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賃金制度はテキトーでちょうどいい?

ちょうど30歳前後のとき、元・ソニーで人事の仕事をされていた方に「賃金の勉強をしたいのですが、おすすめの本はありますか?」と質問してみた。

それが、もう絶版になっている「創造的経営-その実践と探求(1968年)」小林茂だ。

その本は、賃金理論と労働法で頭が一杯になっていた私に衝撃を与えた。そこに、当時の私にとって「冗談かな?」と思えるこんなことが書いてあった。

「賃金は人間に対する謝礼であって労働力の代金ではない」

「賃金は、謝礼であるとしても、もちろん各人に対して金額の差は必要だ。お布施に差があるのと同様だ。ただ、その差のできる動機が、労働力の代金観の場合とは根本的に違うのである。それはニンジンとむちによる差では絶対にない。いわば各人の格による差である」

「この場合の格とは何か。それは感覚的には割合ははっきり存在していることがわかるが、内容を明確にして、論理的に評価しうるものではないらしい。年功的でもあるし、年齢的でもあるし、能力的でもあるし、場合によって人格的なものであるらしい。しかも、これらの格を構成する諸要素は、謝礼を受け取る側の条件の違いで、場合によっては年功が中心になったり、能力性が中心になったり、いろいろ変化するらしい。そうなしないとなんとなく落ち着かないのである。」

「また、賃金額には労働時間も関係するが、労働力の代金観の場合のように、むやみに細かくあたかも電気代のように計算するのはおかしい」

私が考えていた賃金理論の真逆のことしか書いていなかった。どうやら小林茂氏は、既存の賃金制度、要素分解的な評価制度、同一労働同一賃金は百害あって一利なし、と言っておられるようであった。

人間を人間としてみる、人間を人間として扱うというのがその哲学の根本であった。

「非常にやりがいのある仕事をさせてくれるところがあれば、私は給料が安くてもいくのではないだろうか。いやな仕事であれば、給料がよくてもたぶんいかないだろう。私は、私の努力を売っているとは、考えたくない。人間の魂のようなものを一ちょういくらで売っている、それで支払い済みと考えられたら、たまったものではない。私がそうであるのなら、ほかの人も私と違うわけがない」

確かに、一代で立派な企業を築き上げた社長、中興の祖といわれる社長の考え方は小林茂氏の考え方に極めて近い。

この考え方を実務に落とし込むのが私の仕事であって、そのためには考え抜かれた「テキトー感」が欠かせないのだ。

 

 

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