厚生労働省は介護保険の訪問介護(ホームヘルプ)や通所介護(デイサービス)で利用できる「保険外サービスの事例」を自治体に通知しました。保険外サービスの導入時期は示されていませんが、国家戦略特区を活用した東京都豊島区の混合介護のモデル事業が2021年3月まで実施され、それ以降に課題を検証するとのことから、導入時期はその先と予想されます。介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いについてまとめました。
第1 共通事項
「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」に、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱いが示されています。介護保険給付の対象となる指定訪問介護のサービスと明確に区分されるサービスは、次のような方法により別の料金設定ができます。
- 利用者に保険外サービスが介護保険給付の訪問介護の事業とは別事業であり、保険外サービスが介護保険給付の対象とならないサービスであることを説明して理解を得ること。
- 保険外サービスの目的、運営方針、利用料等が、指定訪問介護事業所の運営規程とは別に定められていること。
- 会計が指定訪問介護の事業の会計と区分されていること。
第2 訪問介護と保険外サービスを組み合わせて提供する場合について
1 これまでの取扱い
訪問介護については前述の基準解釈通知に加え、次の内容が示されています。
- 保険外サービスとして利用者と事業者の間の契約に基づいていること。
- 保険給付対象サービスと明確に区分し、利用者の自己負担によって保険外サービスを提供すること。
2 訪問介護と保険外サービスを組み合わせて提供する場合の例
訪問介護と保険外サービスを組み合わせて提供する場合、次のようなケースが想定されます。
- 訪問介護の前後に連続して保険外サービスを提供する場合。
- 訪問介護の提供中に、一旦、訪問介護の提供を中断した上で保険外サービスを提供し、その後に訪問介護を再開する場合。
①訪問介護の対象とはならないサービスを利用者本人に提供
- 訪問介護の提供の前後や提供時間の合間に、草むしり、ペットの世話などのサービスを提供すること。
- 訪問介護として外出支援をした後、引き続き利用者が趣味や娯楽のために立ち寄る場所への同行すること。
- 訪問介護の通院等乗降介助として受診等の手続を提供した後に、引き続き介護報酬の算定対象とならない院内介助を提供すること。
②同居家族に対するサービスの提供
- 訪問介護の提供の前後や提供時間の合間に、同居家族の部屋の掃除、同居家族のための買い物のサービスを提供すること。
<留意点>
利用者本人分の料理と同居家族分の料理を同時に調理するなど、訪問介護と保険外サービスを同時一体的に提供することは認められません。
3 訪問介護と保険外サービスを組み合わせて提供する場合の取扱い
訪問介護と保険外サービスを組み合わせて提供する場合には、保険外サービスを訪問介護と明確に区分することが必要であり、その具体的取扱いとして事業者は次の事項を遵守してください。
①保険外サービスの事業の目的、運営方針、利用料等を指定訪問介護事業所の運営規程と別に定めます。
②契約の締結に当たり、利用者に対し、上記①の概要その他の利用者のサービ スの選択に資すると認められる重要事項を記した文書について丁寧に説明し、保険外サービスの内容、提供時間、利用料等について利用者の同意を得ます。なお、保険外サービスの提供時間は、訪問介護の提供時間には含めません。
③契約の締結前後に、利用者の担当の介護支援専門員に対し、サービスの内容や提供時間等を報告します。その際、当該介護支援専門員は、必要に応じて 事業者から提供されたサービスの内容や提供時間等の保険外サービスに関する情報を居宅サービス計画(週間サービス計画表)に記載します。
④利用者の認知機能が低下しているおそれがあることを十分に踏まえ、保険 外サービスの提供時に利用者の状況に応じ、別サービスであることを理解し やすくなるよう、訪問介護と保険外サービスを切り替えるタイミングを丁寧に説明する、エプロンの色を変えるなど利用者が別サービスであることを認識できるような工夫を行わなくてはなりません。
⑤訪問介護の利用料とは別に費用を請求します。また、訪問介護の事業の会計と保険外サービスの会計を区分してください。
<留意点>
指定訪問介護事業者は、訪問介護を提供する事業者の責務として訪問介護に係る苦情に対応するための措置を講じていることから、保険外サービスにも苦情窓口の設置が必要と考えられます。
