福祉理美容士が雇用創出(ノーエリ合資会社 村井一則氏インタビュー)

訪問理美容に必要な専門的知識と技術を身に付けた「福祉理美容士」と言う認定資格があります。2004年2月1日に日本理美容福祉協会札幌センターを開設し、自ら福祉理美容士として活動しているノーエリ合資会社代表社員の村井一則氏に話を伺いました。

 

福祉理美容士とは

福祉理美容士はNPO法人日本美容福祉協会の認定資格です。学習プログラムは、自宅学習と2日間の実技講習から構成され、「高齢者、障がい者福祉」、「ノーマライゼーション、コミュニティーケア」、「福祉理美容師としての職業倫理」、「介護、医療、医学の基礎知識及び、高齢者と障がい者の心理的特性と対応」、「感染症と消毒法」、「個人情報と守秘義務」などの専門的知識や、訪問理美容の実践に役立つスキルとして、寝たきりのカット技法・寝たままのシャンプー技法などを学んでいます。全国に37のセンターが設置され、福祉理美容養成講座が開催されるほか、訪問理美容士のあっせんが行われています。

認知症など高齢者の心身の特性を知らずに髪をカットすることは大変危険であり、ケガや事故につながることもあります。訪問理美容に必要な介護の技術や知識を学ぶ手段をインターネットで検索していたところ日本美容福祉協会がヒット。専門性を高めたのち札幌センターを開設。サロンから訪問理美容専門に転換しました。

在宅訪問に力を入れ、ビラを配るなど配布したものの、当時は訪問理美容の認知度が低いことや、高齢者自身が家に人を招き入れることに難色を示すなど、なかなかニーズが掘り起こしは困難でした。努力を重ねた結果、次第にケアマネジャ

ーからの紹介があり、病院や施設、在宅などの高齢者が利用しています。

 

福祉理美容士の活動

施設の訪問理美容と言えば、街のサロンから定期的に理美容師が訪れ、限られた時間に大量な人数を少数でカットする流れ作業的なイメージがありますが、札幌センターではそうした問題を解消。一度に10数人を派遣することで、一人一人にかける時間を長く取りながら終了時間を短縮することに成功。その結果、介護職員の負担を減らすとともに、これまで時間の制約で行えなかったサービスを提供するなど、利用者に喜ばれる対応が可能になりました。

顧客の希望を聞きながらカットするサロンと異なり、寝たきりの高齢者や医療器具が付いている方などを対象とする訪問理美容には独特のスキルが必要です。認知症の方などは、本人の要望を聞くことができないことが多いため、家族や介護士から話を聞きながらカットのイメージを膨らませる必要があります。

また、自分が何をされるのか理解できずに攻撃的になることも多いため、「体に触れるなどのスキンシップを取りながら、これから何をするのか、何故髪を切るのかを伝え、恐怖感を撮り除いくことから始める」と言います。エプロンや器具も柔らかい色使いを選ぶなど、リラックスする雰囲気づくりのために細心の注意を払うなど、一人前になるには3年はかかるそうです。

 

理美容師の新たな活動の場に

訪問理美容は、理美容師の新たな雇用も生み出していると言います。「若々しいイメージやオーナーにでもならないと収入面で続けていくのが難しいなどの問題から、30代で理美容師を辞めてしまう人が多かったが、福祉理美容士になることで40代以上の方にもこれまで培った技術を生かしてもらえる」と強調。現在17人の専属スタッフが活動しています。

村井さんの訪問理美容に対する情熱は熱く、「スタッフが働くことにやりがいを感じる事業にしたい」と希望。福祉に関する資格取得費用を会社負担としたり、介護施設と連携したりして実際にデイサービスセンターなどで研修を行うなど、事業の収益を人づくりに充てています。

 

福祉理美容士だから安心できる

2017年6月19日に愛知県東郷町の特別養護老人ホームで、出張理美容専用車輌に男性入居者が乗り込む際に自動昇降リフトから車椅子ごと転落し、その後、死亡する事故が起きました。愛知県警は2018年6月に安全対策が不十分だったとみて、理容師を業務上過失致死の疑いで書類送検しています。

理容師に業務上過失致死の疑いがあったとしても、そうした業者に業務を委託している施設の管理責任が家族から問われかねません。福祉理美容士でなければ訪問理美容を行えないわけではありませんが、専門的な介護スキルを身に付けている福祉理美容士であれば、大切な家族や入所者を安心して委ねることができると思います。

 

他業種との連携が新しいサービスを作る

顧客第一に考え、介護や福祉の知識や技術を習得しようとする村井さんの姿勢に感銘を受けました。今後は独自の取り組みとして施設にメイクセラピーを導入してもらい、理美容の技術で高齢者の方々を健康にしていけたらと考えているそうです。それぞれの専門性が融合することで新しいサービスが生まれそうです。異業種との連携により、これまでになかったWIN-WINな関係を築いてはいかがでしょうか。

 

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