「大阪府介護のお仕事魅力発信チャンネル」は若者の心をつかめるか?

少子高齢化社会が進む中、介護職員不足が深刻な局面を迎えています。特に都市部の介護職員不足が顕著で、東京都の有効求人倍率は7倍を超えています。

2025年には3.4万人の介護職員が不足すると試算されている大阪府では、「大阪府介護のお仕事魅力発信チャンネル」を開設。YouTubeに動画を配信してイメージアップを図っています。狙い通りに若者の心をつかむことができるのか検証しました。

 

二つの動画で介護の仕事を紹介

大阪府介護のお仕事魅力発信チャンネルは2019年1月19 日に、現役の介護福祉士などの出演による2つの動画を公開しました。内容は次の通りです。

 

「私、決めた!」編

将来の夢が見つからず進路に迷っている女子高生が病院らしき建物の中を歩いていると、苦しんでしゃがみこんでいる高齢者に出会いました。何もできずに狼狽していると、一人の女性が高齢者を支え起こします。「すごいですね」と声をかける女子高生に女性は「私、介護福祉士なの」と言い、「介護福祉士は、その人ができないことを叶えてあげる仕事」「これからの人生100年時代に日本に欠かせない尊い仕事」「人を笑顔にすることで、自分も笑顔になれる」と伝えます。その言葉に心を動かされ、女子高生は介護福祉士を目指すと言うストーリーです。

 

「みんなのプライベート」編

「私、決めた!」編に登場した介護福祉士の女性が「あなたがしたいお仕事は?」

と問いかけた後に、「笑顔がいっぱい」「自分の趣味が生かせる」「やりがいがある」「自分の成長を感じたい」「その道のプロとかカッコいい」などのフレーズが強調され、最後に7人の介護職員が声を揃えて「やってみないとわからないけど、一度ハマるとやめられない!私たちは介護福祉士!」と叫んで終わります。


介護業界の中には「いいPRになる」と思われる人もいるでしょうが、私は疑問を持ちました。なぜならこの動画に「介護の仕事に就きたい」と思わせる要素が、ひとつも見当たらないからです。

 

介護職員は仕事に満足している?

介護の仕事に就く人の中には職業的意識が高く、プライドを持って働いている人が少なくありません。社会福祉法人 東京都社会福祉協議会が2015年に公表した「職員のやりがいアンケート報告書」によると、「この仕事をしていてよかったと思うことがありますか」の質問に、96.0%が「はい」と返答。その理由が次のように回答されています。

 

  • 誰かの役に立てる
  • 誰かからの感謝と笑顔がもらえる
  • さまざまな人との関わる体験が学びになる
  • やり甲斐を感じられる
  • 人の最期のケアに携わり、生きる意味を考えることができる
  • 人とかかわることで得られる喜び(体験)が素晴らしい
  • 毎日が充実しているところ
  • 人に優しくなれるところ

 

「高齢者福祉に興味を持っている若い世代へひとこと」と言う質問では、「大変だけど、やり甲斐のある仕事です」「3Kと言われているが、それ以上に学ぶことや、経験・得るものが多い」「人生の大先輩から多くのことが学べる」など約7割が前向きな意見を寄せるなど、若い人が介護の仕事に就くことを期待しています。

しかし労働の基本は対価を得ることであり、報酬が伴わないものは、やりがいがあろうが、楽しかろうが、感謝されようが、生業とは呼べません。「日本介護クラフトユニオン」の調査では、約7割が自身の処遇に不満を持っていることが公表されるなど、自分たちが直面している問題が解決されていないことも浮き彫りになっています。

 

現実に目を向けた抜本的な改革が必要

求人で最も重視されるのは「待遇」「将来性」「職場環境」です。求人票には、そうした情報がきちんと書かれていなければなりませんし、職業的理解も欠かせません。「みんなのプライベート」編の最後で「やってみないとわからないけど、一度ハマるとやめられない!」と叫んでいますが、やってみないとわからない仕事を選ぶなど、誰がそんな博打を打つものでしょうか。

昔から「介護は心で行うもの。お金の話は似つかわしくない」と言う風潮があり、介護する者もそれをアイデンティティとしてきました。そのプライドがうまく利用され、「報酬が低いうえに、何があっても笑顔で働く」と言う自分の首を絞める状況を作り出しています。この環境で働きたいと思うのは、かなり奇特な人と言えます。一般の人たちが仕事に求めているのは「笑顔」や「やりがい」ではなく、「その仕事で生活できる報酬があるのか」「労力に見合った報酬が得られるか」がポイントです。

 

本気で人材を確保したいのであれば、ファンタジーのような動画作成ではなく介護業界の意識改革が急務です。キレイごとはやめて現実と向き合い、若い人たちが精神的にも経済的にも満たされる状況に変えていかなければ、介護の仕事に未来は訪れないでしょう。

 

 

【出典】

大阪府介護のお仕事魅力発信チャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCKa5VE2wej1-4-zWfW8o3Jg

 

職員のやりがいアンケート報告書

https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/documents/syokuinyarigaiannke-to.pdf

 

 

 

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