医療安全管理チーム結成にみるヒヤリハットの管理事例

ヒヤリハットはどこにでもある

人は日常生活でヒヤリハットしたことはないでしょうか?

難しく考えずに。

例えばお気に入りの食器を落としそうになり、なんとか割れずにすんだとき、心臓がどきどきしたことを経験された方も多いのではないでしょうか?

これこそヒヤリハットですね。

このように日常生活にもヒヤリハットはあるのです。

このヒヤリハット、もともとは飛行機の飛行中同士のニアミス事案があり、放置すれば重大事故に結びかねないのでそれを防ぐために検討されました。

それをハインリッヒの法則といいます。

1・29・300。

一つの重大事故に29のアクシデント、300のヒヤリハットがある、とされています。

医療機関ではミスのできないところですが、それでも人間である以上ミスは避けることはできません。

私が過去に勤務していた病院では医療安全ユニットがありました。

今回はそんな医療安全ユニット結成とその実際の運用に見るヒヤリハットの適切な管理事例と課題について、実例を共有します。

 

医療安全ユニットは様々な職種が事故防止を目的に結成

いろいろな職種、例えば医師・看護師・放射線技師・臨床工学技士、リハビリ(PT)、MSWなどが参加して、各部署から提出される、インシデント・アクシデントを統計し、次の事故防止に活かすことが目的で設立されたユニットです。

ユニットは医療安全ユニットだけではなく院内環境ユニット、院外関係ユニット、危機管理ユニット、病棟開放ユニットなどがあり、ある程度ユニットに権限をもたせています。

成績や病院に対する貢献度により年度末に報酬があるのも、職員にとってモチベーションがあがります。

どこのユニットに希望するかは職員の自由で、職域や役職を縦と横に交差させて、マトリクスを活用させています。

ヒヤリハット・アクシデントを起こしてしまった場合、書式の決まった用紙に記載してもらい、各所属長に提出してもらいます。

それを1か月後度に我々ユニットに提出され、データ分析を行います。

 

ヒヤリハットはあくまでも当事者を責める裁判ではない

ここで難しいのは、ヒヤリハットは当事者を責めることではなく、データを取集し、分析し、次の予防策へと活かすための用紙であることを説明しないとなかなかヒヤリハット用紙が出てきません。

用紙は3種類用意し、黄色はヒヤリハット、オレンジはアクシデント(事故)、赤色は重大事故(死亡案件など、病院内での幹部の対応、訴訟の可能性、つまりユニットでは対応できない案件などでユニットは速やかに責任部所、所属長に差し戻します。)です。

いろいろな対策をユニット内で協議しながら対策を考え、月1回部課長のみで構成される危機管理委員会で今月の件数、発表した方がいいと思われることを報告します。

その中で成功した1例を紹介します。

当院は認知症を対応する病院ではなく、あくまでも治療がメインの病院でした。

しかし、治療が必要な認知症患者は治療の必要があれば病院側は拒否できません。

しかし、大きい病院で少し目を離すと、どこかに行ってしまい、探すのに大変苦労することもあり、看護師からは「早く退院させてほしい」とクレームがでてきます。

そこで徘徊や意味もなく病室や病棟をはなれてもいいように、病衣の襟の部分で赤い布を縫って他の部署にも周知徹底を図り、赤い布を見かけたら、声をかけ、どこの病棟かを確認し、迎えにきてもらえるようにシステム化しました。

このおかげで院外にでていく認知症患者は劇的にへりました。

これはあくまでもユニットが考案しただけですが、それを病院全体で協力しながら行えることが非常に重要なのです。

 

こんなにある!転倒やベッドからの転落、誤薬に関するヒヤリハット

ヒヤリハットとアクシデントで一番多いのが転倒・ベッドからの転落です。その次に誤薬です。

転倒には防げる転倒と防げない転倒があります。そして転倒してから確認したときに対応した職員(看護師や介護士がほぼ100%の発見)が、転倒しているのでアクシデントの報告を記載します。

防げる転倒は転倒しやすい場所が特定できればそこの環境を整備することにより転倒のリスクは軽減します。解析結果も数値として表れていました。

ベッドからの転落や転倒のリスクが高い患者さんにはベッド横にセンサーマットを敷いて、体圧を感じればナースコールにつながることも効果的ですが、センサーマットは全員のリスク対象者に敷くことはできないのが現実です。(物品購入になるので決済が必要、経費削減をしている所はなかなか購入してもらえないことが多いと思われます)

次に誤薬ですが、理由として多いのが確認不足です。これも重大なアクシデントです。例えば血圧が高い患者さんに血圧を上げる薬を血圧が低い患者さんに血圧を下げる薬を投与してしまったら、最悪死亡事故にもつながる程の危険性があるのです、最近は患者さんの腕に名前を血液型が記載されたタグを手首にしている医療機関が圧倒的に多いと思われますが、それでも患者さんの取り間違いはあるのです。

内服の間違えだけでなく、点滴や胃瘻などの栄養も間違う場合もあります。栄養だからどれでも一緒と思われがちですが、栄養の中に薬も粉砕されて混入されているので間違えることは十分なアクシデントなのです。

内服や栄養の取り間違いは看護師の慣れと油断も影響されるのですが、同室の患者さんの名前が良く似ていて間違えることもあるとの結果報告の中にはありました。例えば、●●勉さんと●●誠さん。

●●の苗字が同じだったのです。ともに胃瘻からの栄養でありますが、中身の薬が全く違いました。一文字間違えただけで充分なアクシデントなのです。

幸いなことに下剤や、鉄分の薬であったので大きな影響はなかったのが救いでしたが、これも死亡事故を誘発してしまうこともあるので細心の注意をはらう必要があるのです。

このようにユニットによりデータを分析することによりいろいろな取り組みが実際に採用されました。これは活動が評価されたのであり、非常に有意義な活動でした。

 

医師からの報告書が上がらないという課題も

ただ、課題も残りました。それは医師の報告書が1件(それも研修医)だけでした。

1度医局で医師全員に無記名でアンケートを実施したのですが、ほとんど全員の医師がヒヤリハットした経験があるとの回答でした。しかし、実際は報告書として上がってこない現状があるのです。理由として医師は忙しいことと、他にも診断書など書かなければならない書類が次々とでてきます。

要は「暇がない」との回答が一番多かったです。医師にヒヤリハットの報告書を記載してもらうためには医師専用でかつ記入しやすい報告書を作成する必要があるのでないかと意見としてでましたが、まだ専用の報告書はできていません。

医師は生死と隣り合わせの仕事をしているのでなかなか提出してもらうのは難しいかもしれないのが現状ですが、何か工夫する必要があるのではないかと思われます。

以上のようにヒヤリハット・アクシデントの書類は次から失敗を少なくする上で重要性があることがわかりました。特に防げる事故で転倒が多い時間帯などもデータ収集できその時間帯に転倒のリスクが高い患者さんを注意深く観察することによって未然に転倒を減らすことができることも報告書が減ったことで効果があることがわかりました。

ユニットは決して犯人探しではなく、次からの実践に活かせることが大切なのです。そのためには報告書の提出が重要になるのです。(事故がなく0件が一番理想ですが、ほぼ不可能なので)

ユニット活動を実施している医療機関は少ないと思いますが、ぜひ試してはいかがでしょうか?これだけの実りがあるのです。

 

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