南青山の児童相談所に反対する地域住民心理とは?

保育園や福祉施設などの建設において、地域住民の反対を受けるケースが全国的に見られています。「そうした施設は必要」と理解を示す一方で、「自分たちの居住地域には建設してほしくない」という感情が強く、建設が難航したり、建設をあきらめざるを得ない事態を招いています。地域共生の時代の中で、なぜ住民は施設建設に反対するのか。どうすれば同意を取り付けることができるのか。ニュースをもとに検証しました。

 

児童相談所建設反対

福祉施設の建設に反対と聞いて思い出すのは、東京都港区青山に建設を予定している「(仮称)港区子ども家庭総合支援センター」でしょう。ニュースやワイドショーでも取り上げられ、賛否両論となりました。

(仮称)港区子ども家庭総合支援センターには、18歳未満までの子どもに関する発達や障害、虐待などさまざまな問題について相談に応じる「児童相談所」や、一時保護施設、DV被害者などを一時保護する母子生活支援施設などが入る予定です。反対する住民は「そうした施設は必要」と理解を示すものの、「南青山には似つかわしくない」と主張しています。

 

≪建設反対の理由≫

  • 南青山は地価が高く、それ相応の対価を支払った者だけが生活する場所。その場に似つかわしくない施設が建設されることで資産価値が下がることが懸念される。
  • 南青山はハイレベルな人が住む場所。高級品を扱う店が多いため、そうした施設を利用するような生活レベルの低い人に、惨めな思いをさせてしまう。
  • 南青山の教育レベルは高い。保護されるような児童と教育水準が違いすぎるし、非行歴がある児童に自分の子息が危害を加えられる恐れがある。

 

救護施設建設反対

京都市でも施設建設に対する住民の反対が起こっています。京都市から指定管理を受けた「みなと寮」が救護施設を建設しようとしたところ、向日市住民が反対。計画の白紙撤回を求める事態となっています。

救護施設は、身体や精神な障害や経済的な問題があり、日常生活をおくるのが困難な人たちが生活するための保護施設です。生活保護受給者やホームレスのほか、刑務所を出所後に住む場所がない人も保護されているなど、多種多様な人が暮らしているため、治安の悪化を心配する声が上がっています。

 

≪建設反対の理由≫

  • 救護施設が建設される地域には学校が近く子どもが多いため、前科がある人が暮らすことに不安を感じる。
  • 建設予定地は京都市だが、駅や商店が近いことから向日市が生活圏となり、向日市民に実害を被ることが想定される。行政区域が異なる京都市は、問題が起きても対応しないのではないか。

 

知的障害者ホーム建設反対

地域住民から「建設絶対反対」を突きつけられ、理解を得ることができずに建設を断念した施設もあります。「差別、偏見の気持ちは全くない」としながら建設を反対する看板が立てられ、土地の所有者のもとに反対住民から「明るく、平和な、楽しい生活が、ホーム建設によって破壊されるのではないかと不安」との内容証明郵便が届いたと言います。進展のないまま4年が過ぎ、建設中止の苦渋の決断が下されました。

 

≪建設反対の理由≫

  • 地域の不動産評価の下落が予想される。
  • 近隣にある寺院や工場などへの無断侵入によるトラブルの発生が予想される。
  • 知的障害者は判断能力がないため、事件が起きても裁判で無罪となり、被害者は泣き寝入りしなければならない。
  • 近くに幼稚園・小中学校の通学路がある。
  • 子どもが外で安全・自由に遊べなくなる。

 

高齢者施設建設反対

介護施設の建設でも住民の反対が寄せられています。高齢化により介護施設の必要性は誰もが理解するものの、「建設は自分の家から遠くに」というのが本音でしょう。介護職不足が問題視されているにも関わらず「日本人がやりたがらないなら外国人に」という風潮にも似ています。

 

≪反対理由≫

  • 自宅の不動産価値が下がる。
  • 老人ホームは建物が大きく、近隣の日当たりが悪くなる。
  • 住宅街に作る必要性がわからない。
  • 職員の通勤や、デイサービスの送迎など車両の往来が多くなるので危険。
  • 認知症の高齢者が大声や奇声をあげたりするなど、騒音が聞こえてきそう。

 

得たいが知れない者への恐怖心が建設に反対する

全国各地にはさまざまな施設があり、その多くは近隣とのトラブルもなく過ごしています。人が移り住んだだけで地価が下がるなどということはあり得ませんし、その街に似つかわしいかどうかは、誰も判断することはできません。日照権をクリアしているから建設許可が下りているはずですし、認知症の方が大声を上げそうになれば、職員が何らかの対応を行います。

刑務所を出所した人が再び犯罪に走る理由として、居場所や仕事がないことが大きなウェートを占めていますし、鑑定により犯罪者に精神疾患が認められることはあっても、施設に入所している知的障害者が意図的に罪を犯すことは考えにくいことです。

 

施設建設に反対する住民を「エゴ」と呼ぶのは簡単ですが、もう一つの理由として臆病なのだと思います。暗闇に恐怖を感じるのは、目で確認することができないからです。それと同じく、これまで接したことがない人たちが近くにいることに、得体のしれない恐れを感じているのでしょう。

 

同意を得るためにはメリットの提示が不可欠

石原慎太郎元都知事は、これまで障害者や女性を侮辱した発言を繰り返し、差別的だと問題になりました。石原氏だけでなく、そうした考えの方は建設に反対する住民にもあるでしょう。そのような人たちに建設ありきで話を進めても反発が強くなりますし、こうした施設が必要なことを説いても同意は得られません。施設の建設が自分にとってデメリットだと思っている人たちには、メリットを示す必要があります。

京都市で救護施設を建設予定のみなと寮は、大阪に施設を建設する際も住民に反対されましたが、入所者が地域で清掃ボランティアを行ったり、施設側も会議室を貸し出して住民に利用してもらうなど、現在は交流が生まれているといいます。他の地域ではトラブルが起きていないことを具体的に説明して安心を与えたうえで、施設が建つことで何を還元できるかなどメリットを強調し、時間をかけて地域住民の理解を求めてください。

 

 

 

関連記事一覧