物流コスト削減-運賃値下げは間違いと言い切れる4つの理由

メーカー・商社・小売業など、業種は違っても「物」を取り扱っている企業であれば、「物流コスト削減」は物流コスト削減金額=営業利益に繋がり、企業にとって利益率の向上にも繋がる重要なキーワードであると思います。しかし、物流費削減といっても何処から何処までが物流コストに入るのか?という境界線が曖昧であり、一番解りやすいトラック便の運賃を下げる事だけに特化してしまいがちであります。そこで、本記事では物流コンサルタントの視点から出来るだけ解りやすく、物流経費削減を成功させる為のコツを説明させて頂きます。

 

1. 隠れてしまいがちな物流コスト

物流コスト削減というテーマを考えた時に、最初に思いつくのはトラック便(路線便含む)の運賃だと思います。理由は簡単で、実際にお金(運賃)を支払うからです。誰でもそうですが、支払うお金は少ない方が良いと考えるのが一般的であり、仕事を依頼する側であるため、コストダウンの交渉がしやすい事も一因であると思います。

しかし、プロの視点で物流費を客観的に判断した場合は、運賃を下げるという行為は必ずしも物流コスト削減に繋がる訳では無いと結論付けることが出来ます。その理由は隠れてしまいがちな物流コストにあります。隠れた物流コストの例を挙げてみます。

① 3月や12月などの一般的な繁忙期に、既存の物流会社(運送会社)より「トラックが見つからず手配が出来ない」と、トラック便の手配を保留された。別の運送会社に問い合わせて、トラック便を探すことになり時間を取られてしまった。

② トラック便が、約束の日時に延着し謝罪する為に営業担当がユーザーに訪問した。
※ユーザーからの信用も失う可能性がある

③ 既存物流会社のトラック手配能力が低く、ユーザーの緊急オーダーに対応することが出来ず、販売機会が失われ利益を逸失した。

④ トラック便で輸送中に商品を破損させて、商品の再製作や再発送に時間を割いた。
※ユーザーからの信用も失う可能性と、エンドユーザーの利益を逸失する可能性がある

 

トラック便に関係する隠れた物流コストの例を4点挙げました。皆さんのビジネスに当てはめてみると、思い当たる節があるのではないでしょうか?

 

① 3月や12月などの一般的な繁忙期に、既存の物流会社(運送会社)より「トラックが見つからず手配が出来ない」と、トラック便の手配を保留された。別の運送会社に問い合わせて、トラック便を探すことになり時間を取られてしまった。

順番に解説させて頂くと、①に関して、一般的に3月は決算や引越しのシーズンであり、12月は年末でクリスマス・忘年会・正月・バーゲン等のイベントが多く、トラック便が不足傾向になります。もちろん業界によっては、繁忙期が夏場であるなど多少の違いはありますが、物流業界として大きく考えると3月と12月が繁忙期になります。

物流業界では、高い運賃を支払って自社便指定している場合を除けば、すべてのトラック便を自社車両や専属車両で手配している例は稀であります。運賃を下げて依頼していると、閑散期には仕事が無いので、荷物を運んでいる協力運送会社が、繁忙期になると運賃の高い仕事に流れてしまうのが、運送業界の定説となっています。結果として、3月と12月にはトラック便を手配するのに時間を取られることになり、付加価値の高い仕事(本業)に割く時間が短くなり、利益を逸失する(=物流コスト)ことになります。場合によっては、通常運賃より高い運賃でトラック便を手配することにもなります。

 

② トラック便が、約束の日時に延着し謝罪する為に営業担当がユーザーに訪問した。

トラック便が延着することは、人間が行うことである限り0件にすることは難しいと思います。しかし、運賃を下げてトラック便を手配していると延着が発生するリスクが増加します。理由は低い運賃でも仕事を受ける運送会社のトラック便が手配されるからです。

理由1:年式の古いトラックが多くなるため故障発生率が高い
理由2:運賃を稼ぐ為に無理な運行をしている場合が多い
理由3:間接部門に経費を計上することが難しいので、延着の報告が遅れクレームが大きくなる

上記の様に運賃を下げることにより延着の確率は上がり、リスクは大きくなります。

 

③ 既存物流会社のトラック手配能力が低く、ユーザーの緊急オーダーに対応することが出来ず、販売機会が失われ利益を逸失した。

繰り返しになりますが、トラック便の手配は契約している場合を除き、自社車両だけとは限りません。多くの部分を協力運送会社のトラック便で手配しているのが現状であります。この際に大きく関係してくるのが、現在依頼している物流企業(運送会社)のネットワーク力です。

