介護福祉の未来|積極的な技術の導入と『論語と算盤』感覚の浸透を

藤田英明代表は大学時代から社会福祉に関心を持ち、自身も現場での介護職員を経験、その後27歳で独立し、現在700を超える介護施設(デイサービス)をフランチャイズ展開する日本介護福祉グループの創業者です。また、全国通所介護事業者連絡会代表にも就任し業界全体の調整やPRを行う一方で、政府への提言、IT業界と連携した新世代の介護技術の開発などにも積極的に関わっています。今回は藤田代表に「介護福祉の未来」について話を伺いました。

 

――まず全体の動向について伺いたいのですが、介護報酬の下方修正など、介護福祉全体を取り巻く環境は難しくなってきているのではないかと感じますが、藤田様は現在の介護福祉現場をどう見ていますでしょうか?

昨年度の介護報酬下方修正は実は、大きな流れから見れば当然と思えるものでした。というのも、2000年の介護保険法施行以降、その額は上昇を続けていたので、どこかで下方修正があるのは当然予測していました。その上で次の動きを考えなければなりません。

現在の日本における高齢者人口はアジアの中でも群を抜いています。しかし、2050年には中国や韓国といったアジア諸国でも日本と同程度の水準で高齢化が進みます(下記図1)。そうなる未来を鑑みると、例えば国外の人材に介護福祉現場での労働力を見出すといった解決策以上に、より大きな視点で介護福祉の現場を取り巻く状況を抜本的に変えていく必要があります。介護福祉業界全体の未来を考えたときには介護報酬などの問題のみならず、その他の面でも積極的にアプローチする必要があります。

2050年現在東南アジアにおける人口構造

 

――具体的にはどういったアプローチが考えられるのでしょうか。

一つはIT技術の活用ですね。現在、様々な分野で技術の進歩が見られますが、介護福祉の現場でも応用可能かつその構造を抜本的に変革するような技術はたくさんあります。
例えばこの図(下記図2)は介護施設でのIT活用時の効果試算ですが、介護現場においてIT活用を積極的に進めることで約40%の間接労働を削減することができる計算になります。

間接労働とは職員の利用者への直接的なサービスではない部分の労働で、例えば書類の作成などです。規模にもよりますが、このケースでは施設内では1日で80時間の労働時間を削減することができます。

介護ロボット・IT活用による効果試算

 

――1日で80時間はすごいですね。削減出来た労働力はどういった点に充てることになるのでしょうか。

まずは残業の削減ですね。介護福祉業界では多くの施設で残業が常態化しています。これは老人福祉法が成立した1963年の時点での問題を含んだもので、非常に根の深いものです。特に人材確保で買い手市場であった当時から介護福祉業界は「低賃金、長時間労働」が根付いていました。

この点を解決しうる方策として削減できた分の労働時間はまず残業をなくすということに充てることが重要です。また同時に、介護サービス全体のクオリティーを高めることにもつながります。当然ですが日常的に発生する間接業務が軽減されることで、スタッフが利用者と接する時間をしっかりと確保することができます。そうすると場当たり的な介護ではなく、一人一人をしっかりとサポートすることが可能にもなります。さらに、大規模な施設になってくると、受け入れることのできる人数も大幅に変わってくるかと思います。業界全体の未来を考えたときにサービスを利用できる人が増えること、働く人が満足な環境下で働くことができることが重要です。

 

――構造的な部分と合わせて、介護福祉の未来、そのクオリティー自体を変えていくような技術などもあるのでしょうか

例えば、私もお手伝いさせていただいているところでは、「DFree」と呼ばれる排せつを事前に知らせる製品があります。これは、利用者の腹部にテープ型の機器を取り付けそこから発せられる超音波によって利用者の膀胱や腸の様子を把握し、排せつの10分ほど前にインターネット接続しているタブレットにその情報を知らせるものです。そのため、通知を受けてからスタッフは利用者をトイレに誘導することができます。そして、利用者はトイレで自然に排せつをすることが可能になり、オムツをする必要性がなくなります。

利用者の意思にはかかわらず、排せつの瞬間はきます。これに対応するために多くの介護福祉の現場では利用者が成人用のオムツを利用しています。しかし、オムツに排せつした場合にはその発見が遅れ、私自身も以前体験してみたことがあるのですが、その不快感はかなりのものです。さらにオムツへの排せつ後時間が経つと褥瘡(褥瘡)も発生しやすくなります。

