医療ソーシャルワーカー(MSW)として勤務をしていると、様々なケースに出くわすことがあります。
そしてそのためにMSWは今までの経験や知識を基に、最善の選択肢をご案内して差し上げるというのが社会的な使命であり、そして直接的な業務内容でもあります。
今回は旦那様が突然高次脳機能障害というような状況になってしまい、途方に暮れてしまったご家族様にメディカルソーシャルワーカーとしてできる最善の方法を取り、生活再建のお手伝いをすることができたケースについて、事例をご本人が特定できないような形で、ご家族様の手記のような形でご紹介していきます。
突然の脳梗塞
夫が出張中のある日の夜、突然職場の方から電話がありました。「ご主人倒れて病院に運ばれました」と。
その後のことはあまり覚えていませんが、気が付けば病院の夫の病室でした。その後お医者さんより病状説明があり、診断名は脳梗塞でした。
今のところ後遺症については何とも言えない。様子を見るしかないとのことでした。
職場の方からお話を聞いたところ、ホテルの部屋で倒れていたので急いで救急車を呼びましたとのことでした。
正直途方にくれました。子供も2人とも小学生でこれからの生活はどうなるのであろうかと…
次の日には夫は目を覚ましました。
私達が妻と子供であることも理解し、職場の方のことも理解していました。
まずは安心しましたが、これからの生活のことは不安で仕方ありませんでした。
担当の先生より今の病院が地元より遠距離であること、今後リハビリも必要になると思われるので地元でリハビリを受けることのできる病院に紹介状を書くのでそちらに転院し、リハビリを続けてくださいと紹介状を書いてもらいました。
そして紹介状を持って地元の病院に転院することになりました。その病院は担当の医療ソーシャルワーカーさんがついてくれて今後のことや生活や経済的な面のサポートも受けることができるとのことで一安心しました。
転院後主治医の先生から病状説明があり、「脳梗塞の症状というよりは一酸化炭素中毒の症状に似ている」と言われました。
「リハビリしながら今後のことはソーシャルワーカーと相談しながら進めてください」
「ただ後遺症としては高次機能障害の可能性があります。珍しい症例です」と。
私より「どこまで回復しますか?」と質問したところ「身体的には麻痺などの心配はいらないですよ。けれど認知機能面が低下し仕事復帰が難しいかもしれません。あと運転は控えた方がいいですね。」とも。
後頭部をバットで殴られた気分になりました。この先子供が成長すればお金もかかることになるので不安で仕方ありませんでした。
藁をもすがる思いで医療相談室のドアをたたきました。
担当してくれるソーシャルワーカーさんは男性のかたでしたが、私の話を親身になって聞いてくれました。
これからの生活のことが不安で仕方ないと訴え、「それは心配ですね。ゆっくり考えていきましょう」と物腰の柔らかい口調で話してくれました。
まずは相談できる人ができ、これからのことはソーシャルワーカーさんと相談していくことになりました。
リハビリの方は順調で麻痺はありませんでした。しかし、心理テストでIQが少し低いとの評価でした。将来的な心配をするようになりました。
その足でソーシャルワーカーさんの所へ行き、相談しました。
すると「まずは職場に事情を話してどうするか決めましょう。話しづらいのであれば私から話しましょうか?」と言っていただき、電話してもらうようお願いしました。
ソーシャルワーカーさんにはその場で職場に電話をしてもらい、夫の状況を説明し、職場ではどのように対応してもらえるかと聞いてもらったところ、今までは営業職で車の運転があったのですが、内勤にして経理の方を担当してもらえることになりました。
その間の経済面は傷病手当があるのでその制度を利用しましょうとソーシャルワーカーさんから言われ、しばらくの経済的な心配のないことに安心しました。
その後職場復帰のために職場での実践的なリハビリをしてもらえるようになりました。
その間の給与は傷病手当が支給されなくなるので無給という形でリハビリを開始しました。
しかし、単純な計算もミスすることが多く、職場側の結論としては「復職は残念ながら厳しい」との判断でした。
ソーシャルワーカーさんは職場にかなり交渉をしてくれましたが、残念な結果でした。
そのため傷病手当は1年半しか支給してもらえず、その後の経済的なことをソーシャルワーカーさんと相談しました。
その時には高次脳機能障害の診断は確定診断となっていました。ソーシャルワーカーさんは「今までもらっていた給与よりは低くなると思いますが、障害年金を受給できる可能性があります。しかし、この病院では高次脳機能障害での年金の診断書を書くことはできないので、精神科に受診してもらう必要があります。主治医からは紹介状を書いてもらうよう依頼しておきますのでそれをもって精神科に受診してください。先方の医療ソーシャルワーカーには私から手紙を書くので、紹介状と合わせて受診してください。スムーズにできるように段取りしておきます」
と言われ、精神科という言葉には正直抵抗感がありましたが、精神科のお医者さんしか診断書は書けないのを理解したので受診しました。
すでに精神科の方には主治医の紹介状とソーシャルワーカーさんの手紙が届いていたので私が説明しなくても「事情は○○病院から聞いてますよ。診断書かきますね」とスムーズに手続きが終わりました。
厚生障害年金の3級に認定
半年後年金機構から通知がきて、厚生障害年金の3級に認定されました。月だいたい6万の支給でしたが、非常にありがたかったです。そして無事退院することができました。
今、夫は就労継続A型という精神障害の作業所に通って最低賃金ですがいくらかの収入があります。
それと年金と合わせて10万程度の金額になりました。私も専業主婦でしたが、パートで働くようになり、何とか生活を維持できるようになりました。全く心配がなくなったとは言い切れませんが、まずは生活できる程度の収入は得ることができているので感謝しています。
このように突然の事態になすすべなく途方に暮れておられるご家族の方にMSWとして、して差し上げられるということは数多くあります。
今回の事例は様々な交通整理のような形の仕事となりましたが、新米のMSWの方や、あまり経験が豊富ではないというMSWの方にはこのような方法もあるということを覚えておいていただきたいと思います。