介護施設のトラブル解決に必要な「ニーズ」の視点

サービス業は人と人が関わる業界なので、様々なトラブルが発生するかと思います。そのトラブルが発生したときに、しっかりと解決することができなければ、人は離れて行くことになります。それは顧客でも取引先でも従業員でも同じです。今回はトラブルの的確な解決に必要な「イシュー」「ポジション」「ニーズ」について紹介します。

 

人が離れる(トラブルが発生する)のは「不満があるとき」

人が離れて行く簡単な原因はその人が抱える不満にあります。従業員でもお客さんでも企業に対して不満があれば、すぐに離脱して次の選択を行うことができます。そのため、人を繋ぎ止めるために考えるべきは、この不満を「どうやって解消するか」という部分です。その人が持った不満をしっかりと解決することができれば、人は簡単には離れて行きません。逆に言えば解決することができなかった場合には、よほど競合他社との差がない限り、確実に離れていくことになります。そしてここに明確な解決法を持っていなければ、企業として成長することは難しくなってきます。

 

3つのキーワードで不満を考える

不満を解決する道筋を明確にするために押さえておいてほしいキーワードが3つあります。それが、「イシュー」「ポジション」「ニーズ」の3つです。以下にそれぞれを詳しく解説します。

・イシュー
「イシュー」は問題のことで、自分と相手との間で発生した問題を指します。例えば、販売した商品に対してお客さんから寄せられたクレームは店側とお客さんの間で発生した「イシュー」であると言えます。

・ポジション
「ポジション」とは「イシュー」に対する双方の解決策のことを指します。先のクレームで言えば交換や返品といったところでしょうか。

しかしながら、この「ポジション」を明確にしてその答えを出したのに、それだけでは解決しない問題が多くあります。それが次の「ニーズ」に関わるものです。

・ニーズ
「ニーズ」は不満を表明した側が持っている「裏の不満=本当に解決すべき不満」のことです。クレームの問題で言えば、商品に対するクレームは事の表面でしかなく、本当は「いつもレジにいる店員の態度が気に入らなかった」という具合です。この場合、クレームを入れた相手は商品の返品交換を求めてきますが、それに合わせて返品交換をしたところで問題の解決にはなりません。結果としていくら「イシュー」に対する「ポジション」を明確にしたところで、その顧客は離れていくことになります。本当に解決すべき課題(ニーズ)は店員の態度だったのです。「イシュー」が発生したら「ニーズ」に合わせた「ポジション」を取ることが大切になります。

 

介護施設で起きたトラブルの事例

ここでは実際に介護施設で起きたあるトラブルを紹介します。

ある介護施設で利用者(A)が「部屋の前の廊下を歩くスリッパの音がうるさいのですが」という不満を言ってきました。事業所ではやむなくAの部屋の前にカーペットを敷き、スリッパの音が響かないようにしました。
しかし翌日Aから「隣の部屋から聞こえるテレビの音がしてうるさいくて寝ることができません」という不満を伝えてきます。これに対して、事業所側はうるさいと言われた隣の利用者(B)に、テレビの音をできる限り小さくすることと、設置する場所を反対側にしてもらうようにお願いします。
しかしまた翌日、隣の部屋の話し声が……。

この問題は延々に繰り返されることになります。なぜなら「ニーズ」をはっきりととらえることがでいていないからです。度重なるAのクレーム(「イシュー」)は音に対するものだったので、事業所は音に対する解決ばかりを行っていました。
後日、Aの持っていた「ニーズ」が判明したのは「Bは私を憎んでいる」という言葉からでした。実はAとBの間には過去に個人的なトラブルがあり、そのせいでAはBの行動すべてが気に障るようになっていたのです。テレビの、スリッパ、話し声、すべてのクレームは音ではなくBとの人間関係にあったのです。

この度重なるAからの要求にBも不満を募らせ、この問題は最終的にAが別の施設に移ることで解決するしかありませんでした。もし施設側が二人の間のトラブルに早めに気づくことができ、「音がうるさい」というクレームの時点で「ニーズ」に合わせた適切な対処を行うことができればそれほどまでの関係悪化はなく、Aが施設を去ることもなかったかもしれません。事業者側がとるべき「ポジション」は音の問題を解決することではなく、人間関係(「ニーズ」)を解決することだったのです。

 

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