フレイル対策とは?官民で取り組む介護予防事業について解説

日本人の平均寿命が延びに比例して75歳以上の後期高齢者の総人口が増加しています。厚生労働省は、加齢に伴う筋力低下による要介護状態を防ぐため、フレイル(虚弱)対策に力を入れています。2020年より実施を予定している介護予防事業について解説します。

 

フレイルとは

海外の老年医学分野で使用している「Frailty(フレイルティ)」を語源とし、日本語では「虚弱」や「老衰」、「脆弱」という意味で使われています。まだ学術的な定めはありませんが、一般的には「加齢とともに、運動機能や認知機能等が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」と定義されています。

 

フレイル対策の経緯

厚生労働省がまとめた2018年簡易生命表によると、2017年の日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性は87.26歳となり過去最高を更新しました。また、総務省統計局の人口推計「2018年3月概算値」では75歳以上の「後期高齢者」が1,770万人、65歳から74歳の「前期高齢者」が1,764万人になるなど、後期高齢者が前期高齢者を上回っています。

 

要介護等認定の状況

単位:千人、( )内は%
65~74歳 75歳以上
要支援 要介護 要支援 要介護
231 491 1,357 3,611
(1.4) (3.0) (8.8) (23.3)

出典:総務省「2016年度 高齢者白書」

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_2_3.html

 

後期高齢者は前期高齢者に比べて要介護状態になるリスクが高まっています。厚生労働省は要介護状態になる要因の一つであるフレイルに着目。「平成28年度のモデル事業について 高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進(フレイル対策)」の中で、フレイルに対するモデル事業の概要を次のように示しています。

  • 低栄養、過体重に対する栄養相談や指導
  • 摂食等の口腔機能低下に関する相談や指導
  • 外出困難者への訪問歯科健診、服用する薬が多い場合の服薬相談や指導など
  • 高齢者の課題に応じ、地域包括支援センター、保健センター、訪問看護ステーション、診療所・病院、歯科医院、薬局などから管理栄養士や歯科衛生士、薬剤師、保健師等が相談や訪問指導を実施

 

フレイル対策の目的と内容

フレイル対策は、次の2つを重点的に行われています。

  1. 高齢者の通いの場を中心とした介護予防(フレイル対策を含む)と生活習慣病等の疾病予防・重症化予防の一体的実施。
  2. 通いの場の拡大、高齢者に対して生きがい・役割を付与するための運営支援、かかりつけの医療機関等との連携。

予防介護事業として、市町村の地域支援事業で開催されている「通いの場(高齢者サロン)」の高機能化が検討されています。後期高齢者医療制度の保険者や国による費用負担により、保健師や栄養士、歯科衛生士、リハビリテーションスタッフなどの専門職を配置。医療の視点に基づく支援を充実させることで、かかりつけ医などへの受診勧奨や、保健指導の情報共有を図るなど、地域ぐるみによるフレイル予防を計画。2020年4月に実施する予定です。

 

【今後の通いの場(高齢者サロン)のイメージ】

※厚生労働省の資料を基に筆者が作図

 

通いの場(高齢者サロン)成功事例

全国で通いの場(高齢者サロン)が実施されており、すでに効果が認められている事例があります。日本老年学的評価研究のプロジェクトが愛知県武豊町の「憩いのサロン」で、サロン開設から5年の観察期間において効果測定を行ったところ、サロンに頻繁に参加していた人は、そうでない人と比べて要介護認定を受けるリスクが半分であることが判明しました。サロンでは軽い体操、おしゃべり、ゲームなどが中心であることから、地域の人々とリラックスして交流できる場所や機会が認知症の予防に結びつくことが分かりました。

 

直近のフレイル対策の取り組み

フレイル対策は、高齢者サロンの強化のみならず、官民をあげてさまざまな取り組みが行われています。直近に各メディアで公開された情報を紹介します。

 

■官民3団体が協働。オーラルフレイル予防に取り組む

6月28日に海老名市、(一社)海老名市歯科医師会、(株)ロッテが、「歯と口の健康づくりの推進に関する協定」を締結。3団体が協働し、市民のオーラルフレイル予防に取り組む予定です(日本経済新聞:2019年7月2日)

 

■軽介護度の移動をサポート。社会参画は介護予防につながる

協力関係にある理学療法士や大学教授との産学共同研究を進めてきたダイハツは、軽介護度の人をサポートするグリップやステップなどを装着できる新型車両を7月9日より発売しました。軽介護度の移動をサポート。社会参画の機会を図り、介護予防につなげたい考えです。(ダイハツプレスインフォメーション:2019年7月9日)

 

■大学と企業が共同研究

弘前大学大学院医学研究科は、化粧品・健康食品のファンケルと健康寿命延伸を目指した共同研究講座「フレイル予防学研究講座」を開設しました。約2000項目におよぶ検査数値の特徴・相関関係を確かめ、フレイルの成因と予防法を自律神経の働きに焦点を当てて共同研究しています。(日本経済新聞:2019年7月11日)

 

衰えるという現実への対応も必要

厚生労働省は2019年夏に、「介護報酬上のインセンティブ措置の強化」、「身近な場所で高齢者が定期的に集い、体を動かす場の大幅な拡充」、「スポーツジムなど民間事業者との連携の強化」などを盛り込んだ「健康寿命延伸プラン」を発表する予定です。官民ともにフレイル予防が活発化するでしょう。高齢者の健康が維持されることは喜ばしいことですが、すべての人に効果があるわけではありません。フレイル予防に該当しない人への対策も、しっかりと考える必要があるでしょう。

 

 

関連記事一覧