ADL維持・向上に化粧療法を社会福祉法人が導入

日本で最後の野生コウノトリの生息地として知られる兵庫県豊岡市。
社会福祉法人豊岡平聖福祉会は、豊岡市でショートステイ、デイサービスセンター、訪問介護、サービス付き高齢者向け住宅を運営しています。

この日は朝から、男性3名、女性9名、合計12名のスタッフが施設の食堂兼会議室に集まって研修を受けている様子です。それ自体はスタッフ教育に力を入れる同会では珍しい事ではありませんが、いつもと違うのは、スタッフが座るテーブルにたくさんの化粧道具が置かれている事でした。

化粧療法とADL向上のための整容講座

豊岡平聖福祉会が導入したのは、資生堂ジャパン株式会社(東京都港区)が行う「ADL向上のための整容講座」、ベーシックからマスターコースまで合計10時間に及ぶプログラムです。
同講座は、資生堂化粧療法の考え方に基づき、化粧レクリエーションスキルや、化粧による整容ができる為の知識が技術を学び、高齢者のADL(日常生活動作)の維持・向上、QOL(生活の質)の向上を目指すためのものです。
今回の講座では、大阪から資生堂の化粧セラピストのインストラクターを招き、化粧レクリエーションがスタッフによって実施できるレベルとなるよう、化粧療法の考え方や、スキンケア・メーキャップ技術、具体的な進め方について学びました。

同社のライフクオリティー事業グループの池山和幸さん(医学博士、介護福祉士)によると、化粧は「外出したい気分になり、社会参加が促されて、QOLの向上につながる」効果が期待できるとのこと。その効果性を、池山さんは医学や介護の視点で検証しています。
このあたりの詳細は、資生堂のホームページでご確認ください。

 

日常生活動作に対するプログラムとして

話を元に戻すと、豊岡平聖福祉会が化粧療法を導入するきっかけとなったのは、同会マネージャー松岡陽子さんの経験があります。
「部屋から出ることを拒み続けていた介護度の高いおばあちゃんに、お化粧をしてあげたら、元気に外出するようになったんです。」
この経験と、池山さんの話を聞く中で、女性にとっての化粧は、介護度を進行させない決め手になるのではと導入を決断しました。

そして、もう1点が現実的な話ではありますが、日常生活動作に対するプログラムとして個別機能訓練加算Ⅱの獲得です。
化粧は女性が若い時から日常的に無意識で行ってきたこと、他の訓練と比べて導入のハードルがぐっと低いのが、「気に入った」と松岡さん。
「やらされ訓練では、本当の意味でのQOL向上につながりません」と池山さんの言葉には説得力があります。 国が居宅サービスに求める機能に忠実に応えたサービスを提供する、このあたりの加算獲得に向けての同会の取り組みは、介護経営でも改めてレポートします。

居宅サービスの機能

毎日の生活を楽しんでいただくために

さて講座の方は、基礎となる考え方をおさえつつも、体感型のメーキャップ技術の習得が中心です。
最後の締めくくりでは、化粧レクリエーションのロールプレイングです。ファンデーションや口紅、ほお紅をつける所までをペアを組んで行いました。

「みんな楽しそうにやっていましたが、特に男性スタッフが真剣に取り組んでくれていたのに驚きました」と松岡さん。
10時間の講習を経て、マスターコースの修了証がインストラクターより手渡されました。
続きは、いよいよ実践で。化粧のちからで、高齢者の方々にいつまでも元気で、毎日の生活やおしゃべりを楽しんでいただくために。

最後に池山さんより。「我々が何十年と化粧療法を続けてきて分かったことですが、女性は口紅一本で社会との繋がりを持つことが出来ます。私は化粧とは、行政や事業者、家族が介護予防に取り組む上でのインフラ(基盤)だと考えています」

資生堂化粧療法についての説明会が全国で開催中です。

関連記事一覧