働き方改革の盲点
ワークライフバランス、残業規制、同一労働同一賃金の推進等は着々と法制化の議論が進んでいる。一方、ホワイトカラーエグゼンプション(脱時間給)制度の法案は「棚ざらし」で、審議さえされなかった。それも年収1,075万円以上の高度専門職に対象を絞った制度でさえである。
働き方改革の議論がさかんだが、働き方には2つあることを忘れてはいけない。
「仕事は、決められたことをする」という働き方と、「仕事は、できそうなものをこなし、うまくできて余裕ができたら、徐々に難しいことに”挑戦”する」という働き方である。
前者を選択すると、どんどん仕事に習熟するので、労働時間が短くなる。また、仕事がおもしろくなくなるので、サッサと家に帰ることとなる(=一般職的な仕事)。
後者の選択をすると、どうしても悪戦苦闘が伴うので、労働時間が長くなる(=総合職的な仕事)。
日本は欧米の働き方を参考に議論をしているが、仕事の難易度がどんどん上がり、年収も上がり、しかもワークライフバランスも充実しています、という仕組みは世界のどこにもない。もちろん、中小企業でも定時退社を原則として総合職的な仕事を個人のポテンシャルでやってのける人がいる。しかし、これは例外であり、主流(大多数)とはなりえない。
もっと働きたいに応えよう
「できないというな」「死に物狂いで頑張れ」「逃げるな、食らいつけ」
かの有名な電通の鬼十訓が修正されたように、もう、このような論調は大声で言えなくなった。今、定時退社を推進している日本電産の永守氏も「常軌を逸した長時間労働」を自分にも社員にも課して、ゼロからのし上がってきたはずだ。また、今は仏のような人相をされ、生存する最も偉大な経営の神様と言っていい、京セラの稲盛氏も「誰にも負けない努力」で道を切り開いてきた。今の日本の発展を支えたのは「常軌を逸した長時間労働」である。
もっと働きたい、時間を忘れて仕事をしたい、今の己の人生を仕事に投資したい、常に挑戦を繰り返し、超・一流の仕事をして役に立ちたい、こんな人は消えてしまったのだろうか。みんな早く帰りたいのだろうか。
私はそうではないと思う。労務の現場で、もっと時間を気にせず、思う存分に働きたい人は少なからずいる。
時短だ、時短だというワークライフバランス政策のみで、自分の意思で思う存分仕事ができる労働環境を合わせて整備していかなければ、経営者はそれらの社員の期待に応えていないことになる。
裁量をもってバリバリ働きたいに応える賃金制度とは?
ポイントその1 入社3年以上の1人前の社員が自ら選択する制度に
キーワードは「選択」だ。安倍首相はこんなことを言っている。脱時間給制度の導入に際し、以下の3条件を遵守する。
(1) 希望しない人には適用しない
(2) 職務の範囲が明確で高い職業能力を持つ人材に対象を絞り込む
(3) 賃金が減ることがないよう適正な処遇を確保する
これには同感である。そのまま実行だ。
これに私は(4)として「健康維持への配慮」を加えたい。
私が新卒で入社したときの試用期間の残業は月間100時間を超えていた。しかし、仕事ができないのだから、また勉強中なのだから長時間労働は当たり前だという論調はもう通用しない。今の子は達成する、限界まで頑張るという経験がない。「入社1年目は残業をさせない」くらいの配慮がいるようになった。
そこで、私は少なくとも入社3年以上~7年以上の人を対象に脱時間給制度を導入することが適当と考える。それも自由な意思に基づいた合意書をかわした者だけが、自社版ホワイトカラーエグゼンプションに移行できる。
ポイントその2 定額残業代制度をうまく使う
脱時間給法案は、労働側の反発でまず通らない。したがって、実際、脱時間給制度は今の日本では無理だ。自社版のホワイトカラーエグゼンプション(脱時間給)制度を構築するしかない。法律はやったらやった分の残業代を払え、なので、それを曲げることはできない。そこで定額残業代制度を適正に運用することを提案する。
一方、定額残業代制度への風当たりも強い。給与を22万円と見せて、その内実は基本給14万円、8万円が残業代であったという求人票のウソが問題視されている。また、過度な残業時間80時間や100時間の設定が長時間労働を助長するものとして社会的に批判を浴びている。平成31年4月1日からは月間60時間超の残業代は1.5倍になる。これは60時間超の残業はさせるなという意味である。
したがって、
・新卒はできるだけ残業代はやったらやった分払う
・月間60時間超の定額残業代は設定しない
一定のスキルを持った専門職や監督職以上には月間45時間~月間60時間の定額残業代を設定する。もちろん、労働時間は紙の自己申告制にし、超過分はキレイサッパリと払う。深夜労働については事前許可制にして過度な長時間労働に目を光らせる。休日出勤も原則禁止だ。
女性の活躍のためには月間45時間分の定額残業代を設定していても、フレックスタイム制を導入し、結果としてほぼ残業をしなくてもいいとする。優秀な女性はそれでも十分貢献してくれる。
今後は課長であっても残業代を払う時代になる。管理監督者の要件が厳しいからだ。課長についても自己申告制とし、超過分は払う。特に中小企業の課長はプレイング、プレイング、プレイングマネージャーだから、会社が認めた分は残業代を払うという運用は適している。
一部の希望したコア社員ついて
「時間にこだわっているようで、時間にはこだわっていない」
目指すのはこんな働き方だ。
中小企業の経営は脱時間給で働く、幹部の質と量で決まる
私は日々中小企業の経営と対峙している。中小企業は幹部及び幹部に準ずる社員の質と量で決まる。ということは、合意のうえで「定額残業代制度」の適用となる人をできるだけ増やす経営だ。残りの人は身も心もコロコロと入れ替わり変化する。ある人は残業代が欲しいといい、ある人は定時で帰りたいという。ある人は有給休暇を1日残らず消化する。ある人はミュージシャンになりたいと退職する。それはそれでいい。
良い意味で変態の社長に、死に物狂いでついてくる幹部が3~5人いれば中小企業の経営は年商50億までいける。そして、幹部にはがっちりと報いる。年収1,000万円が目標だ。
ただし、昭和~平成一けたの「過去」と「現在」とはある違いが存在する。
「過去」は全員が総合職でバリバリだ、幹部コースだという単線のキャリアを設けるのみで、後はパートや契約社員という雇用管理区分で良かった。「現在」はライフイベントに応じた「踊り場」を設けたり、定時退社・時短を好む社員にそれを許容したり、コースイン、コースアウトを個人の節目で選択できる複線のキャリアや働き方を用意することが必要となった。それも正社員と非正規社員の境目がシームレスになっていく。
労務管理で差別化を図る時代となった。
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