全国に自動車貨物運送業を営む法人数は6万社以上あるとされています。皆さんが現在依頼されている物流企業の担当者に「毎月売り買いのある運送協力会社は何社ですか?」と質問してみて下さい。協力度合いによって差はありますが、その企業数がネットワーク力の目安となります。そして、今後は運送業界のドライバー不足に対する深刻度が増加するので、ネットワーク力の重要性が高まります。緊急オーダーが発生した際に、トラック便を手配する能力が低いと販売機会を逸失(=物流コスト)することに繋がります。

 

④ トラック便で輸送中に商品を破損させて、商品の再製作や再発送に時間を割いた。

最後に④ですが、トラック便で輸送中に大切な商品が破損した経験のある方も多いのではないでしょうか?破損した商品が在庫品であるか、特注品であるかは別にしてエンドユーザーに対して迷惑を掛けてしまう事には変わり有りません。輸送中の擦れ、積込み作業時の落下など理由は様々ありますが、原因は主に下記の3点です。

原因1:積込み・荷卸し時に乗務員の不注意で、接触や落下などで商品を破損させた
※乗務員の商品に対する意識が低い
原因2:輸送時に養生が不十分であった為、荷台の中で擦れや転倒等で商品を破損させた
※乗務員の経験不足
原因3:輸送車両が交通事故や、接触事故等で衝撃を与え商品を破損させた
※乗務員の技術不足や無理な運行計画があった

商品の破損事故が発生した際には、迅速な対応が求められます。エンドユーザーに迷惑を掛けないことが最優先であり、在庫品であれば再配送の手配が必要となります。特注品の場合は特に問題で、最悪の場合には納期に間に合わなくなり、エンドユーザーに多大な迷惑を掛けてしまうだけでなく、再製作や謝罪に大きく時間を割くことになります。(=物流コスト)ましてや信用という無形財産を失うことは金額に表すことが出来ないくらい大きな損失(=物流コスト)となるでしょう。

 以上、代表的な4つの例を解説しましたが、物流経費とは担当者レベルの思考で「数字に見えないから関係ない」と軽視するのではなく、経営者の視点で、運賃だけでなく隠れてしまいがちな逸失利益や、お金で買うことが出来ない信用も含めて「物流コスト削減」に本気で取り組むべきであると思います。

 

2.物流コスト削減はプロの仕事

企業の物流担当者であれば、物流コスト削減は重要課題の1つであると思います。しかし、営業・製作・管理など立場の違いはあっても、ビジネスパーソンとして物流に係わっている人は多く、専門知識が無くても物流費を削減したいと考えておられることでしょう。

現実問題として、最善のロジスティクスを構築したいと考えても、物流に「完璧」というゴールはなく、物流は生き物であり、日々進化しております。さらに最適だと思うロジックが完成しても、物流は現場が中心であり、現場で働く人や実運送を行うトラック便など、実際に商品を扱う現場がしっかりしていないと成立しません。

つまり物流のプロとは、対象となる企業の内部事情を理解し、製作・製造からエンドユーザーまでを熟知した上で、最善・最適を導き出し、エンドユーザーに商品を届けるまでの手配能力を持っていることが条件であると私は考えております。

物流コストを削減したいと真剣に考えている皆様は、物流のプロを探しパートナーシップを結ぶことが第一歩となると思います。

 

3.物流コスト削減の基本は商品を動かさないこと

運送会社のコストは下記の3点が大半を占めます。

経費1:人件費
経費2:燃料費
経費3:車両経費(リース代・保険代・点検費等)

上記3点の経費について大企業であろうが、中小企業であろうが基本となる経費にはあまり差はありません。大阪から東京までトラック便で荷物を運送した場合には、時間・経費とも企業の大小に関係なく同じだけ掛かります。つまり運送会社とは非常に原価率の高いビジネスであるため、トラック便の運賃値下げにはすぐに限界がきます。

物流コストを削減する際に、基本となる考え方は「商品を動かす回数・距離・時間を最小限にすること」であります。物流企業側からみれば、売上が下がってしまうと考えてしまいそうですが、結果として荷主企業の存続・発展に貢献出来ますので、長期にわたってWIN-WINの関係を構築することが出来ます。

物流の品質を考える上では、商品を動かす=破損するリスクに繋がりますので、商品を動かす回数を出来る限り少なくすることが重要となります。同じトラック便でも、いわゆる路線便では最低2回は積替えを行いますので、小ロットでの運賃が安いというメリットがありますが、破損のリスクが高く商品をキチンと梱包する必要があります。

商品にとって、トラック便で移動させる事によって付加価値を生み出すことはありません。場所が移動するだけで、商品にダメージが発生する等のマイナスはあってもプラスを見込むことは出来ません。つまり物流コスト削減を考える場合に、商品を製造してから、エンドユーザーに届けるまでの工程をいかに効率化することが大切になります。

