【蘭越厚生事業団】適切な人事考課で資質向上を達成する

業務に対する貢献度や職務遂行度を一定の方式に従って評価する「人事考課」を導入している事業所は多いと思います。しかし適正な評価を行っていると胸を張れる評価者や、人事考課が十分に生かせている事業所は少ないでしょう。

介護保険制度創設を契機に「選ばれる施設づくり」を目指し、これまで20年近くも人事考課に力を入れている法人があります。北海道蘭越町の「社会福祉法人 蘭越厚生事業団」を取材しました。

 

 

社会福祉法人 蘭越厚生事業団とは

社会福祉法人 蘭越厚生事業団は、昭和53年に羊蹄山とニセコ連峰を望む北海道蘭越町に設立されました。特別養護老人ホーム一灯園、ユニット型施設ほのぼの舘、地域密着型高齢者グループホームらんこしなど、3つの施設を運営しています。

 

人事考課導入のプロセスと目的

蘭越厚生事業団の人事考課制度は、介護保険制度が施行された2000年に導入されました。大迫克司施設長は「自治体が入居者を選定する措置制度では競争の必要がありませんでしたが、介護保険制度で契約に変わり、利用者に選ばれる施設になる必要がありました。選ばれる施設とは、よい職員がたくさんいる施設です」と語ります。

人は自分の仕事ぶりを適切に評価してほしいという欲求を必ず持っています。 しかし具体的な役割の基準や目標が定められていなければ、何をどのように行えばよいのか迷ってしまいます。職員の仕事の役割・責任や目指す目標を明確にすることで、個々の能力のレベルアップを図ることが人事考課の目的です。

 

人事考課の評価項目

蘭越厚生事業団の人事考課では、年度初めに成果目標と業務目標を記した「ステップアップシート」を作成し上長面接で半年ごとに次の3つの達成度が確認されます。

  • 成績考課

各人に与えられた仕事の一定期間の遂行度を評価します。

 

  • 情意考課

努力の程度、仕事に取り組む姿勢、意欲など職務遂行のプロセスを評価します。

 

  • 能力考課

職能資格や等級基準に照らして保有能力や発揮能力を評価します。能力については、仕事を行う上で必要とされる基本的能力(知識、技能)と、経験を積むことによって得られる習熟能力に分けられます。

 

報酬への反映及びモチベーション向上

人事考課の結果は、前期の評価は夏期の賞与、後期の評価は冬期の賞与に影響します。基本となる賞与支給額に役職や資格によってあらかじめ決められたパーセンテージが加算され、さらに人事考課の査定がプラスされる仕組みです。目標を下回っても標準支給額は維持され、マイナス支給は行いません。また賞与は非正規雇用の職員にも適応されており、正規雇用と同じ人事考課が行われています。

「半年ごとに目標を区切ることで、前期で目標に到達しなかったとしても、後に引きずらず一旦リセットして頑張ってもらう狙いがあります。また正規雇用も非正規雇用も前向きに仕事をしてもらうために、同じ条件としています」と宮谷内倫哉総務係長は説明します。

 

評価者のスキル向上と評価内容の適正化

人事評価において、果たして適正な評価ができているのか悩ましいところです。評価者のスキルが担保されていなかったり、評価する視点がずれていたり、私情に左右されるようでは、適切な評価はできません。蘭越厚生事業団では次のような取り組みが行われています。

  • 人事考課説明会を開催

毎月コンサルト会社を招き、評価者となる施設長からリーダーを対象とした「人事考課説明会」を開催。「業務遂行能力は高いが、職員とのコミュニケーション能力に問題がある職員に対し、どのように評価するか」など、評価判断が難しい事例について評価にばらつきがないよう話し合いが行われています。

蘭越厚生事業団では、人事考課開始当初からコンサルト会社を活用しており、「人事考課のノウハウを享受できることや、他の施設の実施例を聞くことができるなど、コンサルトを受けるメリットは大きい」と言います。

 

  • 記録観察ノートの作成

直近の成功例や失敗例だけが評価に影響しないよう、評価者は指示に対してどのような仕事をしたかを毎日記した「記録観察ノート」を作成。面接時にフィードバックし、どのように評価したのかエビデンスを示しています。人事考課の面接は単なる「賞与査定のための面接」に留めず、今期の取り組みについて振り返ったり、次の成長につながる課題を見出したり、さらには、仕事に対する要望などを聞く機会として活用されています。

 

  • 三重のチェックシステム

直属の上長が評価した内容は、室長・係長・課長などから構成する三役によって2次評価が行われ、施設長評価によって最終決定がなされます。例えば入職1年目にA評価が付いている場合には、本当にこの評価でよいのかリーダーと主任に照らし合わせを行ったり、場合によっては施設長の最終判断で、これまでの判定が覆ることもあるとのことです。

 

何をどのようにすれば報酬に結び付くのか明確に示す

「働き方改革」が推進される昨今、どのような条件で働けるのかを正しく情報開示する必要があります。蘭越厚生事業団は、人事考課のシステムの詳細をホームページに掲載しています。その理由を「評価の透明性をアピールすることで人材確保に繋げている」と言います。実際に人事考課の記載を見て応募に繋がったケースもあるそうです。

介護施設にありがちな「利用者を笑顔にする仕事」「人を幸せにする仕事」など抽象的な表現ではなく、労働条件や何をどのようにすれば報酬に結び付くのかを明確に示すことが、人材確保や定着率向上のために不可欠であると感じました。

 

社会福祉法人 蘭越厚生事業団(特別養護老人ホーム一灯園)

http://www.ittoen-r.or.jp/

 

 

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