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介護の安全性を向上させる最新テクノロジー

厚生労働省は業界団体との会議を開き、夜勤の職員の見守りにかかる負担を減らすため、スマートフォンのアプリを使い、業務を記録する労力を減らすなどの具体策を示しました。介護ロボットや情報通信技術(ICT)を積極的に活用することは、人手不足が深刻な介護現場の負担軽減とともに、介護中の事故を防ぐことにも繋がります。最新テクノロジーが介護をどのように変えていくのか。その有用性を検証しました。

 

入浴中の事故で介護職員が書類送検

2018年7月に埼玉県川口市の介護老人施設で、入所者の女性が浴槽の中で溺れているのが見つかり、そのあと死亡しました。女性は車椅子専用の浴槽の中で胸と腹をベルトで固定されていましたが、上半身がずれて横に傾き、顔を湯につけた状態で約3分間放置されていたことから、県警は注意義務を怠ったとして、女性の入浴を担当していた職員を業務上過失致死の疑いで書類送検しました。捜査関係者によると、職員は女性を入浴させたまま約3分間、目を離し、死亡させた疑いがあり、容疑を認めているといいます。職員は女性を入浴させた後、別の職員の手伝いをするため、隣接する脱衣所に移動していたといいます。県警は施設の安全管理に問題がなかったか捜査しましたが、定期的な研修などで職員に入浴時の注意点を共有させており、施設責任者らの刑事責任は問えないと判断しました。

入浴介助中に目を離す行為が危険なことは誰もが周知しているものの、人員配置や利用者の状況によって、目を離さざるを得ないことは否めません。埼玉県川口市の介護老人施設の事故だけが特別でないことは、介護をする者なら十分に理解していることでしょう。

今回の事故では、施設側の管理責任は問われず、入浴を担当していた職員が業務上過失致死として書類送検されています。誰もが犯罪者となってしまう可能性を秘めているだけに、危険を防止するシステムの開発が求められます。

 

センサーにより入浴中の事故を防止

損害保険大手のSOMPOホールディングスと、グループ企業で介護事業を手掛けるSOMPOケアは、2040年の介護のあり方を研究するプロジェクト「Future Care Lab in Japan」を発足し、デジタル技術で介護をサポートするための研究を行っています。先ごろの発表では、センサーが入浴している人の呼吸や脈拍の異常を検知して溺れないように水を抜く浴槽などが紹介されました。この技術が実用化されれば、今回のような痛ましい事故を防ぐことが可能です。同プロジェクトでは、4月以降、10カ所程度の都道府県や政令指定都市で試験を実施し、効果が出れば全国的に広げていく考えです。

 

送迎中の事故で運転手が書類送検

デイサービスや通院など、介護施設において送迎は必須とされていますが、全国的に事故が多く、死亡事故に繋がるケースも少なくありません。2019年1月だけでも、次のような事故が報告されています。

1月2日 茨城県北茨城市の交差点でデイサービス施設の送迎車が、ほかの車と出会い頭に衝突し、施設の利用者男女2人が死亡しました。現場の交差点は市の郊外にある田んぼや畑が広がる一角にあり、見通しはよいものの、信号機のほか一時停止の標識などは設置されていませんでした。

1月22日 神奈川県川崎市で、介護サービスの送迎をしていた軽乗用車が、93歳の女性を自宅前で乗せ、およそ60m先で電柱などに次々と衝突し、道路わきの花壇に衝突しました。 乗車していた女性は翌日に死亡。男性運転手(71)は「意識を失った」と話しています。同日宮城県栗原市の交差点で園児8人を乗せた送迎中のバスが乗用車と衝突する事故がありました。現場は信号機のない交差点で、警察は運転手から話を聞くなどし、詳しい事故原因を調べています。

1月25日 山形市下東山の丁字路交差点で、近くの介護福祉施設の送迎車が道路脇の鉄製の柵を突き破り、約7.5m下の畑に転落しました。送迎車には運転手を含めて3人が乗っており、施設の利用者の80代の女性が意識不明の重体、90歳代女性が骨盤骨折の重傷とみられ、病院に搬送されました。当時、路面は圧雪状態で凍結していました。

1月28日 茨城県龍ケ崎市の交差点で、デイサービスの利用者を乗せたワゴン車とワンボックスタイプの車が衝突し、ワゴン車に乗っていた利用者の男性が死亡したほか、4人がけがをしました。警察は、ワゴン車が交差点を右折しようとして直進してきた車と衝突したと見て、詳しい状況を調べています。

 

送迎の安全を飛躍的に上昇させる最先端モビリティ

事故を起こしている運転手のほとんどが、業務上過失致死に問われていることから、送迎と言う身近な業務が、罪を問われる事態になりかねません。人手不足である介護業界では、高齢者も運転手として雇用するなど、世の中の流れと逆行する状況もみられるため、最新技術で運転をサポートしてもらう必要があります。

トヨタ自動車では、右折時に対向直進車や横断歩行者をリアルタイムに検知しドライバーに知らせる「右折時注意喚起」、無線機から信号情報をクルマに伝達し、ドライバーに赤信号を注意喚起する「赤信号注意喚起」、先行車の情報を取得し、同時加減速や安定した追従走行などの車間距離制御を実施する「通信利用型レーダークルーズコントロール」など、世界に先駆けた安全運転の技術を実用化しています。

日産自動車は、脳波測定による運転支援技術を研究しています。運転の前にドライバーの脳の行動準備電位を検出してシステムが操作を開始することで、ドライバーの反応の遅れをカバーし、思い通りの運転をできるようサポートします。この技術が実用化されれば、交通事故は圧倒的に減ることでしょう。少し前までSFの世界の話であった、携帯電話やGPS機能が身近になったように、全自動運転のクルマが誕生する日は、近いのかも知れません。

 

これからの介護にはICTが不可欠

これまで介護はマンパワーに頼るアナクロな世界なため、ICT化が遅れていました。しかし、今や誰もがスマートフォンを持ちインターネットで繋がる時代となり、デジタル機器への拒否反応が薄れています。今後も国を挙げて介護業界におけるICTの活用が進められていきます。これからは否定するのではなく、自分たちの仕事に対し、どのようなメリットをもたらすかを判断する時代になっていくでしょう。