高齢者と有酸素運動の意外な関係

有酸素運動は、長時間にわたって体に負担の少ない運動を行うことで、体内に酸素を取り込んで運動に必要なエネルギーを作り出します。エネルギーは主に取り込まれた酸素と体に蓄えられた脂肪によって作られます。脂肪をエネルギーに変えるのには一定の時間がかかるため、からだに負担の少ない運動を30分ほど続ける必要があります。ウォーキングやサイクリング、水泳などが有酸素運動にあたり、ダイエット効果が有名です。

運動を続けるだけの体力を必要としますので、高齢者にはあまり馴染みがないように思える有酸素運動ですが、今、高齢者と有酸素運動の有効な関係が注目されています。ここでは、高齢者と有酸素運動の意外な関係、介護施設でできる取り組みを詳しく解説します。

 

1. 有酸素運動の効果

有酸素運動のダイエット効果は多くの人が知っているでしょう。有効で長く続けられるエクササイズとして、若者から中高年の人まで多くの世代で注目されている運動です。しかし、実は有酸素運動にはダイエット効果だけに止まらない、健康にとって素晴らしい効果がたくさんあるのです。

 

1.1 認知症予防

有酸素運動を行うと全身の血行がよくなります。当然、脳への血流もよくなり、脳が活性化するといわれています。特に、記憶を司る海馬は有酸素運動によって機能が向上することが報告されています。

また、有酸素運動は、脳内でのアミンやエフェドリン、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質の産生を増やす効果があります。人の脳には膨大な数の神経細胞があり、その一つ一つがネットワークを組んで様々な情報を伝えながら働いています。このネットワークで情報を伝えるのが神経伝達物質です。認知症の人は神経伝達物質が少ないといわれています。有酸素運動は、脳内のアミンやエフェドリンを増加させることで神経伝達のネットワーク機能を活性化する効果があり、認知症予防につながるのです。

 

1.2 うつ病予防

うつ病は脳内のセロトニンと呼ばれる物質が少なくなることで発症すると考えられています。有酸素運動はセロトニンの分泌を増やす効果があります。ですから、有酸素運動はうつ病を予防するだけでなく、不安や抑うつ感などの気分の変調を改善してくれるのです。

 

1.3 身体機能の維持

有酸素運動は、体に大きな負担をかけない運動ですからほとんどの人は安全に行うことができます。ダンベル上げや腕立て伏せのような無酸素運動に比べて、有酸素運動は筋力の強化に適した運動ではありません。しかし、毎日少しずつでも続けていくことで、筋力の低下を防ぐことは可能です。また、有酸素運動は心臓や肺の機能も改善する効果があります。

 

2. 高齢者と有酸素運動

このように、有酸素運動の効果はダイエットに止まらず、高齢者にも素晴らしい効果をもたらすものです。
今や高齢者の4人に1人は認知症といわれています。高齢者にとって認知症は避けて通れない病気であり、その発症や進行の予防は非常に大切な課題となります。現代の医学では認知症を劇的に予防したり改善したりする薬は発明されていません。その点、有酸素運動は誰でも手軽に行える認知症対策といえます。

また、高齢者は不安感や抑うつ感を訴える人が多くいます。これは脳内のセロトニンの分泌能力が加齢によって低下するためと考えられていますが、有酸素運動はセロトニンの分泌を改善する効果もあり、高齢者の気分変調にはとても効果的と考えられます。
さらに、高齢者は活動性が低下しますから、運動不足になりがちです。有酸素運動は高齢者でも安全に行えますから、運動能力の維持に役立ちます。

 

3. 介護施設での有酸素運動

高齢者と有酸素運動の意外な関係はわかりましたね。では、介護施設で特別な器具を使わずに簡単に取り組める高齢者の有酸素運動を考えてみましょう。

 

3.1 ウォーキング

高齢者にウォーキングは体力的に無理ではないかと考える人もいるでしょう。有酸素運動はあくまで、脂肪と酸素がエネルギーに変わればいいものです。それに必要な運動量は当然人によって違います。高齢者の場合では、若者よりも少ない運動量で効果があるのです。ですから、施設内をゆっくり手すりにつかまって歩くことでもよいのです。
ただし、転倒の危険がある人は必ず職員が見守りをしながら行うようにしましょう。

 

3.2 ラジオ体操

ラジオ体操も有酸素運動の一つです。介護施設ではラジオ体操を日課としているところもあるのではないでしょうか。体力的にラジオ体操全てを行えない人は、自分ができる範囲で取り組むとよいでしょう。立っていることが難しい人は、椅子に座ったままでも行うことができます。
また、毎日決められた時間に行うことで、日常に一つの規則ができ、認知症対策にもなるでしょう。

 

3.3 ストレッチ

高齢者の筋肉は硬く委縮していることが多いですが、ゆっくり時間をかけて無理のない範囲でストレッチを行うだけで有酸素運動になります。寝たきりの人は、ベッドの上で職員が手足のストレッチをするのもよいでしょう。筋力低下を予防するだけでなく、他社と会話をしながら行うことで、脳に刺激が与えられ、認知症予防にもなります。

 

4. 高齢者に有酸素運動は有効!

以上のように、高齢者にとっても有酸素運動は非常に有効な運動です。高齢者は運動を嫌う人もいますが、毎日少しずつ取り組むことが重要となります。介護施設では、ゲーム感覚のイベントやコミュニケーションのツールとても有酸素運動を行うことができます。それぞれの施設で工夫して、有酸素運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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