広がる再エネ電力の広域活用
電力自由化に伴い太陽光発電などの再生可能エネルギー電力(再エネ電力)のニーズが高まっています。再エネ電力事業はこれまで、エネルギーの地産地消による地域おこしの一環として進められてきましたが、ここにきてニーズの増大や、国による再エネ電力の比率拡大などから、再エネ電力を広域的に活用する動きが広がってきました。企業や自治体による再エネ電力広域活用の具体的な動きを追っていきます。
NTTスマイルエナジーが「太陽のでんき」を提供
新電力会社のNTTスマイルエナジーは、このほど同社の電力プランである「太陽のでんき」の提供を開始しました。「太陽のでんき」は同社の提供する再エネ電力の商品名で、同社の太陽光発電遠隔モニタリングサービス「エコめがね」提供先の全国のオーナー向けに、昼間(8:00~16:00)の時間帯にFIT電気(固定価格買取制度による交付金を受けた再エネ電気)100%で提供されます。
通常、太陽光発電システムを設置した電力ユーザーは、日中、太陽光発電システムが稼働している時間帯は、太陽光発電で電力をまかなうことができますが、曇りや雨天、夜間などは、電力会社から電力を購入する必要があります。その場合の電力は、電力会社の電源構成により、石炭、天然ガスなどの化石燃料による電力となります。
全国8000ヵ所の設備から電力を調達
「太陽のでんき」の場合、文字通り100%の再エネ電力であり、その電力は、NTTスマイルエナジーが新電力会社のエネットと共同で調達する、太陽光発電の買取サービスによる電力です。太陽光発電の買取サービスは、NTTスマイルエナジーが2011年の設立以来、「エコめがね」の販売を通じて各地の太陽光発電販売会社(販売パートナー)と共同で築いた太陽光発電調達ネットワークです。現在、全国8000ヵ所の太陽光発電設備から、発電電力を調達することができ、調達した電力を全国の「エコめがね」オーナー向けに販売するというわけです。
「エコめがね」は、NTTスマイルエナジーの主力事業で、太陽光発電設置ユーザーに対するモニタリングサービスを実施しています。一般家庭はもちろん、オフィス、事業所などの発電設備設置者の遠隔監視による設備の保守・メンテナンスに役立てています。現在、全国で4万ヵ所、計87万kWの太陽光発電システムの監視を行っています。
天候に左右されず安定した電力を供給
今回の「太陽のでんき」の提供は、「エコめがね」の4万ヵ所、87万kWのうちの8000ヵ所、約27万kWのシステムから買い取った電気を提供するものです。全国の太陽光発電設備から調達する電力は、どこかの地域の天候が不安定でも、発電設備の地域が分散していることにより、安定して電力を供給できるというメリットがあります。つまり、太陽光発電電力の調達地域を広域化することで、天候に左右されずに安定した電力を供給できるわけです。夜間には、エネットによる天然ガス火力などの電力を供給します。再エネ電力、とりわけ太陽光発電や風力発電は、出力の不安定さが最大の泣き所です。その不安定さを、発電設備の広域化によって、最小化する試みといえます。ちなみに「太陽のでんき」の料金単価は、大手電力会社の従量電灯料金とほぼ同等とされています。
神奈川県は県域全体で供給システムづくり
全国規模の再エネ電力の調達ではありませんが、県域全体での再エネ電力の供給システムづくりを目指しているのは、神奈川県です。神奈川県はこのほど、小売り電気事業者に対して、県内の太陽光発電などの分散型電源から電力を調達し、県内の家庭や事業所に電力を供給する新たな地域電力供給システムの構築に向けて補助金を交付するビジネスモデルの公募を始めました。太陽光発電などの分散型電力は、従来、電力の地産地消が中心でしたが、神奈川県の場合、県域全体での新たな地域電力供給システムづくりという点で注目を集めています。
小売り電気事業者が電源を確保
