要介護高齢者の自動車運転問題

最近高齢者の自動車事故が増えてきています。高速道路を逆走したり、ひき逃げをしてしまったり、誤作動をしたり、残念なことに尊い命が奪われるニュースが毎日のように流れてきます。 この状況を受けて、公安員会では免許証の更新期間満了日の年齢が75歳以上で免許更新を希望する人に対し、認知機能検査の受検と高齢者講習等の受講を求めるようになりました。

 

<ケース1> Sさん 70代男性

軽度脳梗塞、左に若干の麻痺あったが、リハビリの成果でほぼ麻痺の後遺症を感じさせないまで回復しました。認知面も長谷川式簡易スケールで23/30と認知症との診断はつきませんでした。

順調にリハビリも進み、退院も支援がなくできそうでしたが、本人が相談室に来室されました。
確認すると「車の運転が出来ないと困る」との要望です。
主治医よりMSWに相談するように言われたため来室したようです。
現状高齢者講習の対象ではないため受講する必要はないのですが、リハビリに確認したところ、「運転は厳しいとリハビリ中に話をしている」とのことでした。
そのため、どこかSさんは、自分の運転を肯定してくれる人を探しているような感がしました。

バイステックの原則には、受容(受け取れる)の原則がありますが、人の命が係わる場合はこれを否定することもまた受容である。と書かれているので、まずは全否定せずに、昨今の車の事故などをフランクに話しながら本人の反応を伺いました。
「俺は大丈夫。運転できる自信がある」との返答でしたが、客観的なデータで証明することが難しいので、運転免許試験場で行われている、シミュレーターでどこまで運転技術があるか試してみることを本人に了解してもらいました。
試験場では教官が隣について指示をおくり、ハンドルさばきや、アクセル、ブレーキの圧を継続してもらいました。
アクセルは問題なかったのですが、若干麻痺が残っている左足で踏むブレーキの圧が弱く、実際に運転をした場合には止まりきれないとの話でした。

教官より「免許証は取り上げることはできないけど、今の運転をみていると非常に危険。車の運転は人の命にも関わることだから運転はしない方がいい」との判断が出ました。実際シミュレーターでバーチャル運転をして、Sさんも諦めたようです。
しかし、1つ問題がありました。
Sさんは、車がないと非常に不便な場所に住んでいることが確認できました。車がないと生活ラインが停滞することになります。 その問題を解決するために提案したのが、「生活保護」でした。 生活保護の条件として車の保有は認められていないので、売却や廃車にする必要があります。生活保護を受けることによってバスの無料チケットやタクシーの割引チケットが支給されるので、病院に受診される時もバスを利用することにより外出機会の確保が可能になりました。
自宅は公営住宅で仕事として就労継続B型に通っていましたが、そこは送迎の対応が可能であることも確認しSさんも安心されたようです。

 

<ケース2> Kさん 80代男性

Kさんは杖歩行、脳梗塞の既往はありましたが、麻痺などの後遺症はなし。認知症は長谷川式簡易スケールで16/30と認知症の判定。介護保険は申請済みで、要介護1です。

外来より「相談したい患者さんがいる」との連絡が入り相談室に来てもらいました。
主訴を確認したところ「本人が運転を辞めてくれない。辞めるようにいってほしい」との内容でした。しかしKさんは「運転はできる。呆け扱いするな」と興奮していました。そのため、後日家族だけで来室されるようその日は帰っていただきました。
翌日家族だけで来室されましたが、何とかしてほしいと家族も訴えるばかり。
運転を辞めさせるには家族が毅然とした態度で対応するしかないこと、免許証の返納、車の売却、車のバッテリーを外し動かないようにする、など対処方法を説明しました。
しかし家族からは、「私たちからは言えない。本人に言ってほしい」と懇願される状況、何度もそれはできかねると伝え、家族で対応するしか方法はないことを多少きつめに言いました。
「車の事故は相手がある話になります、事故になってからでは取り返しがつきません」と。ここばかりは本人の意思ではなく、運転はさせないとする毅然とした態度で対応するしか方法がなかったのです。

その後、病院の廊下を歩いているとKさんの家族に声をかけられました。 ずっと気にはなっていたので「その後どうなりましたか?」と質問すると、本州に住む息子さんがKさんに対してかなり怒ったそうです。
Kさんは息子さんの言うことは昔から聞いていたので、効果があったのか運転を「諦める」と了解したようですが、Kさんは認知症があるため、また「運転する」と繰り返し、その都度息子さんから怒ってもらっているそうです。

 

まとめ

このように高齢者の運転は社会問題にもなっています。
75歳以上の高齢者講習や認知症の検査なども実施義務になってきましたが、それでも事故が後を絶ちません。高齢者講習にクリアしてしまえば運転できてしまうからです。
自主返納も受け付けていますが、ほとんど効果はありません。田舎になると車がないと移動手段が確保できないのも事実です。
このような問題を解決するには路線バスや乗り合いタクシーなどの普及も必要になってくるでしょう。そうでないと、いつまでもこの問題は解決しないのではと思います。

 

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太田 文弘

医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、ひきこもり支援相談士。 北星大社会福祉学科を卒業後、医療機関でソーシャルワーカーとして、居宅介護支援事業所にてケアマネジャーとして勤務。 主な論文「開業医と介護支援専門員との連携の乖離による弊害 (勇美記念財団)」「24時間対応の在宅人工呼吸療法のすべて-在宅療養に向けてのチーム医療-(難病と在宅ケア11巻 3号  共著)」

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