2019年3月1日、北海道釧路保健所は、管内の介護保険施設で90代男性2人と80代女性1人がレジオネラ菌に感染し、このうち男性1人が肺炎で死亡したと発表しました。人の命を奪うレジオネラ菌とは何か。感染ルートや予防方法を調べました。
レジオネラ菌とは
レジオネラ菌は、レジオネラ・ニューモフィラを代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症です。2~5µm位の好気性グラム陰性の桿菌で、一本以上の鞭毛を持っています。39度前後で繁殖し、主に沼や河川などの水の中や土壌など、自然環境の中に存在していますが、エアコンや冷却塔、循環式の浴槽、給湯器の内部など人間の生活圏でも繁殖します。
レジオネラ菌の症状
主な病型としては、重症のレジオネラ肺炎、または軽症のポンティアック熱を発症します。レジオネラ肺炎の潜伏期間は2~10日(平均4~5日)で、全身怠惰感、頭痛、食欲不振などの症状が始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、呼吸困難など様々な症状が見られるようになります。重度になると幻覚や手足の震えなど神経系の症状にまで進行するなど、命にかかわることもあります。
ポンティアック熱の潜伏期間は1~2日で、悪寒や発熱などの症状が見られますが、一過性のもので自然に治ることが多いようです。もともと土壌や水環境に普通に存在する菌ですが、人間の体の中で増殖する細胞内寄生細菌であるため、細胞性免疫能が低下している場合に発症するようです。
直近のレジオネラ菌の発生事例
2月19日に、山形県最上町の医療・保健・福祉の総合施設で、基準値の170倍のレジオネラ菌が検出されました。利用者の健康被害は報告されていません。
2月22日に、新潟県南魚沼市の温浴施設の浴槽から、基準を超えるレジオネラ属菌と大腸菌群が検出されました。利用者の健康被害は報告されていません。
2月28日に、埼玉県伊奈町の老人福祉センターの入浴施設から基準を超えるレジオネラ属菌が検出されました。利用者の健康被害は報告されていません。
レジオネラ菌の感染ルート
「レジオネラ菌を飲み込んでしまった場合に感染する」と思っている人もいるようですが、飲み込んでも感染しません。レジオネラ菌が肺に運ばれることで肺炎などを発症させます。釧路での死亡事故の感染ルートは、入浴中にレジオネラ菌汚染した湯気を吸いこんだと考えられます。全国の入浴施設でレジオネラ菌が検出されているものの、大きな事故にまで拡大していないことからもわかるとおり、健康体であれば何ら問題ありませんが、体力が生かしている高齢者は体調を崩しやすく、場合によっては死に至ることがあります。また大酒家、喫煙者、透析患者、移植患者や免疫機能が低下している人は、レジオネラ肺炎のリスクが高いとされています。
レジオネラ菌の発生時期
国立感染症研究所が2007年1月〜2016年12月にかけて行った感染症発生動向調査によると、レジオネラ菌は梅雨期の7月に多く発生し、翌3〜5月にかけて減少する傾向があると報告されています。レジオネラ属菌が増殖しやすい湿度の高い梅雨の時期は患者数が増加すると考えられています。
冬は加湿器に注意
乾燥しやすい冬も加湿器から感染するケースが増えています。厚生労働省が平成30年に行った「最近のレジオネラ症の発生動向と検査方法」によると、加湿器からのレジオネラ属菌の感染事例が10件、その内3名が死亡しています。超音波式加湿器を使用する時は毎日水を入れ替え、容器を洗浄しましょう。水を加熱してミストを発生させる加湿器は感染の可能性が低くなりますが、汚れやぬめりが溜まっているとレジオネラ属菌が繁殖しやすい環境になります。レジオネラ属菌は60℃以上で殺菌されます。どのタイプの加湿器でも定期的に手入れを行ってください。
レジオネラ症の診断方法
医療機関では、培養、尿中レジオネラ抗原検査、遺伝子検査や血液中の抗体検査などを用いて検査するのが一般的です。いずれかの検査が陽性となった場合にレジオネラ症と診断されます。ただし過去に感染したことがある場合は、尿中レジオネラ抗原検査で陽性となることがあります。検査の結果が陽性であったとしても、必ずしも現在もレジオネラ感染しているわけではありません。
レジオネラ症の治療方法
レジオネラ肺炎は、マクロライド系、ニューキノロン系やリファンピシン等の抗菌薬で治療します。早期診断、早期治療が重要です。ポンティアック熱は、自然に軽快することが多く、抗菌薬なしでも数日以内に改善することが期待できます。
菌の繁殖状況と症状を照らし合わせて判断
レジオネラ症は、細かい霧やしぶきの吸引により発症するうえに、必ずしも全員が感染するわけではなく、原因の特定が困難な病気です。入浴後や加湿器を使用している環境で入居者に体調不良が見られた場合は、レジオネラ症を疑ってください。早めの治療で命を救えるかも知れませんよ。