賃金表は必ず必要なのか?
給与制度といえば、「賃金表」の作成が必要だとお考えになる方が多い。特に大手企業や金融機関出身の総務部長さん、人事コンサルタントは「賃金表」がない給与制度はありえないようだ。
賃金表とは等級毎に区分されおり、4等級12号棒など目盛りのどれかに社員を位置づけ、A評価なら6号棒、B評価なら4号棒など評価と賃金を直結させる。また、年齢給・勤続給・職能給など3本柱の職能資格制度上の賃金表も有名だ。この賃金表の構造や運用はまだまだ日本型賃金管理そのものといえるが、真面目な担当者が賃金管理をするにはもってこいのツールといえる。
金融機関出身の総務部長と以下のやりとりをしたことがある。
総務部長「賃金表はないのですか?」
福田 「ありません」
総務部長「なぜないのですか?」
福田 「中小企業はまず必要ないからです」
総務部長「賃金表がなければ、管理ができません」
福田 「管理とは何ですか?」
総務部長「●等級、●号棒など社員を格付けすることです」
福田 「しいて言うなら、私の考えは1円単位の賃金表です。高いか低いかそれだけです」
総務部長「それでは管理ができません」
というやりとりを続け、結局、500円~800円刻みの目盛りを刻んだ賃金表を作成して差し上げた。総務部長は「これこれ」という顔で満足そうだった。
賃金管理といえば、賃金表をつくることというのは頭デッカチの人事屋の発想に過ぎない。さらに、いまこの「賃金表」による管理が混乱をきたしている。初任給の高騰や若手の中途採用の給与相場の高騰がある。このトレンドについていくためには、初任給をあげる必要がある。かといって、新卒初任給をあげて、全社員その分のベースアップをすると莫大に労務コストがかさむ。そうすると若手中心のベースアップを実施せざるを得なくなる。これからの給与モデルは初任給を上げて、若手には定着のために積極的に昇給することになる。しかし、日本型賃金管理は上位等級に行けばいくほど、また給与があがればあがるほど、昇給の絶対額は上がる仕組みになっている。いわゆる”年功型賃金”だ。つまり、昔ながらの%(率)発想がある。若手のベースアップをしながら、中堅・ベテランの給与を「率」発想で今まで通り昇給したらどうなるか。企業の人件費は2割増しくらいになるに違いない。したがって、若いときには昇給の絶対額は高いが、中堅・ベテランになるといわゆる「定期昇給」は抑制せざるを得ないことになる。それはベテランを「昇給額」において冷遇しているのではなく、若手の労働力減少と同一労働同一賃金の令和時代における「ゲームのルール」といえる。このようなことを実現しようと思えば、賃金表は邪魔で仕方がないシロモノになる。
賃金表を時代にあわせて更新していけば良いのでは?
従来の賃金表に合わせようとすることが賃金管理の難易度を格段にあげている。時代にあわせた賃金表をつくればいいではないか?と反論されそうだ。しかし、この時代の流れが早すぎて、おそらく3年後はまた賃金表を書き換える必要性にせまられる。
たとえば、2019年大卒初任給は2018年比で1.7%増の210,200円だった。若年労働力不足のなか、優秀な若い人を採ろうとする企業姿勢がうかがえる。最低賃金の全国平均が1,000円以上になり、パートの初任給が1,200円程度が普通になる時代においては、大卒初任給が1,400円×173時間=242,200円程度になっても何らおかしくない。だから、企業はさらなる賃金表の書き換えが必要となる。でも、賃金表は一度作成し、公開してしまうと簡単には取り下げられない。もちろん、全体のベースアップをして賃金表を書き換えることができる。でも前述のようにそんなことをしていたら、コストがもたない。
賃金表ではなく「昇給表」をつくる
だから、賃金表はつくらず、私は「昇給表」を作成することを提案する。たとえば、年齢・勤続・評価を3本柱として、●歳であれば、1,500円昇給、勤続●年であれば2,000円昇給、●評価であれば2,000円昇給と決める。この人のこの年の昇給額は5,500円となる。この「昇給表」は毎年変更がありうる。もちろん、ある年はゼロで、ある年はこの2倍など極端なことはしない。業績不振の場合は年齢・勤続部分だけ昇給するなどもできる。また、若手中心のベアを行っても賃金表はそもそもないので、賃金表の書き換えは必要がない。
もちろん「昇給表」で運用するとしても、モデル賃金カーブは設計しておく。A評価、B評価、C評価を採り続けた人の基本給カーブはしっかりもっておく。そして、若手中心のベアを行ったり、定年が65歳になったり外部環境の影響を受けるときは、政策的にこっそりモデル賃金カーブを書き換え、それを毎年の昇給表に反映していくことになる。
中小企業は昇給表+α
中小企業は中途入社・中途退社が一般的だ。新卒で入社し、定年まで勤めあげるいわゆるモデル賃金にピッタリの人はほとんどいない。「前職いくらもらっていた?」「いくらほしい?」という会話が面接の場でなされ、何の根拠もない初任給が決定されることになる。しかし、入れてはみたもののサッパリ使えない、期待ハズレの人、逆に良い意味で期待を外し、頑張って戴ける人など多種多様になる。そうなると、「昇給表」に加えて、加算したり、逆に昇給しなかったりする「是正」をすることになる。これは場当たり的といえば場当たり的だが、中小企業に必要不可欠なダイナミズムといえる。
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