認知症の高齢者が注文を取り料理を運ぶ「注文をまちがえる飲食店」が評判となり、今や海外メディアでも取り上げられています。高齢者の能力を活かした地域交流ができることから「自分の街でも実施したい」と開店を希望する人が増えています。2018年に初めて「注文をまちがえる料理店(石狩市での名称はレストラン)」を開店した北海道・石狩市の取り組みを取材しました。
注文をまちがえるレストランとは?
「注文をまちがえる料理店」は、ディレクターとしてNHKに勤務している小国士朗氏が「プロフェッショナル仕事の流儀」という番組の取材で、高齢者施設を統括する和田行男氏のグループホームを取材した時に遭遇した出来事を契機に企画されました。
グループホームでは入居者自ら食事を作ります。小国氏にもハンバーグがふるまわれる予定でしたが、出てきたメニューは餃子でした。「これは違う」と思いましたが、和田氏から「別にハンバーグが餃子になっても誰も困ることではない。鋳型に認知症の方々をはめ込むことが介護の現場を窮屈にする」と言われ、小さなことにこだわった自分を恥ずかしく思ったそうです。その瞬間に頭に浮かんだのが「注文をまちがえる料理店」というワードでした。
認知症の方が間違ったとしても笑い話にできる和やかなレストランの構想を温め、仲間やクラウドファンディングで資金を募り、2017年6月に東京で「注文をまちがえるレストラン」を二日間だけプレオープンしました。ひっそりと実施する予定でしたが、高齢者の生き生きとした姿や、お客さんとの和やかな雰囲気が話題となり「我が街でも開店したい」との希望が殺到。今や日本のみならず海外にも波及しています。
北海道・石狩市が「注文をまちがえるレストラン」を開店した理由
北海道・石狩市は札幌市に隣接し、2005年の市町村合併により南北に長い市域を持っています。旧石狩市の区域に全人口の9割弱が集中し、札幌市の衛星都市として大規模な住宅街が形成されているものの、漁村である旧厚田村・浜益村は高齢化が著しく限界集落が点在しています。
市の人口は減少しているものの高齢化率は毎年上昇し、2015年度の高齢化率は29.5%に到達。ただし要介護率は16%と横ばい状態であり、このまま推移するためには何らかの対策が必要と思われます。同市が「注文をまちがえるレストラン」を開店した理由を保健福祉部の岩本瑞恵氏に伺いました。
今回はレストランとして開店しましたが、設備がないと開店が難しいため「ちょっと寸法をまちがえる仕立屋さん」など、それぞれのスキルを活かした活動に取り組んでいきたいと考えているそうです。
レストラン開店までのプロセス
石狩市はレストランの構想を市内で認知症地域支援推進員を担っている木元国友氏に打診。木元氏が所属する福祉事業所は廃業した病院を買い取り、他の法人に事務所として貸し出したり、院長の家を改装してコミュニティカフェとするなど、レストラン運営に最適な環境が揃っていました。さっそく居宅介護支援事業所、特別養護老人ホーム、認知症グループホーム、ケアハウス、大学などに呼び掛け、石狩市から補助金を受けて実行委員会を結成しました。
開店にあたり本家の「注文をまちがえる料理店」と名称やロゴ使用の契約を締結しました。同店の運営にかかわる和田氏から「料理の質は落とさないように」と「注文」を受けます。和田氏らは「料理店として、来てくれた方が十分満足できるような味にこだわる」「 間違えることは目的ではないので、わざと間違えるような仕掛けはやらない」の2点を大切にしていると言います。
福祉関係者などがこうした事業を行う場合、「高齢者や障害者がやることだから大目に見てもらおう」という甘えが一番危険です。お金をいただく以上、相応のクオリティを担保することは大前提であり、それを怠るとお客さんではなく、一部の奇特な人しか足を運ばなくなります。石狩のお店のメニューの開発や調理は地元の藤女子大学食物栄養学科の学生がゼミの一環として担当。これまでも地元の素材を使った「いしかりバーガー」を発案するなど実績十分な頼もしい存在です。
「持てる能力を生かしたい」と多数が応募
レストランのスタッフは市の広報で募集しました。「認知症の人を公募して人が集まるのだろうか」という不安があったものの、家族や担当ケアマネジャーから推薦を受け10人の応募が寄せられました。公募した高齢者スタッフは、「社会参加」ではなく「就労」として位置づけ、売り上げから時給を払われます。2018年度は3回の実施を予定。最初は固定メンバーでの運営を予定していましたが、応募が多いことから開催ごとに数人をメンバーチェンジすることにしました。
家族間で意見が統一されなかったり、本人のスキルが生かせると考えたグループホームの担当者が家族に確認を取ったところ断られるなど、理解を得られず参加を見送られた人も皆無ではなかったそうですが、おおむね好意的な反響が多かったと言います。木元氏は、「昔は認知症であることを隠したがる家族が多かったものの、最近では持っている能力を生かしてあげたいと言う意識に変わってきたのではないか」と分析しています。
参考文献:「注文をまちがえる料理店」のこれまでとこれから
https://forbesjapan.com/articles/detail/16640
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