理想の介護サービスを求めてUR住宅内に事業所を開設

 

札幌市厚別区もみじ台地区に、小規模多機能型居宅介護「ゆうづきもみじ」と居宅介護支援事業所「生活介護相談室ゆうづき」がオープンしました。社会福祉法人などに勤務していた夫婦が独立して株式会社を設立。地域に密着した支援を目的に高齢化が進むUR住宅を事業所として利用するなど、ユニークな取り組みが注目されています。会社設立や今後の展望について話を伺いました。

 

ヘルパーをきっかけに介護の奥深さを知る

株式会社優月舎を設立したのは、大沢庸輔・ゆかりさんご夫婦です。同じ事業所で介護支援専門員として勤務していたのが出会いで、同じ志を持つものとしてシンパシーを感じ、「いつか一緒に事業を立ち上げたいね」と話していたと言います。現在ふたりは結婚し、ゆかりさんの情熱に動かされる形で、庸輔さんと一緒に会社を立ち上げました。

会社の代表はゆかりさんが務めています。テレビで高齢者と接するヘルパーの姿を見て「この仕事に就きたい」と思い立ち、ヘルパー2級(当時)を取得。訪問介護員として従事していました。高齢者やご家族と関わることの楽しさがある一方で、ヘルパーとして出来ることの限界も感じたと言います。次第に「介護保険制度の中心となる介護支援専門員となり、高齢者にとってきめ細かなサービスを提供したい」と考えるようになりました。

 

独立開業を決意し、現実と理想のギャップを脱却

介護支援専門員資格を取得後、希望通り居宅介護支援事業所へ転職しましたが、今度は理想と現実のギャップに苦しみます。介護支援専門員は要支援・要介護認定者およびその家族からの相談を受け、介護サービスの給付計画を作成し、自治体や他の介護サービス事業者との連絡、調整等を行うのが仕事ですが、それ以外にも請求業務や事業所によっては営業的な役割を担わせられることがあります。「求められる仕事が本来やりたい仕事と乖離していくことに疲弊しました」とゆかりさんは言います。

介護支援専門員の仕事を辞めることも考えていたゆかりさんに転機が訪れます。これまで担当していた厚別区から他の地域への転勤を命ぜられたことが独立への後押しになりました。「ヘルパーの時から厚別区、特にもみじ台地区に関わっていたので、この場所を離れたくない」。夫である庸輔さんに胸の内を伝えたところ、「僕もそう思う。もみじ台地区で事業を立ち上げよう」という話がまとまり、開設の準備に取り掛かりました。

 

高齢者がたくさん住むUR住宅を事業所として利用

もみじ台地区は、昭和40年代に大規模な団地が立ち並ぶ住宅地として発展してきました。しかしアクセスが不便なことや、建物の老朽化により新規の入居が減少。近年では人口減少と共に高齢化が課題になっています。事業内容は、ゆかりさんの希望する居宅介護支援事業所に庸輔さんの意見を取り入れ、小規模多機能型居宅介護の二つを柱とすることに決定。事業所となる物件を探していたところ、空室が目立つ5階建てのUR住宅が目に止まりました。管理会社に相談すると事業所として利用することを快諾。2019年12月に1階部分2部屋を利用した、大沢夫婦の理想郷がオープンしました。

内装のリフォームに約250万円、消防法をクリアするために事業所のみならず全棟にスプリンクラーを設置しなくてはならず、約500万円が必要に。備品や広告費も含めて全部で約1,000万円を投じました。これまで担当していた利用者を引き継ぐことなくゼロからのスタートであり、最初は問い合わせがなく「失敗だったか」と落ち込むこともありましたが、団地や地域包括支援センター、病院などに配布したチラシが集客に繋がり12月中旬から下旬にかけて新規の相談が続出。地域から必要とされている手ごたえを感じ、ホッと胸をなでおろしました。

 

独立開業までの道と今後の展望

介護・福祉の分野で独立開業を希望している人は多いと思いますが、実際に事業を立ち上げる人は僅かです。株式会社優月舎の設立と今後の展望について、大沢さんご夫婦に伺いました。(敬称諸略)

 

吉 田:UR住宅を事業所に利用しているケースは珍しいですね。

庸 輔:北海道ではおよそ初めてで、全国でも少ないと聞いています。消防法をクリアするために設備が必要でしたが、行政への申請はスムーズで「積極的に実施してください」という感じでした。

吉 田:参考にされた事業所はありますか。

庸 輔:以前勤務していた法人は高齢者が多い団地の近くに開設していましたが、「どうせなら団地の中にあれば便利なのではないか」と思っていました。神奈川県の事業所がそうした取り組みを実施していることを知り、「自分たちもやってみよう」と思い立ちました。

吉 田:どのような理由が開業のきっかけになりましたか。

ゆかり:構想はずっとありましたが、なかなか独立には至りませんでした。今回は夫やスタッフ、UR住宅の管理会社など、タイミングやパートナーなど条件が揃ったことで独立に踏み出すことができました。スタッフは公募ではなく、これまでのつながりで集まってくれた方々です。人々の支えに背中を押されました。

庸 輔:最初は妻に「一人でやったら」と言っていました。独立したい気持ちはあるものの、居宅だけでなく小規模多機能もとなるとコストがかかり、リスクも大きくなりますからね。しかし他の事業はやりたくなかったので、「団地で低コストで開設できるなら」と試算しました。銀行もお金を貸してくれたので「やってみようか」と決心しました。

吉 田:今後の展望を教えてください。

庸 輔:高齢者に向けたサービス提供者がUR住宅にあることで安心して居住できると思います。UR住宅の入居率が上がり、私たちのサービスを使っていただければWIN-WINです。市でももみじ台団地の街づくりに関する公聴会を行っていますし、リノベーションにより若い人の入居も可能です。地域と密着して福祉の一角を担っていきたいです。

 

先駆者の背中を参考に最初の一歩を踏み出す

SNSなどを見ると、「事業所の理念と現場の実態が合っていない」、「介護の仕事への評価が低い」など介護関連の従事者の不満を見受けます。その一方で現状に屈することなく、人々の支援を受けて理想とする事業所を立ち上げる大沢さんご夫婦のような方もいます。働き方は人それぞれですが、我慢して続けるよりも、楽しく働くことが精神的によいのは明らかです。社会福祉士や介護支援専門員など、独立開業する人は少しずつ増加しています。先駆者の背中を参考に最初の一歩を踏み出してみませんか。


株式会社 優月舎

札幌市厚別区もみじ台西3丁目

アルファスクエアもみじ台5号棟 101号

電話 011-802-9008

 

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吉田匡和

介護ライター 福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。 https://buleorca.webnode.jp/

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