Mさん、70代後半の男性。要介護5。
脳梗塞、四肢拘縮が顕著で経管栄養*。
*鼻から栄養を摂取する管を鼻から胃に管を通す方法
他の患者さんのカンファレンスで「Mさんはリハビリしているの?」と聞かれました。
でもリハビリは実施されておらず、その時点で、すでに入院から3ヶ月が経過していました。
主治医から引継ぎがされていない
医療ソーシャルワーカー(MSW)も初回面接(インテーク面接)をしただけ、病棟から退院支援の話がなかったことから、そのままになっていました。
そのような中で主治医変更となり、リハビリが始まりました。
これまで3ヶ月間の寝たきりで、関節などの拘縮が顕著、ほぐす程度しか回復は厳しいとの評価です。
そこでまず、ご家族と今後の方向性を再面接しました。
まず入院後の経過説明と、長期入院は難しいと説明しました。
家族としては「ずっと入院するものと思っていた」「今更どうして?」という反応、かなり動揺が見られます。
主治医からは状況説明の上で謝罪、家族からも「入院できないなら考えないとね」との発言もあり、主治医、看護師長、担当リハ、MSWと家族でカンファレンスを行いました。
リハの今後の目標とゴールについての説明を行った上で、在宅介護か施設入所かの判断を家族に委ねます。
家族から「家で看たい」
在宅準備に各々のセクションが連携を図りながら支援していくことを、カンファレンスで確認しました。各セクションが専門分野で対応することになりました。
[役割分担]
入浴・・・訪問入浴(他事業所で調整)
見守りヘルパー
・・・当院のヘルパー事業所に事前に情報提供、リハビリ時間帯を見計らって状態を確認してもらうようにする
病棟看護師・訪問看護
・・・退院後は一般状態把握のため訪問看護の利用は不可欠。訪問看護ステーションに事前連絡し、病棟看護師と連携を図ってもらうことに
訪問リハ
・・・これ以上、拘縮を進めないため維持予防と家族指導を行い、家族でもできるリハビリで対応してもらうことに
訪問診療
・・・重度寝たきりで、通常診療は連れていくことが困難。退院後は主治医が月1回定期訪問し、診療してもらうことで主治医から了解を得る
短期入院
・・・リフレッシュ目的で1週間~10日程度の入院を年に3回程度できるよう主治医病棟に確認をとり了解を得る
MSW(ケアマネ)
・・・各種サービス調整、福祉用具の申請、住宅改修の準備等を進める。介護保険の申請も代行
1か月後に再度カンファレンス実施
家族で、おむつ交換や着替えなど一連の介助はできるようになっていましたが、問題は食事です。
経管栄養でしたが、本人が管を抜去してしまうことが頻繁にありました。
さすがに家族が経管栄養の管を挿入することは困難なため、主治医より胃瘻(胃に直接穴を開けて管を入れ栄養を摂取する方法)のすすめがあり、家族も同意しました。
すぐに消化器外科にコンサルをかけ、胃瘻対応可能か確認してもらいました。
Ⅹ線で直接透視して行う術式なので胃の上に内臓などがあれば胃瘻の増設が厳しいのですが、胃の上になにも臓器がないことを確認でき対応可能であるとの返答です。すぐ胃瘻造設の準備、2日後には胃瘻が造設されました。
胃瘻で食事と薬を摂取してもらうことになったため、家族へ胃瘻の対応方法の指導が始まりました。
MSWは退院支援にベッド・ベッド付属品・車いすなどの福祉用具をレンタルできるよう準備、さらにはリハビリスタッフと自宅訪問の上で家屋評価を行いましたが、建物が古いため改修に相当な時間とお金がかかるということです。
介護保険1割負担の範囲で工事を行えるのは20万円までです。
改修工事は20万で収まらなかったため、市独自のユニバーサルデザインの住宅改修支援の申請をしました。
ユニバーサルデザインの補助金は50万円、介護保険と合わせ70万円を上限に、改修工事を進めました。家族が楽に介助できるよう、変更図面も完成です。
その後、試験外泊を何度か繰り返し、在宅へ退院していきました。
その後はケアマネがサービス調整を行っています。
リハビリを放置した末に
主治医不在という状況を誰も確認しないままに3ヶ月が経過、拘縮してしまいました。
家族の方が、楽しそうに着替えや排泄介助をしているのを見て僅かながら安堵した次第です。
私も病棟に状況把握をしていたにも関わらず、退院支援の依頼がなかったため、放置してしまったことを強く反省しました。
在宅復帰されてからも、奥様の時間が取れるようヘルパーの調整を行い、普段なら週1回が限度なのですが、Mさんの場合は週2回稼働、多い時は週3回もありました。
おかげで拘縮が進行せず、現状維持を保つことができています。
重度の後遺症があっても、家族の意思や介護できる環境が整えば在宅復帰は可能と感じたケースです。
「MSWは偏見を持ってはいけない」と大学時代に学びましたが、実際には重度の後遺症の場合、施設へ移行することが圧倒的に多く、周囲もそれに慣れてしまっています。
しかしMさんのようなケースに対応させてもらうと、条件が揃えば在宅でも可能との気付きがあり、このようなケースでも在宅と施設の両面から検討しつつ、家族と関わりを持つことが重要と痛切に感じた経験でした。