(介護予防)訪問入浴介護、(介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハ ビリテーション、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護をペッ トの世話など、2.①②に記載されているような保険外サービスと組み合わせて提供する場合も同様の取扱いとします。
4 サービス提供責任者について
指定訪問介護に従事すること が求められていますが、業務に支障がない範囲で保険外サービスにも従事することが可能です。
第3 通所介護を提供中の利用者に対し、保険外サービスを提供する場合について
1 これまでの取扱い
通所介護は、入浴、 排せつ、食事等の介護、生活等に関する相談及び助言、健康状態の確認その他の居宅要介護者に必要な日常生活上の世話並びに機能訓練を行うサービスであり、様々なサービスが介護保険サービスとして提供可能です。
このため、通所介護事 業所内において利用者に対して提供されるサービスについては、通所介護としての内容と保険外サービスとしての内容を区分することは、基本的に困難といえます。
理美容サービスについて
通所介護と明確に区分可能であることから、デイサービスセンター等において、通所サービスとは別に利用者の自己負担により理美容サービスを受けることは可能である旨を示しています。
併設医療機関の受診について
- 通所サービスのサービス提供時間帯における併設医療機関の受診は、緊急やむを得ない場合に限り認められます。
- 通所サービスの提供時間には、理美容サービスに要した時間や緊急時の併設医療機関の受診に要した時間は含められません。
2 通所介護と組み合わせて提供することが可能なサービス
通所介護事業所内において利用者に提供されるサービスは、通所介護としての内容と保険外サービスとしての内容を区分することが困難なため、保険外サービスとして利用者から保険給付とは別に費用を徴収することは適当でなく、特別な器具や外部事業者等を活用する場合であっても、通所介護として実施し、必要に応じて実費等を追加徴収することが適当です。
ただし、以下の①~④の保険外サービスについては、通所介護と明確に区分することが可能であり、事業者が3.の事項を遵守している場合には、通所介護を提供中の利用者に対し、通所介護を一旦中断したうえで保険外サービスを提供し、その後引き続いて通所介護を提供することが可能です。内容と留意点は次の通りです。
①事業所内における、巡回健診等の保険外サービスを行う場合
- 通所介護事業所内において巡回健診等を行う場合は「医療機関外の場所で行う健康診断の取扱いについて」を遵守してください。
- 鍼灸や柔道整復等の施術を行うことはできず、無資格者によるマッ サージの提供は禁止されています。
②利用者個人の希望により通所介護事業所から外出する際に、保険外サービス として個別に同行支援を行う場合
- 機能訓練の一環として通所介護計画に位置づけられた外出以外に、利用者個人の希望により、保険外サービスとして個別に通所介護事業所からの外出を支援します。外出中は、利用者の希望に応じた多様な分野の活動に参加することが可能です。
- 当該保険外サービスの提供に要した時間を当該職員が通所介護に従事する時間には含めないこととした上で、通所介護事業所の人員配置基準を満たす必要があります。
- 利用者個人の希望により個別に行うものであり、利用者個人のニーズにかかわらず、複数の利用者を一律にまとめて同行支援をするようなサービスを提供することは、適当ではありません。
- 利用者個人の希望により有償で提供するサービスに付随して送迎を行う場合には、道路運送法に基づく許可・登録が必要です。
③物販・移動販売やレンタルサービス
④買い物等代行サービス
- 利用者にとって不要なサービスが提供されることを防ぐ観点から、利用者の日常生活に必要な日用品や食料品・食材を基本とします。
- 高額な商品を販売しようとする場合には、あらかじめその旨を利用者の家族や介護支援専門員に対して連絡します。
- 認知機能が低下している利用者に対しては、高額な商品等の販売は行ってはなりません。
- 食品衛生法等の関係法規を遵守しなくてはなりません。
3 通所介護サービスを提供中の利用者に対し、保険外サービスを提供する場合の取扱い
(1)共通事項
通所介護と保険外サービスを明確に区分する方法
- 保険外サービスの事業の目的、運営方針、利用料等を、指定通所介護事業所の運営規程と別に定めます。
- 利用者に対して上記の概要その他の利用者のサービスの選択に資すると 認められる重要事項を記した文書をもって丁寧に説明を行い、保険外サー ビスの内容、提供時間、利用料等について利用者の同意を得ます。
- 契約の締結前後に、利用者の担当の介護支援専門員に対し、サービスの内容や提供時間等を報告します。その際、当該介護支援専門員は必要に応じて事業者から提供されたサービスの内容や提供時間等の保険外サービ スに関する情報を居宅サービス計画(週間サービス計画表)に記載しなくてはなりません。
