「かつて経験したことがない異常気象」と言う言葉が毎日のように聞かれるほど、2018年は猛暑や豪雨が続いています。7月に中国地方で発生した「西日本豪雨」では、岡山、広島など13府県で、特別養護老人ホームや認知症グループホームなど計252施設が水没や床上浸水などの被害にあい、このうち30施設に入所する高齢者644人が別の施設や病院などに避難しなくてはならない状況に陥りました。今後、例年以上に台風の発生が予想される中、どのような点に注意すべきか。災害の教訓から施設における防災について考えてみました。
西日本豪雨の被害状況
岡山県倉敷市真備町地区では、小田川の堤防が決壊して全面積の約3割が浸水。7月6日夜から7日にかけて一帯の推計約4600戸が水に漬かりました。一帯は住宅2階の軒下(高さ5m)以上が浸水する最も危険性の高い区域に指定されていたため、6日の夜の避難警報を受け、同地区で3つの高齢者施設を経営する会社は職員を呼び集めて、系列の老人施設の入居者を3階建ての老人ホームの最上階に避難させました。電気が止まっていたためエレベーターが使用できず、職員が車椅子を担いで階段を上ったと言います。
普段は17人程度しかいないスペースに、近隣住民合わせて150人が避難。浸水は7日の明け方から始まり、2階まで冠水しました。3階に避難することは決めていたものの水道が止まり食料もない状態で時間を過ごし、夕方ごろに自衛隊のボートに救助されました。現在に至るも平屋や二階建ての施設は再開できず、多くの高齢者が別の事業者が経営する施設での暮らしを余儀なくさせられていると言います。
高台で被害を免れた特別養護老人ホームでは、水没した近くの系列施設から約30人の高齢者が避難したため、定員超過で職員の業務量が増大。自宅の片づけもあるなど疲労の蓄積が続いています。また、慣れない環境にストレスを抱える高齢者も多く、認知症の進行が心配されます。
水害の原因
真備町地区は全体の30%近い約1200ヘクタールが浸水し、約4600戸に被害が出ました。 このエリアは、合流後に湾曲しており水位が上昇しやすい場所となっています。堤防が決壊した場所は高梁川との合流地点に近く、1972年にも堤防が決壊して水害が発生。その後も大雨で用水路や側溝などが氾濫する被害にたびたび見舞われてきました。国土交通省は今秋にも、小田川の水位低下に向けた工事に着手する計画でした。
生かされなかった教訓
水害と言えば、岩手県岩泉町のグループホームの事故が思い出されます。2016年8月30日の台風10号の上陸により、近くを流れる小本川が氾濫。入居者全員が死亡する大惨事となりました。川の近くにありながら水害避難のための対策マニュアルや水害を想定した訓練を実施していないなど、見通しの甘さが問題となりました。
事故当時、ホーム周辺に特段の異常がなかったため、町は川の東側は大丈夫と判断して避難指示を出していませんでした。法人の常務理事が16時に小本川の水位を確認したところ、氾濫するまで2時間はあると判断。入所者を避難させずに役場に水位を報告に行きました。17時過ぎに戻ると、すでに冠水が始まり、グループホームに近づくことができなかったといいます。隣接する介護老人保健施設では利用者や職員が3階に避難しましたが、グループホームは平屋なため天井まで浸水。現場にはスタッフが一人のみで避難もままならず、入居者9人(男性2人・女性7人)が死亡しました。
グループホームは、太平洋から内陸に10㎞ほど離れた場所に建っていました。東日本大震災では、津波が川を伝って内陸まで届くなど、スピードと驚異的な破壊力を経験しているにも関わらず、教訓が生かされていないことが残念でなりません。
災害の教訓を生かした施設づくり
宮城県気仙沼市の特別養護老人ホームでは、東日本大震災の教訓から施設内に避難することを前提とした再建が行われています。もとの場所から5~6km内陸に移動。施設内に避難することを前提として、食糧や毛布、カイロ、ランタン等の備蓄を最上階の2階に保管しています。貯水タンクや、緊急時の特殊コンセント、特別養護老人ホームが25秒停電すると自動で稼働する自家発電機、さらにポータブル発電機まで設置し、3日間は自力で過ごすことができるよう準備しています。
岩手県大船渡市の特別養護老人ホームは、「災害に強い施設づくり」を目標に掲げて再建されています。大型非常電源用発電機の設置により、災害時に流動食を作ることも可能。水道が止まった際でも飲料水、生活用水を確保できるよう井戸を設けました。空調用の配管には、大規模な地震が起きても変形や破断がしにくいように軽量化されたステンレス管を使用。自動販売機は緊急時に手動で中身を取りだすことができるタイプが設置されています。
災害で最も恐ろしいのは「油断」と「過信」
これまで台風の勢力が弱まっていた北海道でも大災害が起こるなど、いつ、どこで水害が起こるかわかりません。行政のハザードマップで危険とされている地域だけでなく、「日本中のいたるところで災害は必ず起こるもの」と認識して準備した方がよさそうです。