるように、適正なヒアリングやADLなどの評価を行う必要があるわけです。
ミスコミュニケーション続きで家族は疲弊しているものと思うべし
このような状況は、認知症の進行度合いや加齢の状況から考えると介護介入まで短ければ数ヶ月、長ければ何年にもわたることになります。
中には、何年間もこういった状況に耐え続けているご家族の方もいらっしゃいます。
原則的にご家族の方は、親戚や外部とのミスコミュニケーションが続いていることから、板挟み状態に完全に疲れ切ってしまって、最後の最後に施設を訪れているというような捉え方でいることが重要です。
この辺りについては、無論介護業界の長い経験や経験値が判別の指標となるわけですが、経験の浅いスタッフが比較的多い事業所にあっては
「あれっ、どうもご家族のヒヤリングの内容と、ご本人様の様子が矛盾しているようだ」
と感じた時点で、上長または施設管理者、あるいはご本人様の担当ケアマネージャーに報告・相談をするような情報共有のスキームを整備しておくと、結果的に小さなミスコミュニケーションから起きる大きなインシデントを防ぐことができるようになります。
この小さなミスコミニュケーションを放置していると、ご家族様側が最終的に爆発してしまったり、ご本人様の希望に沿わないような介護ケアが行われることになるなど、どちらにしても問題解決までに多くの時間と労力を要する重大な結果を招きかねません。
社会福祉という観点から見ても、経営マネージメントという部分から考えても、こういった利用者様やご家族様の対応については出来る限り情報共有を行なっていくということが重要となります。
ご家族様・ケアマネに施設を知っていただくためには?
今回ご紹介したような事例というのは、どうしてもご家族様が外部に助けの声をあげられない・あるいは極めてあげにくい状況にあるということに端を発するような性質の事例です。
つまりご家族様には、介護介入やこういった施設に関する情報が極めて入りづらいという現状があるのです。
施設としては、周知徹底を行うことで利用者の獲得につなげたい、家族としてはこのような情報を「広く浅く」でもいいので集めることから始めたい、最終的には施設の利用をしたい。
これぞまさしく、需要と供給の一致です。
それではその、「需要」と「供給」をマッチングさせるものは何か。
「チラシ」です。
要介護状態にある高齢者の方には、原則として担当ケアマネージャーがついていますから、その担当ケアマネージャーに施設の強みや特徴について知っていただく目的でチラシを配布するというのも一つの見方です。
しかし、もうひとつの見方として、様々なところに同様にチラシを提出するなどして、地域の方に広く「この施設はこう言ったことができますよ」というような情報を提供するというのも、利用者増加の一つのルートとなるわけです。
仮にそのチラシを見た方が、高齢の要介護状態にあるご家族様と一緒にいらっしゃったとして「家族をここに入所させたり利用してみたいのだけれども、ここに連絡を取ってみてもらえませんか?」と、担当のケアマネに申し出れば、ケアマネは直接その施設にストレートに連絡を入れてくれます。
すなわち、結果論から考えればこういったチラシはケアマネのみならず、広く一般の方に見ていただくことにも意義があるということになるわけです。