 

4.企業の発展と共に、物流は足し算で作られていく

様々な企業の物流を検証すると、物流は企業の発展に合わせて足し算で作られていることが理解できます。しかし、物流は生き物なのでポイントでゼロベースから見直しをする必要があります。それを行っている企業は少ないので、足し算の弊害が発生している場合が多くみられます。

弊害1:倉庫が手狭になる度に新しく倉庫を借りてきたので、在庫が3ヵ所に分散している
弊害2:営業マンがルートセールスのついでに配達していたが、件数が増加したので専属トラックを導 入した。しかし、日々の配達件数に増減があるので、専属トラックの稼働率が上がらない
弊害3:トラック便の手配が増加する度に、依頼する運送会社を増やしてきたので、トラック便の手配 や請求書の処理が煩雑になっている

上記のような悩みを持っている方は多いのではないでしょうか?物流は企業の成長と共に作られていくので、足し算になるのは仕方がない部分であります。問題となってくるのは創業時から貢献してくれている運送会社が、運送のプロであっても、物流全体をプランニング出来る物流企業に成長しきれていない場合が多いことです。貢献度が高いこともあり、無下にすることも出来ないですが、今後のビジネスを考えると、最適な物流システムの構築が重要課題の1つになる企業が多いので、既存運送会社の強みを活かし、ゼロベースでプランニングして貰える物流企業とパートナーシップを築く事が大切だと思います。

 

5.物流コスト削減は一筋縄ではいかない

物流のプロと共にプランニングを開始しても、物流コスト削減は一筋縄ではいかない場合が多くあります。例を挙げますと、弊害①にもあったように売上拡大に伴って倉庫を建築・賃貸し、3ヵ所に分散していたので、非効率を解消するため物流センターを建築し1ヵ所に集約するプランを立てました。
しかし、バブル時代に建築した倉庫の評価額が、現在は目減りしており売却すると多額の評価損が発生する為に倉庫を集約出来ないといった例もあります。

このように、物流コスト削減するためにプランを立てても、プラン通りに進むことはほぼありません。抜本的な物流コスト削減を実行するにあたっては、目先の損益や社内の軋轢、エンドユーザーへの影響を最小限にする為の営業フォローなどを覚悟する必要があります。小規模な物流コスト削減ならそこまで構える必要はありませんが、抜本的な改革にはそれなりの覚悟を持って臨んだ方がよいでしょう。

物流コスト削減は、企業にとって重要なテーマであります。物流コストを正しく認識し、焦ることなく出来る事から始めるのが正解だと思います。

 

6.正しい物流企業の選び方

説明させて頂いた通り、物流はプロの仕事であります。しかし、とにかく規模が大きければ良いというものではありません。コスト面を含めて、企業とビジネスの内容にマッチングした物流企業を選定することが重要です。既存の物流企業が合っているのかを判断する5つの質問を用意しました。

質問①:エンドユーザーに対して、同じ温度で行動してくれていますか?
※特に緊急対応・クレーム対応・アフターフォロー等
質問②:年間を通してトラック便や、作業員の手配について安定供給する能力がありますか?
質問③:トラックの洗車や荷台の整理整頓、乗務員・作業員・担当者の身嗜みや挨拶はキチンとされて    いますか?
質問④:担当者から物流改善の提案がありますか?
質問⑤:担当者は信頼の出来る人ですか?

いかがでしょうか?それぞれの質問で確認したいのは(①共感度②実務能力③社風④発展性⑤相性)となります。⑤の相性は重要なのか?と感じるかもしれませんが、重要だと断言できます。担当者との相性が良くないと、物流コスト削減は難しいと思います。理由は、物流コスト削減には物流企業の担当者に関係する部分が多くあります。つまり物流企業の担当者が、皆様の物流を真剣に改善したいと考えて取り組むことが重要であり、逆に考えれば信頼できる物流企業の担当者とパートナーシップを構築出来れば、物流コスト削減が達成されたと同義であると言えるかも知れません。

最後になりますが、物流コスト削減=運賃値下げは間違いであることは理解して頂けたでしょうか?極端な例を挙げると、売上貢献に繋がる物流システムを社内に構築出来たのであれば、物流企業に支払う金額が増加しても物流コスト削減出来たということが出来ます。本当の物流コスト削減を実行する為には、社内全体の流れを掴むことが必要です。私も物流に携わる者として日々勉強中であります。本記事は私が現場での実体験で得た知識の一部であり、すべてが正解であるとは限りません。皆様の物流コスト削減にとって本コラムが少しでもお役に立てたのであれば幸いです。

 

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