2017年度の全国の交通事故による死者数は3,694人、うち2,020人(54.7%)を高齢者が占めるなど、多くの方が亡くなられています。介護事業所は送迎を行うことが多く、交通事故を起こしてしまう危険が潜んでいます。 なぜ事故は発生するのか。ここ数年に起こった介護事業所の自動車事故をピックアップし、その理由を検証しました。
事故の原因と時間帯
インターネットで介護事業所の送迎中の自動車事故を検索すると、2016年6~18年6月までに20件がヒットしました。分母が少ないため、簡易的なデータであることをご了承ください。
交通事故の内容は、運転ミス(10件)、車両の追突 (8件)、通行人に衝突(各2件)、でした。一般的に交通事故は、西日の影響や、日中の業務による疲労から、午後に発生しやすいと言われていますが、送迎中の事故の発生は、9時から10時と、16時から17時までが、ほぼ半数という結果となりました。
実際に起きた事故の事例
ニュースを振り返りながら、事故に至る原因を考えてみました。なお、年齢は報道された当時のものです。
1.運転ミスによる事故
■街路樹に激突し、同乗者が死亡
午前9時15分ごろ、介護福祉施設の送迎用ワゴン車が対向車線にはみ出て街路樹に衝突した。後部座席にいた利用者3人のうち女性二人が全身を強く打ち死亡し、もう一人の女性が軽傷を負った。警察はワゴン車を運転していたアルバイト(55)を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で逮捕した。
<事故の原因>
対向車線に飛び出す理由として、スピードを出しすぎ、わき見や考え事など集中を欠くことにより、ハンドル操作の遅れが考えられます。限られた時間の中で送迎を行わなくてはならないため、時間を気にしてアクセルを踏みすぎていたか、次の業務を気にかけて、注意が散漫になっていたことが推測されます。
■見通しのよい道路で電柱に衝突
午前9時35分ごろ、見通しのいい片側2車線の直線で、介護施設職員の男性(49)の軽乗用車が、歩道の電柱に衝突した。後部座席に乗っていたデイケア利用者の女性が胸を強く打ち、搬送先の病院で死亡、男性は胸部打撲や右腕骨折の重傷で入院した。
<事故の原因>
現場は見通しのよい片側2車線の直線です。運転手のほかに同乗する職員がいなかったとしたら、利用者の行動に気を取られていた、話に夢中になり過ぎてハンドル操作を誤ったと推測されます。もし後部座席に職員を座らせていたら、事故に至らなかったかもしれません。
■サイドブレーキを掛けなかったことによる事故
午前9時20分ごろ、市道に停車していた介護施設の送迎用ワゴン車が坂道をバックするとともに、縁石に乗り上げた弾みで横転し、施設利用者7人を含む計9人が軽傷を負った。50代の男性運転手と同乗していた30代の女性職員は自力で脱出した。警察では運転者がサイドブレーキを適切に使用していなかったことが事故につながったものとみている。
<事故の原因>
オートマチック車をPレンジにして坂道に停車すると、トランスミッションにパーキングポールというロックがかかり、通常は転がることはありません。普段からパーキングブレーキを使用せず停車していたものの、たまたまシフトレバーがPレンジに入っていなかっておらず、起こった事故だと推測できます。
■高齢者の運転による事故
午後2時30分ごろ、田畑に囲まれた見通しのいい片側2車線の直線で、介護施設の送迎車が道路左側の街路樹に衝突して横転。送迎車に乗っていた施設利用者ら7人が病院に搬送され、うち女性利用者3人と女性職員(17)、男性運転手(71)の5人が重傷。残る男女もケガをした。送迎車は、山へ紅葉狩りに行った帰りだった。
<事故の原因>
田畑に囲まれた見通しのいい片側2車線の直線で街路樹にぶつかったことから、レクリエーションの疲れなどにより、運転手が居眠りしたと推測されます。他の事故では、74歳の方に運転業務を担当させていた事業所も見受けました。労働力が足りないとはいえ、利用者と同年代の方に送迎させていたことも、事故要因の一つではないでしょうか。
2.車両の追突事故
午後1時半ごろ、交差点でデイサービスの送迎用ワゴン車が信号待ちをしていた乗用車に追突。送迎車はそのまま乗用車を追い越して前進し、対向車にぶつかった後、歩道に乗り上げて電柱と衝突した。この事故で運転していたアルバイト運転手(58)が搬送先の病院で死亡。乗車していたデイサービス利用者の男女3人は軽傷を負った。
<事故の原因>
出会いがしらに衝突し、横転 午前9時20分ごろ、デイサービスのワゴン車と、乗用車が交差点出合い頭に衝突し、ワゴン車が横転、乗っていた男女6人が重軽傷を負って病院に搬送された。いずれも命に別条はないという。乗用車を運転していた女性も軽傷で、警察は事故原因を調べている。
<事故の原因>
ワゴン車など重心が高い車は、簡単に車体のバランスを崩して横転する危険があります。多数の人が乗っている場合は、カーブや交差点は普段より遠心力などの影響を受けやすいため、思わぬ事故に発展します。普通自動車であれば横転を免れたかもしれません。
3.通行者と衝突した事故
午後4時45分ごろ、片側1車線の信号機のない交差点で、道路を横断中だった女性(61)が、介護施設の入居者を送迎する途中のワンボックスカーにはねられ、搬送先の病院で死亡した。警察は過失運転致傷の疑いで、車を運転していたアルバイトの男(67)を現行犯逮捕した。男は調べに対し「ぶつかるまでわからなかった」と話しており、警察が詳しい事故原因を調べる。
<事故の原因>
時間帯から推測すると、運転中にウトウトしていた、西日が強く逆行のため視界が悪かったことが推測されます。記事には信号機のない交差点と表記されていますが、横断歩道もない場合は、歩行者への注意も散漫になりがちになるため、事故につながったと考えられます。
運転手を犯罪者に変える恐ろしさ
送迎中に交通事故を起こした場合、状況によって自動車運転処罰法違反が適応され、ケガの場合は過失傷害、死亡の場合は過失致死となり、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が課せられます。
今回選出した事例はすべて事実に基づいており、事故にあった人は痛み、傷つき、時には亡くなっています。また事故を起こした人は犯罪者となり、一生消えない後悔が残ります。
事故のニュースを見ると、人材不足が理由と思われる無理なスケジュール、無理な人材活用などもいくつか見られました。日常的に行われる送迎だからこそ、危険性を見直して、安全性を強化してください。