- 通所介護の利用料とは別に費用請求します。また、通所介護の事業の会計と保険外サービスの会計を区分してください。
- 通所介護の提供時間の算定に当たっては、通所介護の提供時間には保険外サービスの提供時間を含めず、その前後に提供した通所介護の提供時間を合算し、1回の通所介護の提供として取り扱います。
<留意点>
- 通所介護事業所の職員以外が保険外サービスを提供する場合は、利用者の安全を確保する観点から、当該提供主体との間で事故発生時における対応方法を明確にします。
- 通所介護に係る苦情に対応するための措置を既に講じていることから、保険外サービスにも苦情窓口の設置が必要と考えられます。
- 通所介護事業者は、利用者に対して特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、当該事業者から金品その他の財産上の収益を収受してはなりません。
なお、2①~④及び3までの取扱いは(介護予防)通所リハビリ テーション、地域密着型通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護についても同様です。
第4 通所介護を提供していない休日や夜間等に、事業所の人員や設備を活用して、保 険外サービスを提供する場合について
1 通所介護を提供していない休日や夜間等に、事業所の人員や設備を活用して、保 険外サービスを提供する場合の取扱い
- 通所介護事業所の設備は、専ら当該指定通所介護の事業に活用するものでなければなりませんが、利用者に対し支障がない場合は、この限りではありません。
- 通所介護を提供していない休日や夜間等に事業所の人員や設備を活用して、保険外サービスを提供する場合においても、第3の場合と同様、通所介護と保険外サービスを明確に区分する必要があります。
- 夜間及び深夜に宿泊サービスを提供することについては、利用者保護やサービスの質を担保する観点から、指定居宅サービス等基準第 95 条第4号及び 「指 定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について」において、その基準が定められています。
<留意点>
上記においては、次のような内容が定められています。
- 通所介護事業者は、宿泊サービスの内容を当該宿泊サービスの提供開始前に当該指定通所介護事業者に係る指定を行った都道府県知事、指定都市又は中核市の市長に届け出なければなりません。
- 通所介護事業者は宿泊サービスの届出内容に係る介護サービス情報を都道府県に報告し、都道府県は介護サービス情報公表制度を活用し当該宿泊サービスの内容を公表します。
- 宿泊サービスの提供時間帯を通じて、夜勤職員として介護職員又は看護職員を常時1人以上確保します。
- 宿泊室の床面積は、1室当たり43 ㎡以上とします。
- 消防法その他の法令等に規定された設備を確実に設置しなければなりません。
上記に加え、通所介護を提供していない休日や夜間等に通所介護以外の目的で 通所介護事業所の人員・設備を活用する場合は、通所介護と保険外サービスを明確に区分する観点から、保険外サービスに関する情報(当該保険外サービスを提供する事業者名、サービス提供時間等)を記録します。
この取扱いは(介護予防)通所リハビリテーション、地域密着型通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護についても同様です。
2 通所介護を提供していない休日や夜間等に、事業所の人員や設備を活用して、保険外サービスを提供する場合の例
通所介護を提供していない休日や夜間等に事業所の人員や設備を活用して、保険外サービスを提供する場合として、以下のようなサービスの提供が可能です。
①通所介護事業所の設備を、通所介護サービスを提供していない時間帯に、地域交流会や住民向け説明会等に活用すること。
②通所介護事業所の人員・設備を、通所介護サービスを提供していない夜間及び 深夜に宿泊サービスに活用すること。
第5 通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の双方に対してサービスを提供する場合について
1 これまでの取扱い
通所介護事業所の設備は、専ら当該指定通所介護の事業の用に供するものでなければなりませんが、利用者に対し支障がない場合は、この限りではありません。また、第3及び第4の場合と同様、通所介護と保険外サービスを明確に区分する必要があります。
2 通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の双方に対してサービスを提供する場合の例
