老人ホーム入居待ち数年間を家族と乗り切ったレスパイトケア
認知症の介護においては、大枠でのケアの進め方というような枠組みはあるものの、実際にただ唯一の正解や、ただ唯一正しいケアの方法や道筋、というものはありません。
それはひとえに認知症の症状が多種多様な症状をもたらすことと、そのご本人様やご家族様の家庭環境や、その周辺を取り巻く状況などがケースバイケースでほぼ無限大にあるからです。
ケアマネージャーは決して机上のことだけでは仕事をこなしていくことは出来ません。どれだけの事例を知っていて、どれだけの経験があり、そしてどれだけ先人から事例の共有を受けて勉強しているか、これがポイントです。
様々な経験や今までの知見をもとに、これらのケースバイケースな事例に最も適切で、最もご本人様やご家族様の負担を軽減するような形での、文字通りのマネジメントをするというのも社会道義的な使命でもあります。
今回は認知症ケアマネジメントの事例として、適切なレスパイトケアの支援により認知症の方の老人ホーム入居待ちの数年間を、ご家族と一緒に乗り切った事例について、ご本人様を特定できないような形で脚色し、フィクションという形でご紹介をしていきます。
老人ホームや高齢者介護施設などのいわゆる入所待ち問題に、熟練のケアマネージャーがどのような切り口で対処を行ったか。こちらの事例をご覧ください。構成上、ご家族様の手記テイストでお送りします。
明るかった父が、突然失禁と徘徊をするように
父と母は2人で暮らしていました。私は近所に住んでおり、何かあれば父宅へ訪問していました。たまに外食もしていました。
父と母とも要介護1で、週2回デイケアに通っていました。父母は常に明るく夫婦円満に生活をしていたので、こんな生活がずっと続くものと思っていました。
しかし、徐々に父の様子がおかしくなってきました。まずは尿失禁。
もともとパット式のパンツは穿いていて、時々間に合わないことはありましたが、居間で放尿するようになり、トイレでない場所で排泄をするようになってきたのです。
便失禁も頻回にするようになり、夜間眠らず、自宅内を徘徊するようにもなりました。
そのため母は失禁の後始末や夜間眠れなくなり、それが原因なのか疲労困憊がひどい状況でした。
その様なことが続き、今後どうするか不安で仕方ありませんでした。このままでは父母夫婦が共倒れしてしまうのではないかと…
ここで担当ケアマネに相談
そこで担当してくれているケアマネさんに相談しました。ケアマネさんから「同居は可能か」と質問され「家庭の事情で同居は難しいですが、毎日父母宅に様子を見には行けます」と返事しました。
するとケアマネさんは理由を聞かずに「それでは別の方法を考えましょう。まずは奥さんの疲労を解消することと、なぜご主人が最近になってその様な状況になったかを調べてみましょう。」と言われました。
これを受けて、早速診察の予約を取り受診しました。
MRIの結果、脳の萎縮があることと脳の血管がつまって脳梗塞になっている事が判明したのです。
梗塞巣は小さく症状としてはそこまで重篤ではないということで、血管をさらさらにする薬を出してもらいました。
脳の萎縮の方は残念ながら治すことはできないと言われました。
症状の進行を遅らせる薬があるのでそれを出して様子を見ましょう。ということで、病名としてはアルツハイマー型認知症になりました。
正直ショックでしたし、認めたくありませんでした。昔の父のことを思い出し涙が止まりませんでした。けれど、このまま何もしないわけにはいかないので、診察の結果の報告を兼ねてケアマネさんに相談にいきました。
診察内容を話し、今後どうしていけば不安であることを相談しました。
ケアマネさんは「それは大変でしたね、先生の言う通り現在の医学では認知症を治すことはできません。そのため、現状を整理しどのようにしていくか一緒に考えましょう」と優しく言ってくれました。
「前にも話しましたが、奥さんの疲労を除去することから始めましょう。介護保険には短期の預かりをしてくれるサービスがあるので、それをまず利用しましょうか。奥さんには家で閉じこもりも避けたいので、デイサービスをもう1日ふやしてみますか。」と言われました。
そのため、まずは父の短期の入所から手続きをすることになりました。
施設の方はどこに何があるかも分からないのでケアマネさんにおまかせしました。そうして短期の入所をスタートさせました。父が短期の入所で不在の間は母を私の自宅に引き取り、体をやすめてもらうようにしました。
ケアマネさんと考える、将来の為の一手
ケアマネさんからは、将来的なことを考え、老人ホームの入所の申し込みをしてみてはどうであろうかと勧められ、申し込みをすることにしました。私の住む市内では5か所老人ホームがあり、5か所すべて申し込みしました。しかし、どこも満員ですぐには入ることができないことと、平均2~3年ほどは待機が必要とどの施設の受付の方には言われました。
その足でケアマネさんのその件を伝えたところ、「老人ホームは確かにすぐには入所できないことは確かに本当のことです。しかし、見方を変えればそこが在宅介護のゴールと設定することにより、在宅介護の期間がある程度予測がつきます。それを逆算して介護をしていくのと、漠然に介護していくのには大きな違いがあります。これで将来的な目途はたちました。後は明日以降のことを考えましょうか」と言われました。
そこで闇の中から光が差し込むような感じがしました。
しかし、父親の認知症はますます悪化してきてついには外に出て徘徊するようになり、警察の方にも何回もお世話になりました。その様子は逐一ケアマネさんに報告していたので、ケアマネさんは「このままでは在宅介護は正直難しいですね。老人ホームもいつ空きがでるかも今の段階では予想がつかないので、認知症のグループホームを紹介するので見学に行ってみてください。それでよさそうであれば申し込みもしてみてください。」と言われたので数か所見学に行ってきました。
その中に1か所だけ空きがあるのですぐに入居が可能であると言われたのですぐに申し込みしました。そして1週間後には入居ができました。
そのことをケアマネさんに報告したのですが、「今までよく頑張りましたね」と労いの言葉をかけてもらい、涙が止まりませんでした。ようやく在宅介護から解放される安堵感もあったのでしょう。
その後、自宅を改築し、母とは同居(母も脳出血になり手術しました。身体的な後遺症は残りませんでしたが失語と若干の認知症状あるため)するようになりました。担当してくれていた、ケアマネさんが退職され担当が変更にてその点が不安があるのですが、できるだけ長く母とは在宅生活を送れるようにしていきたいと思っています。