同県の地域電力供給システムの中身は、まだビジネスモデルの公募の段階なので、輪郭しかわかりませんが、現在、個別の地域で行われているエネルギー・電力の地産地消を、県の計画のもとに進めようという点に狙いがあります。神奈川県では、現在、省エネ・節電と再生可能エネルギーの導入拡大をめざす「かながわスマートエネルギー計画」を推進中です。この計画を実現するため、小売り電気事業者が太陽光発電などの分散電源を確保し、情報通信技術(ICT)や蓄電池などを活用して電力需要を効果的に管理しながら、既存の送電網を使用して、地域の家庭や事業所などに電力を供給するという仕組みが、新たな地域電力供給システムの概略となっています。
2030年度に分散型電源比率を45%に
「かながわスマートエネルギー計画」は、2014年4月に閣議決定された国の「エネルギー基本計画」を踏まえ、県のエネルギー計画として策定されました。計画では、県内の年間電力消費量を2020年度で、2010年度比10%削減するとともに、電力消費量に対する再生可能エネルギーなどの分散型電源の発電量割合を2020年度で25%に、2030年度には45%に高める目標を打ち出しています。この目標を実現するための手段が、今回の新たな地域電力供給システムの構築といえます。
一部地域で電力会社が再エネ受け入れをストップ
自治体や企業の間で、再エネ電力の広域活用が動き出したのは、一つには、国のエネルギー基本計画で再エネ電力の目標が大幅に引き上げられたことです。原子力発電の稼働停止などを踏まえ、従来数%に過ぎなかった再エネ電力の電源比率を、2030年度には原子力発電を上回る22~24%程度に引き上げられることになりました。それと、もう一つ見逃せないのは、2012年7月から実施された再エネ電力の固定価格買取制度(FIT制度)によって、再エネ発電事業者、とりわけ太陽光発電事業者が急増し、一部の地域では、電力会社が再エネ電気の受け入れをストップする事態を招いたのです。
再エネ電力は、自家消費は別として、発電事業者が、ビジネスとして発電を行う場合、電力会社の送配電線(電力系統)に接続して、発電電力を買い取ってもらう必要があります。この接続申込が一部地域で急増したことから、電力会社が接続に“待った”をかけたのです。
再エネ電力、とりわけ太陽光発電や風力発電は、お天気、風まかせの電力であり、出力変動の大きいことが、系統への接続のネックになっているのです。出力変動の大きい電力を系統に接続した場合、電圧や周波数に変動をきたし、工場などにおける製品の製造やコンピュータなどに悪影響を及ぼすだけでなく、地域によって停電の事態を招きます。
電力系統では、出力が安定し、電圧や周波数に変動のない、品質の一定した電力が望まれます。出力変動の大きい再エネ電力を受け入れる場合、電力会社には、変動を調整するための調整電源の稼働が必要になります。火力発電や水力発電などによって、再エネ電力の変動を平準化する必要に迫られるのです。従来のように、個別の地域電力会社では、調整電源に余裕がなく、再エネ電力の平準化に限界があります。
広域活用で接続のネックを解消
そうした再エネ電力接続のネックを解消する方策として、クローズアップされているのが、再エネ電力の広域活用なのです。例えば、再エネ電力の受け入れに余裕がない地域でも、地域間連系線を利用して、受け入れに余裕のある地域に再エネ電力を送れば、有効に活用してもらうことができます。地域単位では、再エネ電力の受け入れ可能量に一定の限界があっても、全国規模では、受け入れに余裕のある地域もあり、再エネ電力を無駄なく、効率的に活用できることになります。
まとめ
経済産業省は、電力の全面自由化のタイミングをとらえ、再エネ電力の拡大のため、現在、地域連系線の利用ルールの見直しなど、広域的な運用方策の検討を急いでいます。そうした国の動きに歩調を合わせた取組が、企業や自治体の再エネ電力の広域活用策といえます。出力変動という再エネ電力のネックを解消しながら、その利用、拡大を図る取組が始まったといえそうです。