通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の双方に対してサービスを提供する場合、次のようなサービスの提供が可能です。
①両サービスの利用者が混在する場合 通所介護事業所において、通所介護の利用者とそれ以外の地域住民が混在している状況下で、体操教室等を実施すること。
②通所介護と保険外サービスの利用者が混在せず、通所介護とは別の時間帯や、 別の場所・人員により、保険外サービスを提供する場合
通所介護事業所において、通所介護とは別室で、通所介護に従事する職員とは 別の人員が、地域住民向けのサービスを提供すること 。
3 通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の双方に対してサービスを提供する場合の取扱い
(1)共通事項
通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の双方に対してサービスを提供する場合は、通所介護と保険外サービスを明確に区分するため、保険外サービスに関する情報(当該保険外サービスを提供する事業者名、サービス提供時間等)を記録します。
(2)通所介護の利用者と保険外サービスの利用者に対して一体的にサービスを提供する場合
通所介護事業所において、通所介護の利用者と保険外サービスの利用者が混在する状態で通所介護と保険外サービスを提供することについては、通所介護の利用者に対し支障がない場合でも、通所介護事業所の人員・設備の基準を担保する必要があります。
①同時一体的に利用する通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の合計数に対し、通所介護事業所の人員基準を満たすように職員が配置されていなければなりません。
②通所介護の利用者と保険外サービスの利用者の合計数が、通所介護事業所の利用定員を超えない場合においては、通所介護の利用者と保険外サービスの利用者が混在する状態で通所介護と保険外サービスと提供することが可能です。
<留意点>
通所介護事業者は、地域住民が通所介護事業所において行われる行事に参加する等の場合、①及び②によらず、通所介護の利用者数を基に通所介護事業所の人員基準や定員を遵守しなければなりません。
(3)通所介護と保険外サービスの利用者が混在せず、通所介護とは別の時間帯や、別の場所・人員により、保険外サービスを提供する場合
通所介護事業所において通所介護と保険外サービスの利用者が混在せず、通所介護とは別の時間帯や、別の場所・人員により保険外サービスを提供することについては、基本的に通所介護の利用者に対し支障がないと考えられることから、(2)①及び②に従う必要はありません。
なお、(1)から(3)までの取扱いは(介護予防)通所リハビリテーショ ン、地域密着型通所介護、(介護予防)認知症対応型通所介護についても同様です。
第6 区分支給限度額を超過している利用者に対し、超過分のサービスを提供する場合 について
1 これまでの取扱い
法定代理受領サービスに該当しない指定サービスを提供した際にその利用者から支払を受ける利用料の額と、指定サービスに係る居宅介護サービス費用基準額との間に、不合理な差額が生じないようにしなければならないとしています。
介護保険制度は、高齢者が尊厳を保持し、その有する能力に応じた日常生活を営むことができるよう、必要なサービスを提供することを目的とするものであり、介護支援専門員は区分支給限度額を超過する居宅サービス計画を作成しようとする場合には、利用者の心身の状況や置かれている環境等に応じた適切なサービスであるかどうか、十分なアセスメント等を行ったうえで検討しなければなりません。
2 区分支給限度額を超過している利用者に対し、超過分のサービスを提供する場合の取扱い
- 区分支給限度額を超えてなお介護保険サービスと同等のサービスを提供する場合、その価格については、サービス内容が介護保険サービスと同等であることを踏まえ、介護保険サービスにおいて事業者に支払われる費用額と同水準とすること が望ましいとされています。
- ただし、利用者等に対し、介護保険サービスと保険外サービスの違いを文書によって丁寧に説明し、同意を得ることにより介護保険サービスにおいて事業者に支払われる費用額とは別の価格設定が可能です。
第7 保険外サービスを提供する場合の個人情報の取扱いについて
保険外サービスの提供にあたり取得した個人情報の取扱いについては、個人情報の保護に関する法律及び「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を遵守してください。
<留意点>
介護保険サービスの提供にあたり利用者から取得した個人情報を、保険外サービスの提供に利用するには、取得に際しあらかじめ、その利用目的を公表する等の措置を講ずる必要があります。