口腔ケアと認知症の意外な関係

口腔ケアとは、口の中を清潔で健康的な状態を保つための介助ですが、口の中のケアといってもただ単に虫歯や歯周病を予防する効果があるだけでなく、全身の様々な病気を防ぐ効果が期待されます。また、口腔ケアは認知症の発症や悪化を予防する効果もあることが分かっており、介護施設における利用者の口腔ケアは非常に重要な課題なのです。
ここでは、口腔ケアの重要性と介護施設で行うべき口腔ケアについて解説します。

 

1. 口腔ケアによって予防できるもの~認知症の観点から~

口腔ケアは虫歯や歯周病の予防のために行うというイメージがあるでしょうが、清潔な口腔環境は全身の多くの病気を防ぐことにつながります。では、口腔ケアを行うことでどのような病気を防ぐことができるのでしょうか。

 

1.1 肺炎

日本人の死因第三位は肺炎です。これには、細菌やウイルス感染による肺炎に限らず、高齢者が口腔内に溜まった食べ物や唾液を飲み込むときに、誤って気道に入り込むことによって生じる誤嚥性肺炎も含まれています。誤嚥性肺炎は寝たきりの高齢者に多く発症しますが、加齢とともに嚥下能力は確実に低下しますから誰でも発症しうるものです。
誤嚥性肺炎の予防には、口腔内を清潔に保つことが大切です。口腔内が不潔な状態では、誤嚥したものに大量の細菌が含まれ、誤嚥性肺炎の発症リスクが高まります。

 

1.2 糖尿病

口腔内が不潔な状態では、歯周病はどんどん悪化します。最近、歯周病と糖尿病との関係が注目されており、歯周病は糖尿病を発症、悪化させる原因であることが分かってきました。糖尿病は脳の血管に動脈硬化を引き起こし、血行を悪化させることで認知症のリスクを高める可能性があります。
また、一度糖尿病になると治療は一生涯続くものであり、特に高齢者は血糖コントロールが難しく、介護の上でも大きな課題となります。発症、悪化する前に予防するためにも口腔ケアは非常に重要な介助なのです。

 

1.3 咀嚼・嚥下能力の低下

口腔ケアには、口腔内を清潔に保つだけでなく、咀嚼や嚥下能力の低下を予防するための機能的口腔ケアがあります。機能的口腔ケアは介護者が積極的に口や舌を動かしたり、口の中に刺激を与えられることで、口腔機能に関わる筋肉や神経の働きを鍛えようとするものです。たとえ寝たきりで胃瘻を造設した人であっても、口の機能を何も使わないままでいると、嚥下機能が低下し、誤嚥性肺炎になりやすくなってしまいます。ですから、どんな状態の人にも口腔ケアは必要なのです。
また、口を開けたり噛んだりする運動は、脳に適度な刺激を与えて認知機能低下を予防する効果も期待できます。

 

2. 介護施設で行うべき口腔ケアの全て

介護施設では、口腔内を清潔に保つだけでなく、口腔機能の維持を目的とした様々なケアがります。口腔ケアは非常に重要な介助ですが、日本では歯科衛生士の数が少なく、常勤の歯科衛生士がいる施設はほとんどありません。
しかし、口腔ケアは専門的な知識や経験がなくても行わなければならない介助です。では、どのようなことに気を付けてどのような介助を行えばいいのでしょうか。注意点とおススメ方法をご紹介します。

 

2.1 口腔ケアの注意点

・安全で丁寧なケアを心がける

口腔内は柔らかく傷つきやすいですから、無理なケアをするのはやめましょう。特に奥歯の方は見えづらく、つい盲目的にブラッシングなどをしてしまいがちですが、奥までしっかり見える状態で行うようにして下さい。

 

・プライドを傷つけない

利用者の中には、自分の活動能力の衰えを認められず、怒りっぽくなる人もいるでしょう。特に口腔ケアは長年自分自身の手で行ってきた習慣ですから、他人の手を借りなければならない現状に怒りと戸惑いを感じる利用者もいます。ケアの時には、声掛けを行うなど、利用者のプライドを傷つけない配慮が必要です。

 

・時には休ませる

利用者が拒否する介助として、代表的なものは口腔ケアではないでしょうか。介護職員なら誰でも、口腔ケアを嫌がって頑として口を開けてくれない利用者に出会ったことがあると思います。このようなときは、無理に口を開けさせようとせず、休ませるというのも選択肢の一つです。無理強いすると、利用者は益々口腔ケアを嫌がってしまいますから、いつもより強く嫌がっているときには思い切って休ませるとよいでしょう。

 

2.2 口腔体操

機能的口腔ケアに効果的な口腔体操はたくさんあります。その中でも特におススメなのは、「パンダの宝物」という文を大きな声で言うことです。この文を発声することで、口周りの筋肉を鍛えて、口腔機能を改善する効果が期待できます。
また、文が発生できない利用者には、意味のない文字や単語でも発生させるだけで口腔機能の大幅な低下は防ぐことができます。介助しながら、舌を伸ばしたり動かしたりする運動を繰り返すことで嚥下機能の改善も期待できるでしょう。このように、口腔体操は麻痺がある利用者にも、職員が介助をすることで行うことが可能です。

 

3. まとめ:口腔ケアは介護施設に必須の介助!

このように、口腔ケアを怠ると全身に様々な病気が引き起こされる可能性がありますが、適切な口腔ケアは誤嚥性肺炎や認知症の予防につながります。介護施設で行える口腔ケアには、ブラッシングやうがいなどの口腔内の清潔を維持する目的のものと、口腔機能を維持する目的のものがあります。どちらも非常に大切なケアですから、正しい知識を持って適切な介助を続けていって下さい。

 

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