また、オムツ替えの際にもスタッフは当然必要になりますし、その労働時間は看過できません。こういった排せつに関わる技術は介護福祉業界と親和性の高い技術であると思います。さらに言えばこの技術には発展性があり、排せつしたものをそのままデータで管理して、日々の医師の診断に用いることも考えています。排せつという一連の行為の中からよりクオリティーの高い介護サービスにつなげるヒントを探っています。

 

――非常に興味深い技術ですね。トイレで排せつできることはやはり気持ちの面でも違ってきそうです。また、その際に自分でオムツを体験してみたというところも。こういった利用者の側に立ったサービスについて、そう思いたった経緯といいますか、介護福祉を考えるときに藤田様が大切にされていることなどをお聞かせください。

介護福祉の現場は利用者にとって最後の時間を過ごす場所です。そのため、利用者にとってのより良い環境をつくっていくことは介護福祉サービスに携わるものの使命です。介護の現場でその最後の時間を一緒に過ごす者として意識したいのは、思いの部分に留まらず金銭的な部分もしっかりと把握して、それに見合うクオリティーを実現することだと感じています。渋沢栄一の著書にある『論語と算盤』の考え方です。これは未来を担うスタッフの育成においても重要な視点です。

渋沢栄一著『論語と算盤』

――『論語と算盤』ですか。そういった視点でのスタッフの育成について、もう少し詳しくお話いただけますか。

介護福祉分野で働くスタッフは、その多くが熱意を持って仕事にあたっています。その一方で、多くの介護福祉施設でサービスを提供する側、特に現場で働くスタッフは「そのサービスがいったいいくらで行われるサービスなのか」を知らない場合がほとんどです。例えば、ラーメン店では提供されるラーメン1杯がいくらであるかスタッフの一人一人が把握しているのに、介護福祉の世界ではそうではないのです。ラーメン屋と比べるなとお叱りを受けそうですが。。

――確かにお金の話をし辛い雰囲気は業界全体、特に現場にはあるのかもしれませんね。

そうですね。極端な例かもしれませんが、デイサービスの場合を考えれば、介護報酬分と合わせてサービス自体には約10,000円がかかっています。ディズニーランドでは約7,000円の入場料で一日楽しむことができます。介護の現場で働く者はそういったことも頭に入れておかなければなりません。単純に比較できない部分もありますが、「私たちはディズニーランドに負けない、むしろそれ以上のサービスを実現しなければならないんだ」という気持ちを持ってスタッフ一人一人が介護に携わることも重要です。

そういった金銭的な部分と、先に言った「最後の時間を過ごす場所にいる」という介護福祉分野で働く思いの部分をしっかりと両立させてこそ、利用者とスタッフ双方にとっても本当に良いサービスの提供ができると思います。どちらかに偏って、どちらかが強すぎても弱すぎてもうまくいきません。『論語と算盤』に代表される、その思いと金銭的な部分のバランスが大切です。経営者はそういった感覚をスタッフに伝えていき、自信を持って仕事に取り組むことのできるような環境を整えていくことも今後の介護福祉分野を考えた時には重要になってくるかと思いますね。

日本介護福祉グループ藤田代表は、バイタリティー溢れるエネルギッシュな方でした。介護の現場から発想された様々な取り組みは、今後の業界全体の未来を変えていくものだと確信させてくれるものがありました。
・広い視野に立って介護福祉業界の未来を考えたとき、働き方やクオリティーの面で介護福祉分野では抜本的な構造の変化が必要
・積極的な技術開発と現場への導入が一つのポイントになる
・働くスタッフのことを考えると、一人一人が『論語と算盤』に代表される「思い」と「お金」のバランス感覚を養っていく必要がある
こういった取り組みが全国の介護福祉事業者に共有されることに期待したいと思います。また、日本における潜在的な介護福祉分野の熟練職員の数は、実に今働いている業界全体の職員数の1.6倍にも上るそうです。藤田代表はそういった、熟練職員と介護福祉施設のミスマッチを無くし、最善の環境で一人一人が働くことも重要であるとして、現在、介護職員と介護施設のマッチングサービス「SCOUT ME KAIGO」も株式会社けあらぶで開発中です。これら一つ一つの取り組みが介護福祉業界全体の未来をよりよいものにしていくことを願います。

 

株式会社日本介護福祉グループHP:http://www.jcgroup.co.jp
株式会社けあらぶHP:http://carelove.jp

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