介護施設で虐待が起こる原因分析【2019年新聞報道よりまとめ】

厚生労働省は2018年度の高齢者虐待件数を発表しました。介護施設職員らによる虐待件数は過去最多621件(前年度比111件増)となったうえに、死亡事故も発生するなど介護現場に衝撃を与えました。今、介護施設では何が行われているのか。2019年度の報道から虐待の要因を分析しました。

 

介護施設での虐待件数

介護施設の職員らによる虐待の相談・通報は2187件(同289件増)で、自治体はそのうち621件を虐待と判断しました。もっとも虐待行為が自体が増加しているわけではなく、虐待が周知されたことにより通報件数が増加したと考えられます。虐待の内容は、暴力や身体拘束などの「身体的虐待」が533人(57.5%)で最も多く、侮辱するなどの「心理的虐待」が251人(27.1%)、「介護等放棄」が178人(19.2%)で、死亡したケースも1件(1人)発生しています。

 

2019年に起こった虐待事件

厚生労働省は虐待発生の要因を「教育・知識・介護技術等に関する問題」、「職員のストレスや感情コントロールの問題」、「倫理観や理念の欠如」、「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」などと報告しています。2019年に報道された虐待事件の一部を抜粋しました。

 

■職員のストレスや感情コントロールの問題

福岡県太宰府市のグループホームで、女性入居者の顔を殴り、両目にあざなど全治約1週間のけがを負わせたとして介護士が逮捕された。介護士は「ストレスがたまりイライラしていたので、つい手が出てしまった」と容疑を認めている。施設の運営会社は「暴行を防ぐための研修は十分にしてきたつもりだが、こうした事が起きてしまい申し訳ない」と話した。

岐阜県下呂市の特別養護老人ホームで、入居者の男性の顔を平手打ちしたり額を指で弾くなどの暴行をした疑いで男性職員が逮捕された。男性職員は暴行を認めた上で「家庭問題などでイライラしていた」と説明している。

北海道日高町のグループホームで、施設長の女が、入居者の女性を雨が降って寒い屋外に一時置き去りにしたとして再逮捕された。「ストレスがあったからやった」などと容疑を認めている。施設長は入居していた男性の顔を殴りけがを負わせた疑いですでに逮捕・起訴されている。また、この施設は2016年、虐待の通報を受け町が業務改善を求める勧告を受けていた。

射水市の介護老人保健施設で、入所していた女性の頭部を複数回にわたり殴りけがをさせたとして、介護福祉士の男が逮捕された。男は「イライラして複数回殴った」と容疑を認めている。

大阪府門真市の介護老人保健施設で、介護士が女性入居者を殴り、眼球を破裂させる大けがをさせた。介護士は「オムツを交換した際に抵抗され腹が立った」など容疑を認めている。

横浜市のデイサービスの介護士が施設の食堂で男性の食事の介助をしていた際に、素手で顔面を複数回殴って重傷を負わせた。取り調べに対して「暴言を我慢していたが、怒りが頂点に達して殴ってしまった」と容疑を認めている。

岡山市中区海吉の特別養護老人ホームで、介護士がベッドに座っていた利用者の女性に車椅子をぶつけて左足のすねにけがをさせた疑いで逮捕された。利用者の女性は重度の認知症で、介護士は「度重なるナースコールや理不尽な言動に腹が立った」と容疑を認めています。

 

■倫理観や理念の欠如

広島市東区の特別養護老人ホームで、30代の男性の従業員が女性の入居者に対し着衣の上から胸を触るなど性的虐待をしたほか、20代と30代の男性従業員2人がそれぞれ女性の入居者に対し、「くそばばあ」、「この施設から出ていけばいいのに」と発言する心理的虐待をしていたことが内部告発により判明した。

松江市の特別養護老人ホームで、女性入居者がベッドから転落して骨折した女性を速やかに病院に搬送しなかったことが明らかになった。夜勤の女性職員がベッドの柵を外した際に転落。ベッドに戻したが、3時間後の見回りの際に鼻血や顔の腫れが確認されるまで救急車を呼ぶなどせず放置した。「職を失うかもしれないととっさに考え、言い出せなかった」と話している。

 

■人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ

鹿児島県日置市の住宅型有料老人ホームで、女性入居者の左顎付近を右肘で打つなどの暴行を加えて傷害を負わせたとして介護士が逮捕された。介護士は当時1人で勤務していたが、容疑者の後に勤務に入った職員が、女性の顔にあざがあるのを発見。防犯カメラに同容疑者が肘打ちする様子が映っていたほか、施設の聞き取りに殴ったことを認めたため、施設長が同署に届け出た。

新潟県阿賀野市の特別養護老人ホームで、介護士の男が女性入居者を暴行し、けがを負わせた疑いで逮捕された。男は容疑を認め、「女性が言うことを聞いてくれないので、不満がたまっていた」などと話している。1人で入所者18人を担当していた。

 

■虐待ではなく犯罪

横須賀市のケアハウスで、入居者の女性の首を背後から腕で締め付けるなど窒息させて殺害したとして、横浜地検は元職員を殺人罪で起訴した。元職員は被害者の口座から現金15万円を引き出したとして、窃盗の疑いで2度にわたって逮捕されていた。殺人容疑について認める供述をした上で「金を盗んだのが発覚して施設を辞めさせられるのが嫌だった」と話しているという。

 

■もはや施設公認?

宮崎市の有料老人ホームで、女性入居者に施設の男性職員が車イスから降ろして横たわらせ、威圧するような言葉を発するなどの虐待を受けていた。この職員は他の複数の入居者に対しても心理的虐待を行っていていたが、施設は虐待を把握しながら入居者の保護や市への速やかな報告を怠っていた。

熊本県菊池市で訪問介護事業所や有料老人ホームなどを運営する事業所で、家族の同意を得ずに柵などを使ってベッドから出られないように入居者の体を拘束したり、医師に指示された薬を投与しなかったり、床ずれを主治医に報告しなかったことなどが明らかになった。中には床ずれで骨まで見える入居者もおり、県は人格尊重義務違反による行政処分を下した。

宮城県大衡村の特別養護老人ホームで、複数の職員が入居者に対し、暴力などの虐待を加えていた疑いがあることが判明した。職員が車いすに座っている女性入居者の頭を素手で叩いたり、別の職員が女性入居者2人の手首などをひもでベッドにくくりつけていたりするのを、ほかの職員が目撃していた。同施設では「内部調査では、虐待は確認されなかったが、村や県の調査に全面的に協力したい」と話している。

 

虐待は介護職員だけの問題ではない

厚生労働省は虐待の要因として「教育・知識・介護技術等に関する問題」をトップに挙げていますが、今回の独自調査で「職員のストレスや感情コントロールの問題」が最も多いことが分かりました。介護業界は玉石混淆なため、精神的に問題を抱えている人も少なくありませんが、個人の資質だけでなく、利用者や家族によるセクハラやパワハラや、事業者が労働環境に理解を示さないこともストレスになっています。

ストレスが溜まったからと言って虐待が許されるわけではありませんが、介護職員の精神状態が極限になる前に過度な要求をする利用者や家族に対するペナルティを設けるなど、事業者が職員を保護する体制を作る必要があります。人が人らしく働ける環境を整えない限り虐待はなくならないでしょうし、介護の仕事を目指す人も増えることはないでしょう。

 

 

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